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86 トンカツを作ろう2

 アリアはわたしが切り分けていく豚肉を、力を加減しながら叩いていった。本気でやったら、包丁の背でやったとしても、肉はミンチになっちゃうからね。


 豚肉を切り終わったら、次は衣の用意をする。バットに小麦粉、溶き卵、パン粉を入れて………パン粉?そんなものはないな。作らなきゃ。


 わたしはアルトーの街で仕入れた固いパンを取り出し、おろし器でゴリゴリこすって細かくした。


 パン粉ができたところで、ガンフィと騎士団長がやって来た。ふたりとも髪がしっとりと濡れている。そして、きっちり身体を拭かなかったのか、慌てていたのか?服が身体に張り付いている。


 おおっ。ふたりともいい身体してるね。


 がっちり、むちむち。見るからに筋肉の塊だ。


「いらっしゃい。まだトンカツができてないから、テーブルについて待っていてね」


 わたしが示したテーブルには、クロムが先について眠そうにしている。ガンフィと騎士団長は顔を見合わせたあと、クロムの斜め前に座った。


「エル様、トンカツとは何ですか?」


「豚肉の揚げ物だよ。楽しみにしていてね、ガンフィ」


「エル様が作られるものは何でも美味しいので楽しみです」


「ありがとう、ガンフィ。そう言ってくれて嬉しいよ」


「エル様、肉の下準備ができました」


 アリアが声をかけてきたので、山になった豚肉を見た。どれも丁寧に叩かれていて、柔らかそうに見える。


「ありがとうアリア。叩いた豚肉は、小麦粉、溶き卵、パン粉の順にこんな風につけて、熱した油に入れて揚げるの」


 わたしは見本として、豚肉を1枚手に取り衣をつけてフライパンに投入して見せた。すると、アリアはわたしを真似て豚肉に衣をつけ、用意しておいたもうひとつのフライパンに投入した。


「うん、上手。油は跳ねるから、火傷しないように気をつけてね。両面がこんがりきつね色になるまで揚げるんだよ」


「きつね色?え、狐の色?揚げるってどういうこと?」


 アリアが困惑している。


 そっか。「きつね色」じゃ通じないんだ。難しいな。


「ごめんね、「きつね色」じゃわからないよね。わたしがこのまま豚肉を1枚揚げるから、よく見てて。それから、熱した油に食材を入れて火を通すことを「揚げる」って言うんだよ」


「そうなの?エル様は色々知ってるのね。それは、クロム様から教えてもらったの?」


「ううん、違うよ」


「じゃあ、誰に聞いたの?」


「え、誰だろう?!」


「やだ。私に言われてもわからないわよ」


「………だよね?う〜ん。わたしにもわからないの。生まれてからしばらくはクロムとふたりきりの生活で、クロムにこの世界のことを色々教えてもらったんだけど、そのときに聞いたこと以外にも頭の中に知識が詰まってるの。でも、どこでこの知識を手に入れたかわからないんだよ」


 そのまで言って、フライパンの中の豚肉がこんがりと良い色になっていることに気がついた。トングを使い、トンカツの油をさっと切ってまな板に乗せた。


「アリアの豚肉もトンカツになってるから、わたしがやったみたいに油を切ってまな板に乗せてね」


 アリアがよくわからないまま、私の真似をしてトングで掴んだトンカツを上下に振った。余分な油を落としたあと、まな板に乗せる。


「じゃあ、包丁を持って。これくらいの幅で切ってね」


「任せて」


 トンカツを包丁で切ると、サクッという音がする。最初、その音に驚いて固まったアリアだけど、すぐに楽しそうな表情に変わり手を動かした。


 ふふふっ。揚げ物を切ると、いい音がするよね。


 最初に出来たトンカツは、お皿に並べてクロムとガンフィの前に置いた。2枚しか出来てないからね。


 そして、小皿にそれぞれ塩と醤油モドキを入れて3人の前に置いた。


「これは………ソイナではないですか?珍しいですね」


 醤油モドキを見たガンフィがそう言った。


「ガノンドロフ殿下、ご存知なのですか?」


「ああ。これは、大豆から出来ている調味料です。しょっぱいですが、美味しいですよ」


 騎士団長はガンフィの話を聞くと、醤油モドキ(ううん。ソイナって言うんだね)に人差し指を付けて指をペロリ徒舐めた。


「塩とは違った美味しさがありますね」


 納得してくれたらしい。良かった。


「じゃあ、温かいうちに食べてね」


 そう言って台所を振り返ると、アリアが次の豚肉に衣をつけて揚げてくれていた。


「エル様、あとは任せて」


「ありがとうアリア。じゃあわたしは、キャベツの千切りを作るね」


「なにそれ?」


「えっとね〜………」


 言いながら、マジックバッグから立派なキャベツをひと玉取り出した。外側の葉を何枚か剥き、残りを半分に切る。


「この状態のキャベツを細く切るだけ」


 千切りキャベツが出来上がっていく様子を見て、アリアはすぐ興味を失った。トンカツを揚げることに集中することにしたらしい。


 わたしはひと玉分の千切りキャベツを作ると、ボウルに入れてテーブルにどんっと置いた。


「トンカツだけ食べてると口の中が油っこくなるから、時々はキャベツと一緒に食べてね」



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