81 地下牢を作ろう
えーと。この人は、どこに寝かせておいたらいいかな?暴れられたら困るから、やっぱり地下牢がいいよね。
それなら、地下牢はどこに作ろう?いまから森に入って地下牢を作るのは面倒くさい。行ったり来たりしないといけないからね。それなら、村の中に作ってしまおうか。
「ねえクロム。ガンフィと同じ家の地下に地下牢を作ってこの人を寝かせておこうと思うんだけど、いいかな?」
「そうだな。いいのではないか?」
「よかった。サムテ、その人を連れて来てくれる?」
「は〜い」
サムテは倒れている男の人を片手で持ち上げると、ガンフィのいる家まで歩き出した。
それを見てエグファンカ達はどこかへ飛んでいき、ロコルナ=ティルリは他のギベルシェン達と「畑で休んでくるよ」と言って去って行った。
クロムはサムテと一緒にガンフィのいる家まで向かい、家の前に着くと、わたしを地面に降ろしてくれた。
ガンフィが泊まっているこの家は、何度見ても大きい。もう、家と言うより、館って感じだ。よし、決めた。これからは館と呼ぼう。
わたしは館と向かい合い、壁に手を当てた。
さ〜て。どんな地下牢にしようかな?地下1階に地下牢を作ると逃げ出された時にすぐ脱出されてしまう可能性があるから、地下牢は地下深くに作ったほうがいいよね。それと、植物魔法で作った館だから、地下部分は根を元に作られることになる。だから強度の面で不安が大きい。魔法でも放たれて、簡単に壊れてしまうようでは困る。
わたしは、強固な地下牢をイメージしながら魔力を流した。すると、今までにない速度で魔力が吸い出されていく。
「うっ」
「どうしたエル!」
ふらついた身体を、クロムが支えてくれた。
「地下牢を作るために魔力を流したら、大量に魔力を持っていかれて驚いたの」
「無理はするな。何度かに分けて作ればいいのではないか?」
「ううん。やるよ。途中でやめたくない」
「………わかった。危険だと感じたら、無理にでも引き離す。それまでは好きにやれ」
「ありがとう」
クロムに支えてもらいながら、わたしは魔力を流し続けた。その時間が長かったのか、短かったのか、わたしにはよくわからない。気を抜くと一気に持っていかれそうになる魔力を、魔力枯渇にならないように一定量を流し続けるのが難しい。全力で集中する必要があった。
魔力が流れなくなったとき、わたしの魔力はほとんど空っぽになっていた。そのせいか、身体がだるくて重い。頭がクラクラする。
「………魔力をほぼ使い果たしたか。エル、身体の具合はどうだ」
「うん。ちょっとつらいけど、大丈夫」
なんて言っておきながら、歩き出そうとしてその場にしゃがみ込んでしまった。
「あれ?脚に力が入らない………?」
「だろうな」
クロムはわたしを抱き上げると、小さくため息をついた。
「………ごめんなさい」
「なにを謝ることがある。エルは、やるべきことをやっただけだ」
クロムは優しい。険しい顔で、わたしに怒っているのが丸わかりなのに、叱る言葉のひとつも言わないなんて。
だから、謝るよりお礼を言ったほうがいいよね。
「クロム、ありがとう」
「いや、いい。もう休め」
「それが、まだ休むわけにはいかないの。ガンフィにご飯を届けなくちゃ」
「だめだ。いまは、身体に力が入らない状態なのだろう。立つこともできないのに、どうやって料理をする気だ」
「ふふふ。料理するとは言ってないよ。ガンフィには、鶏ガラスープとパンで我慢してもらうよ。夜中にお腹が空いて起きたら可哀想だから、夜食の代わりにクッキーもつけてあげる」
「クッキー?なんだそれは」
「お菓子だよ。わたしが作ったの。もちろん、クロムの分もあるから安心して」
「………それならよい」
クロムは口元を綻ばせて、ニヤリと笑った。クッキーを貰えるのが、そんなに嬉しいのかな。
クロムはわたしを抱いたまま、館に踏み入った。周囲を見回し、台所に入ると作業テーブルの前で停止した。
リングス商会で購入したオーブンは1台だけで、その1台は家の台所に設置している。つまり、館の台所にはオーブンがない。コンロもない。コンロがないと、スープを温めることができないね。
でも、丁寧にアクをとったスープは透き通っていてきれい。ぬるくても食べるのに問題はない。よね?
わたしはわずかに残った魔力で身体強化をすると、マジックバッグから寸胴をひとつ取り出してテーブルに置いた。
それからパンの入ったカゴと、クッキーのカゴをひとつ、そしてお皿を1枚取り出した。
カゴからクッキーをひとつかみしてお皿に乗せた。クロムがじっとクッキーを見つめている。
「ふふっ。お皿に乗せたのがガンフィの分だよ。カゴに入っているのがクロムの分ね」
「わかった」
クロムはカゴから目を離さない。そんなに見つめなくてもなくならないのに。
それにしても。さっき寸胴を持ったときに魔力が少なくて、いつものようにしっかり魔法をかけられなかった。スープは残り少ないはずなのに、寸胴はとんでもなく重かった。