064 異世界の天気
【作品タイトルを変更しました】
旧:異世界の無人島で美少女たちとスローライフ ~極めたサバイバル能力で楽しく生きます!~
次の日――。
「やれやれ、お前たちときたら……!」
朝、俺は大きなため息をついた。
女性陣の大半が疲労困憊による休暇を申し出たからだ。
理由は海ではしゃぎすぎたこと。
歓喜のあまり羽目を外しすぎたのだ。
「無理は禁物だから今日は休みとする!」
第二拠点の中央――俺たちが「広場」と呼ぶスペースで宣言した。
「よっしゃあああああああ!」
と喜びつつ、「あいたたた」と痛そうにする千夏。
彼女は特に酷くて、全身に筋肉痛の症状が出ていた。
「私は元気だからいつも通り料理を作るね!」
両手に拳を作って元気をアピールする明日花。
「明日花先輩、なんで平気なんですかー!?」
そう言う七瀬もお疲れの様子。
地面にペタンと尻を突いて両膝を立てている。
腰蓑の奥に潜むパンティーが垣間見えた。
「なんでだろ? 疲れにくい体質なのかも!?」
「すごすぎですよー!」
「明日花は元気だとして、あとは……」
目の前に座っている女性陣の顔を見ていく。
「由芽くらいか、海で遊んでいても元気なのは」
由芽が「はい!」と笑顔で頷いた。
控え目な性格により筋肉痛を逃れられたようだ。
「真面目に塩を精製していた俺と吉乃を含めても四人しか動ける者がいないとは、なんと嘆かわしいことか」
「大丈夫! 美味しいご飯を食べてたくさん寝れば元気になる!」
明日花の言葉に、俺は「そうだな」と笑った。
「今日は動ける者だけ活動しよう。明日花と吉乃は料理の準備を頼む」
「「了解!」」
「海斗先輩、私は……?」
「由芽は俺と一緒にアナグマの回収に行こう。罠に掛かっているであろう獲物をそのままにはしておきたくない」
「はい! あ、先輩、もんどりはどうしますか?」
「もう回収済みだよー」と明日花。
「早ッ。すごいです!」
明日花は「ふふーん」と胸を張った。
「ということなので、今回はアナグマのトラップだけ見て回ろう」
「分かりました!」
「他のポンコツどもは家で大人しくしているように! 以上、解散!」
かくして14日目が幕を開けるのだった。
◇
サイに騎乗して川まで行き、そこからは歩いた。
わざわざ徒歩に切り替えたのはサイの事情によるものだ。
内側の森には行きたくないとのことだった。
「ここの動物にも縄張りがあるんだなぁ」
由芽と二人で内側の森を歩く。
「でも、明確に守っている感じではないですよね?」
「たしかに。千夏に同行して川を渡ったサルもいるし、逆に内側の森から遊びにきたカピバラも見かけた。ジョンだって気にせず往来している。動物の種類によるのかもしれないな」
歩き続けることしばらく。
最初のトラップポイントに到着した。
「お! ウサギじゃん!」
アナグマではなくウサギが掛かっていた。
右の後ろ肢を吊り上げられて身動きがとれないでいる。
逃げるのを諦めて大人しくしていた。
「サクッと仕留めて――」
「海斗先輩、私にやらせてください!」
由芽は背負っている籠から柄の付いた石包丁を取り出した。
「よし、ではお手並み拝見といこう」
「はい!」
由芽がウサギに近づいていく。
すると――。
「ピィ!」
これまで大人しかったウサギが暴れ始めた。
殺されると分かって抵抗しているのだ。
しかし、そう都合良く罠が外れることはない。
「ごめんね」
由芽は近くの石を拾い、それでウサギの頭を強打。
ウサギが失神もしくは死亡して大人しくなると、急所を石包丁で一突き。
完璧だった。
「大したものだ」
「ありがとうございます!」
仕留めたウサギを地面に下ろす。
「血抜きもしますね」
「おう」
由芽がその場で次の作業に移る。
ゆっくりではあるが、的確で迷いがない。
安心して見ていられた。
「終わりました!」
「いつの間にか立派に成長したな」
「そう言ってもらえると嬉しいです!」
「この調子で他のポイントも回ろう」
「はい!」
◇
全ての罠を点検した。
その結果、今回は半数近くをウサギが占めていた。
