99 お着替え
わたしは自分のマジックバッグから木札と筆記用具を取り出し、あいうえお順に文字を書いていった。
それを見ながら、バーナビーだけでなくディエゴやユルドもウンウン言っている。
そして、ルオーとのやり取りをバーナビーに任せることを書いた手紙を書いてバーナビーに渡した。
「ありがとうございます。これで引き継ぎができますよ。じゃあ、ユルド。屋敷に裁縫道具を置いておくから、服作りを始めてくれる?」
「ええ、任せて」
おお。こんなところで、トリー達から買った布が役立つことになるなんてびっくりだよ。買ったはいいけど、仕立てなんてしている時間はなかったからね。
でも、そうだよね。ディエゴ達にいつまでも毛皮を纏わせておくわけにもいかないし、服は必要だよね。
服ってどんなふうに仕立てるんだろう?見たいな。気になるよ。
先にバーナビーが外へ出て行き、ユルドは台所の後片付けをメイド2名に指示してから家を出て行った。
「クロム、ユルドの作業を見て来ていい?」
「ああ、気をつけて行け」
「うん」
クロムの膝からするりと降り、わたしはユルドを追って隣に建つ屋敷に入った。
屋敷に入ると食堂のようなスペースでサムサとアリア、そしてメイドさん3名が談笑していた。
そう、談笑していたのだ!
え?家にいたメイドさんは話せなかったのに、こっちのメイドさんは話せるの?どうして?
「あ、エル様。どうしたの?」
「うん。ユルドが服を作るっていうから、見に来たの」
「ユルドなら、そこにいるよ」
サムサが指さした先を見ると、布の山を前にユルドが嬉しそうな顔をしていた。隣にバーナビーもいる。
バーナビーとユルドは二言、三言話すと、わたしを見つけてこちらへやって来た。
「エル様にお聞きしたいことがあります。これ混ては、その都度、必要な物をリングス商会へ注文していたと聞きました」
「うん。そうだね」
「今後は俺が管理しますので、注文は俺に任せてもらえませんか?」
「いいよ」
「それは助かります」
「いままでは、リングス商会に売ったクロムの鱗や魔物、畑の収穫物を買い取ってもらって、そこから買った物の値段を引く形でやってきたの」
「そうですか。クロム様の鱗………」
「ガンフィの服とか、わたしの服とかいっぱい買ったから、もうお金は残り少ないと思うの。これから、お金、足りるかな?」
「ははっ。どんな服を買ったのか知りませんが、服を買ったぐらいじゃ鱗の価値には及びませんよ。でも、そうですね。お金を稼ぐことも必要ですから、それも考えましょうか」
「いま、服を買ったと言いました!?」
ユルドが大声で叫ぶと、ズンズン歩いてわたしの前までやって来た。
こわっ。笑顔がこわいよ!
思わずバーナビーの脚にしがみつくと、バーナビーに苦笑された。
「ユルド、ほら、エル様が恐がっているから。顔を戻して」
「は!私としたことが、少々、取り乱して申し訳ありません」
ユルドは服のシワを伸ばすように、腰に巻いた毛皮を手で撫でた。
「エル様?お願いします。いまの流行を知るためにも、服を見せてくださいませ」
うわ。ゴーレムの上目遣い………こわい。
「だから、普通にしろよ」
思わずつっこむバーナビー。
目をギラギラさせたユルドは恐かったけど、いまの流行を知りたい気持ちはわかる。だけど、流行から外れた服を作ったとしても、ここは辺境の黒の森の中だから、見るのはこの村にいる人くらいしかいない。そんなに恥ずかしくないと思うけどな。
「エル様〜。お願いします!」
とうとう、ユルドは土下座をした。
「わわっ、わかったから!えっと、ここのテーブルに出せばいいのかな?ほら、これだよ」
と言って、ルオーが送って来た衣類を次々出していく。
それを見て、ユルドは目をギラリと光らせた。
「質はまあまあですね。染色はそれなり………まあ、いまはこんな可愛らしいデザインなのですか。あら、リボンもありますね。レースはなし、と。レース糸はないのでしょうか?」
わたしが出した衣類を見てブツブツ言っていたユルドは、ふと顔を上げるとバーナビーを見た。
「お、なんだよ」
「エル様に着替えていただきますので、男性は退出してください」
「ああ、わかった」
「後で足りない物を注文してもらいますから、必ず寄ってくださいね」
「わかってるって。さあ、そこのあんた。サムサ行くぞ」
バーナビーはサムサを連れて、追い立てられるように屋敷から出て行った。
そして、人が入って来ないようにアリアとメイド1名が外で見張りに立つことになった。
「さあ、エル様。どの服が一番お似合いになるか、確認してまいりましょう」
「服を身体に当てるの?」
それなら楽でいいよね。
「とんでもありません。すべて着ていただかないと、細かい部分がわかりませんわ。直しが必要かもしれませんし。さあ、まずはこちらから!」
というわけで、怒涛の着替えが始まった。
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