97 ガンフィ全回復する
クロムとわたし、ガンフィとラーシュが席についたところでテーブルに料理が運ばれて来た。
料理は、温野菜のサラダに、美味しそうな焼き色がついたステーキ、薄切りにされた堅パン、そして野菜たっぷりのスープ、果物の盛り合わせもある。サラダには玉ねぎのドレッシング、ステーキには酸味の効いた茶色いソースがかかっていた。短い時間で、これだけのものをパパッと作ってしまえるのがすごい!
「これ全部ユルドが作ったの?すごいね」
「私には経験があり、助手もおりますから。私などより、これまでおひとりでやってこられたエル様こそ立派にございますよ」
「えへへ。ありがとう。じゃあ、いただきます」
「「いただきます?」」
ディエゴとユルドが不思議そうな顔をしている。
「それは、どういう挨拶ですか?」
「食べ物に感謝していただきます、作ってくれた人に感謝していただきます、とか、そんな意味だよ」
「なるほど。現在の食前の挨拶はそう言うのですか」
「え、違う違う!あのね、わたしが勝手に言っているだけで、この村でも、アルトーの街でも、こんな挨拶は聞いたことがないよ。だから、誤解しないでね」
「そうですか」
「ガンフィはどう?」
「王宮では、食前の挨拶はエーベ神への祈りでしたね。ラーシュのところもそうだろう?」
「はい、ガノンドロフ殿下。命の糧を与えてくださったことをエーベ神に感謝しておりました」
ガンフィとラーシュが顔を見合わせて、そうだと頷いている。
「………エーベ神とは、エッフェケルン・ベリオス様のことでしょうか。神の名を略称を用いてお呼びするとは、目に余るものがありますね」
ディエゴの目が、すうーと細められた。
「それが、今の人間はエーベ神とお呼びするのが常識で、正式名を知らないみたいだよ」
「なんと不敬な………!」
そうだね。神様の名前を略称で呼ぶなんて、わたしも不敬だと思うよ。でも、正式名を知らないんだからしょうがないよね。
いつ頃から、神様の名前は略称で呼ばれるようになったんだろう?
「話の続きは、食べながらするぞ。いただきます」
クロムがそう言って、料理に手をつけた。
せっかく作ってくれた料理だもの。温かいうちに食べたほうがいいよね。
クロムの言葉を合図に、ガンフィとラーシュも「いただきます」と言って料理に手をつけた。
「それでは、ごゆっくりお食事をお楽しみください。その間、私は村の中を見て回ってまいります」
ディエゴは颯爽と去っていき、ディエゴがいなくなったことで、自然と神様の名前に関する話は終わった。
食事の間、ユルド達メイドが給仕をしてくれた。相変わらず大量に食べる3人のために、何度も台所とリビングを往復してくれたよ。
そういえば。サムサとアリアの姿を見かけない。どうしたのかな?と思っていたら、隣の屋敷へ言っているらしい。ガンフィが教えてくれた。屋敷で、ここにはいないメイド3名に仕事を教えてくれているらしいよ。
突然現れた毛皮を身に着けたゴーレム3名にガンフィ達は相当驚いたそうだけど、サムサとアリアが一緒なのでとりあえず話を聞くことにしたらしい。
それによると、メイド3名はまだ言葉を発することができず、首を振ったり、身振り、手振りで会話をするんだって。造られたばかりだから、能力が低いのかな。
そういえば、ここにいるメイドさん2名も言葉を発していないな。
騎士隊長のヴィルヘルムが連れて行った5名の騎士も同じなのかな?
ところで。新たにメイド達が来てくれたことで屋敷にいたサムソとアリカはやることがなくなり、畑に戻ったんだとか。そりゃあそうだよね。いくら大きいとは言っても、屋敷に手伝いは7名もいらないもんね。
「おや?これは………」
突然、ガンフィが食事の手を止めて自分の手を眺めた。なんだろう。食べ過ぎて手が疲れたとか?
「ガノンドロフ殿下、いかがされました?」
「ああ、ラーシュ。怪我を負って以来、身体に満足に力が入らなかったのだが、いまは万全の状態に感じるのだ。なんなら、宙返りだって見せてやれるぞ」
「それはよかったですね。しかし、どうしてでしょう?急に力が湧いてくることなど………」
言いながら、テーブルいっぱいに並べられた料理を眺めるラーシュ。そしてその視線は、わたしへと向いた。
うん?わたしのせいだって言いたいの?
たしか、わたしが畑に魔力を注ぎ過ぎたせいで、畑の野菜や果物は魔力を多く抱えた状態になってしまっている。それを使ってユルド達が料理を作り、ガンフィとラーシュはその料理をしっかりとお腹いっぱいになるまで食べた。元から魔力が溢れているわたしやクロムはともかく、それで影響がでないわけがない。
………うん。わたしのせいだね。
心なしか、家の外から歓声のような声が複数聞こえてくるような気がする。
ふふ。村人も食べたんだね。
でも、いつ今日の収穫物を手に入れたんだろう?ディエゴ達ゴーレムが現れて家に逃げ帰ったはずなのに、また畑へ行ったのかな?それとも、誰かが収穫物を配るように指示したとか?でも、誰が?なんのために?