91 ルオーからの手紙
さらに騎士を投入しても戻って来れなかった場合、それはただ騎士を無駄に死なせることになり、貴重な人材を失うことになる。翌日、つまり今日は募った兵士を魔法陣に送り込む予定とのこと。
兵士を送り込むのと同時に、ハノーヴァー国各地に水晶で情報を流し、ガンフィを含めた魔法陣を通過した人間を探させるそうだ。
貴重な人材を失ったばかりなのに、また人を送るんだね。懲りないなぁ。
って、遺跡の魔法陣は壊れちゃったから、あそこにはもう送って来れないか。
ディエゴ達、今ごろどうしてるかな。大人しく遺跡の跡地にいるかな?ディエゴ達ゴーレムとワームを見張らせるために残した6名のギベルシェン達の様子も気になる。
でも、手紙はまだ読み終わっていない。これを読むのが先だよね。
そう気を取り直し、次の手紙を手に取った。
今日の早朝………って、ついさっきのことだね。………なになに?王城の魔法陣に兵士を送り込む準備中に、近衛騎士であるリヒト・ファフニールが帰還したそうだ。
リヒト・ファフニールの報告によると、彼は王都の西に位置するフラヴンの街へ飛ばされた。王城の魔法陣と対になる魔法陣、つまり出口となる魔法陣はフラヴンにある教会の地下室にあった。そして魔法陣が一方通行で、魔法陣を使って帰還することができないことを確認。フラヴンの街の領主にガンフィ捜索依頼を出したあと、リヒト・ファフニールは一連のことを一刻も早く報告するために一晩中馬を飛ばして王城に帰還した、というわけらしい。
フラヴンの街って、ミルドレッド姫が視察に出ていた街じゃなかった?なにか、ミルドレッド姫に関係があるのかな?
リヒト・ファフニールの報告後、改めて騎士団長と騎士のオルガ・ディフェンサーが使用した魔法陣に兵士を送り込もうとして、騎士団長が使用した魔法陣が起動しないことが判明した。到着地点の魔法陣に異常があったことが予想されるものの、いまの時点で打てる手はなく、オルガ・ディフェンサーが使用した魔法陣にだけ兵士をひとり送り込んだ。
その兵士には、魔法陣を使っての帰還はできないこと、現地でオルガ・ディフェンサーと連絡をとりガンフィ捜索の依頼を現地の領主に出すこと、依頼をしたあとは現地の対応はオルガ・ディフェンサーに任せて己は速やかに王城へ報告に帰還することが言い含められた。
その後の動向は、また後で報告すると書かれていた。
手紙はクロムの膝の上で読んでいたので、クロムはわたしの頭越しに手紙を読んでいる。まだ読んでいないガンフィと騎士団長に手紙を渡して読むように言った。
「なんと!これほど詳細な王城の様子を知りうる者がいるとは………王城の警備はどうなっているのだ」
「全くです。ガノンドロフ殿下、無事に帰還した暁には、警備体制の見直しが必要ですな」
「じゃあ、ふたりはこのあとの対策を考えていて」
「エル様はどうされるのですか?」
「わたしとクロムは遺跡の跡地へ行ってくるよ。いつまでもディエゴ達をほおっておくわけにはいかないもん」
「ディエゴとは誰のことですか?」
「なぜ遺跡にいるのですか?」
ガンフィと騎士団長が不思議そうにしている。
あれ?ふたりに遺跡での出来事を話していなかったっけ?う〜ん………あ、そうだ。遺跡の跡地から戻ってきてすぐに地下牢を作って魔力切れを起こして眠っちゃったんだ。話してる隙がなかったね。
「えっとね………」
わたしは簡単に遺跡での出来事を話した。遺跡は古代都市アスケルディアの民であった魔法使いが造ったもので、ディエゴ達ゴーレムとワームは古代遺産の一部であること。昨日の時点で9体のゴーレムが起動していて、わたしとクロムの到着を待っていることを。
「古代都市アスケルディア………聞いたことがありませんね。古代都市と言うからには、いまから千年以上前の都市でしょう。その都市にいた魔法使いが造ったゴーレムがいまだに動くと言うのですか………」
「やはり、古代時代はいまとは比べ物にならない高度な技術力を有していたようですね」
ガンフィと騎士団長が揃ってううむっと唸る。
「エル、そろそろ行くぞ」
「待って。ルオーに返事を書かなきゃ。それに、長にもいまの状況を少しは話しておかなきゃいけないでしょ。あと、クロムが言っていたみたいに畑の作物を村人に分けてあげるから、そのことも長に伝えて………」
「それは、エルでなければならないのか?」
「違うけど………」
「ガンフィ、おまえに仕事を任せる。いまエルが言ったことをしろ」
「あ、はい」
突然、仕事を任せると言われたガンフィは、驚きながらも了承した。
「だめだよクロム!ガンフィは王子様なんだから、そんなふうに使うのは良くないよ」
「ふん。使える者は使うべきだ。サムサ、ガンフィを手伝ってやれ」
「うん。わかった」
ああっ、サムサまで?!
「では行くぞ」
クロムはわたしを抱き上げると、大股で玄関まで行き扉を開けた。
そこには、前足を使って頭の毛づくろいをするランベルがいた。