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9 転移の魔法陣

「ならば、転移の魔法陣を設置するか」


「………え?」


「転移の魔法陣ってなに?」


「大きさに制限はあるが、荷物を移動させることができる。アルトーの街とやらから、瞬時に物を運んで来れるのだ。便利だぞ」


「すごーい。じゃあ、その転移の魔法陣を使えば、世界中の物を運んで来れるってこと?」


「いや、世界中は無理だ。まず、距離の問題がある。俺が設置できるのは、せいぜいこの村からアルトーの街とやらまでだ。それから、生き物は転移できん」


「それでも、十分すごいですよ!各街に転移の魔法陣を置けば、その転移の魔法陣を経由して物を運べるんじゃないでしょうか?」


 なるほど。そういう使い方もできるんだ。


「物流革命が起きますよ!」


 トリーはすっかり興奮している。


 だけど、クロムは面倒そうな表情をしている。


「それはつまり、俺に街を回って転移の魔法陣を設置しろと言っているのか?なぜ、そんな面倒なことをせねばならんのだ。俺はやらんぞ」


「ですが、物流革命が起きれば、クロム様はこの村に居ながら世界中の品を手にすることができるんですよ。素晴らしいとは思いませんか?」


「思わん。欲しい物があれば、飛んで行けば済む。だいたい、転移の魔法陣を設置するには魔力を消費するし、動かすにも魔力が必要なのだぞ?この村とアルトーの街ぐらいなら俺が動かしてやってもいいが、それ以外は面倒見きれん」


「た、たしかに………おっしゃるとおりです。魔法陣を動かすには、膨大な魔力が必要だと聞いたことがあります。そう気軽に使えるものではないのですね。つい浮かれてしまいました。申し訳ありません」


「わかればよい。それで、転移の魔法陣はリングス商会に設置すればよいか」


「それは大変ありがたいのですが、会長に確認を取りませんとお答えできません。申し訳ありませんが、確認して参りますのでお待ちいただけないでしょうか?」


「むう。アルトーの街まで往復で60日もかかるのだろう。俺に60日も待てというのか。そんなに待てんぞ」


 そうだね。60日は長いよね。


「しかし………」


「仕方ない。俺がおまえを運んでやる。リングス商会まで案内しろ」


「えっ?でも、どうやって??」


「そんなもの、空を飛ぶに決まっている」


 え、飛ぶって言った?言ったよね?なにそれ、わたしも行きたい!


「クロム、クロム!わたしも行きたい!」


「もちろんだ。背中に乗せてやるから、空の旅を楽しむといい」


 クロムはそう言って、甘い顔をしながらわたしの頭を撫でた。クロムの大きな手の感触が心地良い。


「そうと決まれば、早速行くぞ」


「お、お待ちください!」


 トリーは真っ青な顔をしている。具合でも悪いんだろうか?


「なんだ。文句でもあるのか?」


「違います!そうではなくて。僕達がクロム様に運んでいただくなんて、そんな恐れ多いことはできません」


「気にするな。それに、勘違いしているようだから言っておくが、運んでやるのはおまえひとりだ。もうひとりとロバはここに置いていくぞ」


「え?」


「リングス商会の者に話をつけて足りない物を用意させるのに、ロバは必要あるまい」


「そうですが………」


「心配するな。用がすめば、この村まで送り届けてやる。さあ、行くぞ」


 クロムは強引に話をまとめて、椅子から立ち上がった。


 そしてさり気なく、わたしが椅子から降りるのを手伝ってくれた。


 クロムがわたしの手を引いて家から出ると、トリーがあとからついてきた。


 トリーはなにを渋っているんだろう?ドラゴンに運んでもらえる機会なんてそうないのに。この機会を逃したら、一生、ドラゴンに乗れないままだよ?


 クロムに手を引かれて歩いて行くと、村の広場に着いた。荷馬車に残っていた商品は村人が持ち帰ったらしく、なにも残っていない。


 そこへ、広場の様子を見守っていたらしい長が近付いて来た。


「クロム様、様子を見にいらしてくださったのですか?ご覧のとおり、分けていただいた物は村中の者で分けました。お気遣いいただき誠にありがとうございます」


 長のそばには黒い獣人オイクスが付き添っていて、クロムに警戒の眼差しを向けている。


「そんなことより。俺はこれより、エルとトリーを連れてアルトーの街へ行ってくる。夜には戻るつもりだ。食事を用意しておけ」


「アルトーの街ですか?あんな遠くまで行かれて、今日中に帰って来られるのですか?」


「そうだ。ロバの足で30日の距離など、俺にすれば大したことはない」


「さようでございますか。さすがクロム様でございますね」


「では下がれ。邪魔だ」


 そう言われて、長は頭を下げて後ろへ下がって行った。オイクスは、クロムに怒りに満ちた視線を向けて。


 邪魔だって言われたことが、そんなに腹立つのかな?近くにいたら危ないよ、って言ってあげれば良かったのかな?

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