96 念願のコンソメスープ
「わかってます。ここまでテキトーだと、やり甲斐があるってもんです」
あ、初めてバーナビーの声を聞いた。若者のような、ハキハキした話し方だ。
「ユルドはメイド達を連れてエル様のお宅へ行きなさい。そこでやることはわかっていますね?」
「もちろんですわ。お任せください」
ユルドはお辞儀をすると、メイド5名を連れて去って行った。
あれ?家がどこにあるか伝えてないのにわかるのかな?足取りは迷いがなかったし………この村でちゃんとした家は4軒しかないから、教えなくても大丈夫なのかな。
「それでは、エル様。この村を見て回りたいと思いますので、案内役を付けていただけますか?」
「案内役?それなら、わたしが案内するよ」
「ありがたいお申し出ですが、エル様にそんなことをさせるわけにはまいりません。エル様付きのギベルシェン、サムサとアリアをお貸しいただけますか」
「それは………」
「エル、そろそろ昼食の支度をしたほうがいいのではないか?」
「あ、そうだね。それに、収穫作業も終わりまでやらないと畑に魔力を流せないし、そろそろ村人の家を綺麗な家に建て直してあげたいし………そうだ!燻製のやり方を誰かに聞かなきゃ。ルオーは知ってるかな?ええと、それから、それから、解体小屋に獲物を届けてあげて、カイトとリーナさんの様子を見に行って………」
わぁああああ!やることが多すぎる!
「夕方にパンを作る約束をしてなかったか?」
呆れた声でクロムに言われて、泣きそうになった。
「エル様、大丈夫です。私共がお手伝いいたします。エル様がおやりになりたいこと、する予定のこと、なんでも結構です。お話しください。手分けして行えば、それほど大変ではありませんよ」
「ディエゴ………ありがとう」
そしてわたしは、泣きながら現状について色々と話した。
話の途中でオイクスに聞かれるとまずいこと(ガンフィ関連)が出てきて、場所を我が家に移してすべてを話した。すっかり話し終える頃には涙も止まっていて、スッキリした気持ちになっていた。
話を聞いてもらえるって、幸せなことだね。
「なるほど。エル様の現状について理解いたしました。まずはお食事をとっていただいてから、今後について話しましょう」
そう言われて初めて、いい匂いが漂っていることに気がついた。それだけ、話に夢中になっていたってことだよね。
座っていたリビングの椅子(クロムの膝の上)から台所を見ると、ユルドとふたりのメイドが働いていた。
「エル様の許可を得ずに、勝手なことをして申し訳ありません」
わたしの視線に気づいたユルドが、綺麗な礼をした。
「いいよ、ユルド。でも、初めて入る台所で、食材も少なくて大変だったんじゃない?」
「ですから、使いやすいように些か手を加えさせていただきました」
「??」
「どうぞご確認ください」
頭に疑問符を浮かべながら、クロムに下に降ろしてもらって台所へと向かった。まず目に入ってきたのが、上にコンロがついた大事なオーブン。これがないと料理もお菓子作りもできない。元はふた口コンロだったのに、それが3つ口コンロになっている。大きな鍋が2つ並んだ奥に、小さな鍋がひとつ乗っていた。
え、どうやったのか知らないけれど、これは嬉しい。コンロが2つだけじゃ足りないと思っていたんだよね。
踏み台を持って来て鍋の中を覗き込むと、野菜スープと、肉や野菜がゴロゴロと入ったスープ、そして茶色いソースが入っていた。
「ねえ、これってもしかして………」
「はい。コンソメスープを作っている最中でございます」
「すごい!嬉しいよ!コンソメスープがあると、料理の幅が広がるよね。でも、食料庫に肉はなかったでしょ?どうしたの?」
「村の食料保管庫から頂戴して参りました」
「野菜は?」
「食料庫にあった物と、不足分は畑から持って参りました」
「じゃあ、あの魔力いっぱいの野菜を使ったの?」
「はい。いい出汁が取れております。ですが、本日の昼食には間に合いませんので、夕食にお出しいたします」
「ありがとう、ユルド。本当に嬉しい!」
なにか言わなきゃいけないことがあった気がするけれど、それは頭の片隅へと吹き飛んだ。だって、コンソメスープが食べられるんだよ!?
「喜んでいただけて何よりでございます。それではお食事をお運びいたしますので、リビングでお待ちくださいませ」
リビングに戻ると、外に通じる扉をノックする音がした。ディエゴが行って扉を開けると、そこにはメイドのひとりと、ガンフィ、ラーシュの3名がいた。ガンフィとラーシュは、困ったような、なんとも言えない顔をしていた。
「ようこそおいでくださいました」
ディエゴが場所を譲ると、促されてガンフィとラーシュが入ってきた。メイドはふたりが室内に入るのを確認して去って行った。
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