98 平和的掌握
本日、2度目の投稿です。
とりあえず、こちらを凝視するガンフィとラーシュに答えようか。
「えっとね、畑に魔力を流し過ぎてたみたいで、野菜や果物が特別な物になっちゃったみたいなの」
「というと?」
「寝たきりの病人が起き上がって走り回るほどです」
しれっと答えたのはユルド。
「「え?」」
「料理する前に確認いたしました。エル様の畑で収穫された物は高濃度の魔力が含まれており、摂取した者の身体を正常な状態に整え、さらには基礎能力の向上が見込めます」
「「はあああああっ!?」」
「多量に摂取すれば、部位欠損も治るでしょう。さすがエル様です」
「そんなの聞いてないんだけど!?部位欠損て、手足がちぎれても生えてくるってこと!?」
「まあ、そうです。これでエル様は、この村を掌握されたはずです。まさに、平和的掌握。村人は、伏してエル様に感謝することでしょう」
いやいやいや!そんなの頼んでない!
「この村は老人や身体の弱い者が多く、それが動ける若者が村を出る理由のひとつであったはずだ。しかし、すべての村人が健康体を手に入れたとすれば、労働力が一気に向上し、他所へ出た者が村へ戻って来る理由にもなる。村人は、エル様に感謝することでしょう」
ラーシュが、驚きながらも感動を隠しきれないキラキラした瞳でわたしを見つめてきた。
「これで、エル様が連れてきた私達ゴーレム達がこの村に居着くことに反対はできないでしょう。もちろん、ワームのサシャのこともです」
ユルドを見ると、彼女はニヤリと笑った。
それが狙いかー!!わたしにこの村を支配させて、自分達やサシャが追い出されないように手を打ったんだ。
「まあ、いいのではないか。この村での居心地がよくなるならそれでよい」
クロムが私の頭を撫でながら、ヘタを取ったイチゴをわたしの口にぽんと放り込んだ。
「エルは不服か?」
もくもぐ、ごっくん。
「………そうじゃないけど」
なにか、納得できないものがある。
これまでわたしとクロムは、獣人の村に押しかけてきた甚だ迷惑な存在だった。好き勝手なことをして、村人を振り回して………そのせいで、村人からは好かれていない。もっと言えば、嫌う人も一定数いたと思っている。
それは仕方のないことだと思っていた。だって、わたしとクロムは魔物だし。脅威に感じて避けるのは当たり前のことだとも思う。
それが一転して、わたし達に感謝を捧げるようになるとか………そんなのは、なんだか、気持ちが悪い。
だって、わたしが育てた野菜や果物が所謂ポーションの働きをしただけでしょ?ポーションは村人には珍しいかもしれないけれど、街へ行けば普通に売っている物じゃなかった?たしか、クロムに聞いた話だと、ポーションは魔法使いなら簡単に作れるらしいよ。
村人が健康になったのはいいことだよ。寝たきりの人が動けるようになるのも素晴らしいことだよ。
だけど、いいのかな?安易に与えてしまって。
理由がなんであれ、感謝されるのはいいことだと思う。でも、なんだか、素直に喜べない自分がいるの。むしろ、喜んではいけないと、誰かが囁いているような気がする。
「ただいま帰りました」
ノックの音がして、ディエゴが入ってきた。その後ろから、バーナビーがついて来る。
食事はあらかた終わっていたので、ユルド達メイドが果物の皿だけ残してテーブルを片付けてくれた。
「早速ですがクロム様、このバーナビーに布や裁縫道具、筆記用具、それから村人に解体させる予定の獲物を渡していただけますか」
「それは構わんが、どうやって保管するつもりだ。それなりの量があるぞ」
「どうぞご安心を。俺はアイテムボックスが使えますから、問題ありません」
え、バーナビーはアイテムボックスが使えるの?ゴーレムなのに?ずるい!
「そうか。では、アイテムボックスの入り口を出せ。そこに繋いでやる」
「はい」
どういうことだろう?とワクワクしながら見守っていると、バーナビーが手を翳したところに黒い空間が現れた。同じようにクロムが黒い空間を出現させると、クロムは手を動かして自分の空間とバーナビーの空間を合わせた。その時間、1分ほど。
「よし、これでいいだろう。確認してみろ」
クロムがアイテムボックスの入り口を消すと、バーナビーは自分のアイテムボックスに手を入れて中身を確認しているようだった。
「はい、確かにいただきました。ありがとうございます」
そう言って、バーナビーはアイテムボックスの入り口を消した。
「ところで、いままでお金の管理はどなたがされていたのですか?予算と必要物資について確認をしたいのですが」
「あ、お金の管理はルオーに任せてるよ」
「ルオーって言うと、アルトーの街の商人ですね。わかりました。手紙を書いて確認します」
「うん。それはいいけど、バーナビーはいまの文字を知ってるの?」
「あ、うっかりしてました。そうですね。文字は変わってるでしょうね。見本を書いてもらえますか?」
「いいよ」
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