95 ゴーレム御一行、村へご招待
「これで、私共を信じていただけますね?エル様の住居へ案内していただけますか?」
ディエゴがニコリと微笑んだ。優しい笑みだった。
………いまさらだけど、その表情筋どうなってるの?本当にゴーレムなの?普通のゴーレムは、こんな風に表情を変えられないよね?
「にゃ〜。ずいぶん覚悟を決めてるみたいにゃ。クロム様、こいつらは信じていいと思うにゃ」
ランベルの言葉に、クロムは頷いた。
「おまえ達、ついて来い。村へ帰るぞ」
「「「「「はい!」」」」」
嬉しそうなディエゴ達の声が響いた。
風のように走るクロムやランベルに遅れを取ることなく、ディエゴ達も村まで一緒に走った。走る姿は綺麗だった。
村まで帰ってくると、まず通るのがわたしの畑。その畑に、夢中になって収穫作業をする村人とギベルシェン達の姿があった。畑の横に木箱が積まれていて、その木箱には山盛りの野菜や果物が入っているのが見えた。
収穫作業をしていた人達は、クロムやディエゴ達の姿を見て固まった。ランベルは途中で分かれて単独で周囲の見回りに行ってしまったから、ここにはいない。きっと、見慣れない姿のディエゴ達を見て固まったんだと思う。
ディエゴ達はゴーレム。不思議な鉱石でできた鈍く光る灰色の身体をしていて、それぞれ夜空のような深い黒の瞳を持っている。額には赤い石が嵌め込まれていて、腰や胸元に毛皮を巻き付けている不思議な姿だ。この姿を見て驚かないほうがおかしい。
「………魔物?」
「あんな魔物見たことないわよ」
「この森にあんな魔物いたか?」
村人がヒソヒソ話す声が聞こえる。
こういうときは、代表者に話をするのがいいんだけど………あ、いたいた。オイクスがムスッとした顔でこちらに歩いてくる。
「クロム様。今度はどんな魔物を村に引き入れる気ですか」
おお。怒っているけど、冷静だ。オイクスも成長したね。
クロムがディエゴに目配せすると、ディエゴが心得た顔で前に一歩出た。
「初めまして。私はエル様にお仕えするゴーレムの執事ディエゴと申します。どうぞお見知りおきください」
そう言って、ディエゴは胸に手を当てて綺麗な礼をした。
「ゴーレム!?」
「ゴーレムって、石の魔物でしょ?」
「ゴーレムってあんなふうにしゃべるものなのか?というか、人間みたいに動いたぞ」
「ちょっと静かにして!まだなにか話すみたいよ」
村人達はざわめいたものの、ディエゴ達の動きを注視して静かになった。
「紹介します。彼は騎士隊長のヴィルヘルム、隣が副騎士隊長のアントン、後ろが物品管理をするバーナビー、彼女がメイド頭のユルドです。騎士5名とメイド5名は名はありません。そして、最後尾にいるのがワームのサシャです」
「「「「「え?」」」」」
村人達は固まった。それはもう、ピシリと音が聞こえてきそうなほど一斉に固まった。
「キョエ」
「「「「「ぎゃああああ!!」」」」」
サシャが挨拶をしようとしたのか、小さく鳴いた。
そのとたん、村人達は悲鳴をあげながら我先にと畑から逃げてそれぞれの家へ駆けて行った。残ったのは、ブルブルと震えるオイクスだけだ。
そういえば。畑に埋まっていたカイトがいない。身体が回復して家に戻されたのかな?
「な、な、なんだ、その気持ち悪い魔物は!」
「さっきディエゴが言っていたでしょ?ワームだよ。大きいよね〜。でも、いまは小さくなってるだけで、本当は家を飲み込めるほど大きいんだよ。すごいの」
「家を飲み込むだと?そんな馬鹿でかい魔物がいるわけないだろう。俺を馬鹿にしてるのか!?」
あ〜あ。わかりやすく動揺してる。家を飲み込むような魔物がいたら恐いもんね。そんな魔物はいないと思いたいんだろうな。
「そういえば。サシャはどこで寝るの?この畑の側でいい?」
「ええ、それで構いません。サシャ、土に潜っておきなさい。狩りは夜に行くのがいいでしょう」
ん?サシャは狩りをするの?なんのために?う〜ん。やっぱりお腹が空くのかな?
「それがいい。サシャは、あまり村人の前に姿を現さないほうがいいだろう」
というクロムの言葉もあって、サシャは寂しそうにしながら畑の側の硬い土に潜っていった。
サシャの姿が見えなくなって、オイクスはほっと息を吐き出した。うんうん。恐かったんだね。
「………なんだその目は。べつに、あの魔物が恐かったわけじゃないぞ」
恐くてもいいと思うけど。
「ところで。あなたの名前はオイクスで合っていますか?」
「なんで俺の名前を知っている!?」
オイクスが毛を逆立てて警戒態勢をとった。
「ギベルシェン達に聞きました。躾のできていない猫だと」
「誰が猫だ!俺は虎の獣人だ!」
「そうですか。ふふふ。躾けがいがありそうですね」
ディエゴは不穏な笑みを浮かべると、バーナビーを振り返った。
「バーナビー。この畑は無秩序に作物が植わっています。なにが植わっているか確認して、よく管理してください」
「わかってます。ここまでテキトーだと、やり甲斐があるってもんです」