「さすがにそろそろアナグマが掛からなくなってきたな」
川にやってきた。
獲物を解体するためだ。
「どうしてなんでしょうか?」
「そりゃ罠の設置場所がずっと同じだからな」
「警戒されているわけですね」
「そういうことだ。というか、むしろポイントを変えずにこうも捕獲できているのが奇跡なんだけどね」
「そうなんですか?」
「少なくとも地球じゃ考えにくい」
由芽と話しながら解体作業を進めていく。
「異世界のアナグマは特殊なんですか?」
「そうだなぁ。これは俺の推測だけど、たぶん内側の森にあるアナグマの巣穴は全て繋がっている」
「繋がっている!?」
「地球に存在するものでもそうなんだけど、アナグマの巣穴って入口が一つじゃないんだ」
「数カ所あるわけですか」
「数カ所どころか、時には数十箇所に及ぶこともある」
「数十!? 多いですね」
「そういう巣穴はもちろん広大で、複数の家族が共同で生活をしているケースも多い」
「内側の森に生息しているアナグマの巣穴は、それをさらに大規模化したってことでしょうか?」
「俺はそうじゃないかなと思っている。なにせ1週間以上も連続で罠に掛かっているからな」
「なるほど」
アナグマについて話している間に作業が終わった。
肉と毛皮に分けてまとめる。
「これを第二拠点に持ち帰ったら終了ですね!」
「そうなんだけど……」
「どうかしたんですか?」
由芽が顔を覗き込んでくる。
「いや、肉と毛皮を持ち帰った後のことを考えていたんだ」
「後のこと?」
「第一拠点の洞窟に備蓄してある薪を第二拠点に移そうかと思ってな」
今後は第二拠点をメインに使う可能性が高い。
海に近いからだ。
「それも手伝いますよ!」
「いやいや、一人で大丈夫だ。千夏たちほどではないにしろ、由芽だって海で遊んでいたから疲れているはず。適当なサルにでも手伝わせ――って、ん?」
話している最中のことだ。
頬にピチョンと何かが当たった。
「これは……」
すっかり忘れていたので、一瞬、何か分からなかった。
「雨だ!」
次の瞬間、空からパラパラと雨が降り始めた。
「わわわっ、海斗先輩、どうしたら……」
右往左往する由芽。
「このままだと風邪を引く。ひとまず洞窟に避難しよう」
不運なことに、今の場所から石橋までは距離がある。
そのため、第二拠点まで戻るには時間がかかってしまう。
だから洞窟を選択した。
「ぬかるみに気をつけろよ由芽!」
「は、はい!」
小走りで洞窟を目指す。
決して近いとは言えない距離だが、それでも難なく到着。
「ふぅ……!」
ホッと胸をなで下ろす由芽。
「安堵するのはまだ早いぜ。火を熾して体を温めないと」
残念なことにファイヤースターターを持ち合わせていない。
便利な道具なので第二拠点に置いてきた。
しかし――。
「ほいよっと、焚き火の完成!」
――きりもみ式火熾しでサクッと解決。
こんな事態も想定して火きり杵と板を残しておいた。
「すごい! 1分もかからずに火が!」
「ふふふ、サバイバル訓練の賜物だ」
こしらえた焚き火で温まる俺たち。
腰蓑を外し、濡れた体を炎で乾かしていく。
「それにしてもいきなりでしたね、雨」
「ああ、ついに降りやがったな」
転移してから初めての雨だ。
これで異世界にも雨が存在しているのだと分かった。
――が、それはさておき。
「洞窟に避難したのは失敗だったな。遠くても第二拠点を目指すべきだった」
「どうしてですか?」
俺は外に目を向けた。
「たぶん長引くぜ、この雨」
俺たちが森を走っている時、雨は小降りだった。
パラパラ、パラパラと。
しかし、今はザーザーの土砂降りだ。
外には水溜まりが出来ており、アースオーブンも水没している。
前に作った水よけ用の溝は苦しそうで、氾濫してもおかしくない状態だ。
「今から第二拠点に向かいますか?」
「いや、それは危険過ぎる。雨が止むまでここで凌ぐとしよう」
幸いなことに食糧と薪の備蓄はある。
飲み水の心配もないので、数日程度なら楽勝だ。
ということで、俺たちは洞窟で過ごすことにした。














