表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/141

80 アリエと癒しの波動

 ロコルナ=ティルリが先導する中、わたしはクロムに抱き上げられたまま森の中を進んでいた。わたし達の横をランベルが、後ろをギベルシェンが守ってくれている。


 村に戻ったら、すぐにお腹を空かせているガンフィのために朝ご飯を作りたかったけれど、ふと思い出したことがある。ギベルシェン達が捕らえた人間がいて、今ごろは村の広場に転がされているだろうっていうことを。


 村には、誰かを閉じ込めておく場所なんてない。それなら、捕まえた者を広場に転がしておいて、そばで監視するのがいいよね。だって、昨日、作るって言っていた地下牢は、まだ出来てないんだから。


 そして、てっきり村に戻る途中で立ち止まって地下牢を作らせてくれると思っていたのに、ロコルナ=ティルリもクロムも立ち止まることはなかった。気づけば、わたしの畑が見える所まで来ていた。


 あ、カイトはまだ畑に埋まっているんだ。昨日見たときより顔色がいいのは、回復してきている証拠かな。


 わたしを抱きしめているクロムの腕をポンポンと叩くと、走るのをやめて歩いてくれた。


「どうした」


「カイトと話したいの。いい?」


 クロムの顔を見上げ、首をこてんと傾けて尋ねた。


「ふん。いいだろう」


 平静を装っているクロムの、口元がピクピクしている。まるで、ニヤけるのを我慢しているみたい。


 って、そんなわけないか。


 カイトの隣には、周りの野菜の葉に紛れて緑の葉っぱが生えていた。ギベルシェンの頭の葉っぱだ。


「誰が埋まっているんだろ?アリアかな?」


 ふみっ。


「ふみ?………って、あああぁぁぁっ!ランベルだめ!踏んだらだめ!」


 突然、太くて白い足がギベルシェンの葉っぱを踏みつけたので、慌てたわたしはクロムの腕の中でアワアワした。


 ランベルは、なおも葉っぱをふみふみしながらわたしに振り向いた。


「こうすると起きるにゃ」


「そうなんだー。って、だめだからね!葉っぱ踏んだら傷んじゃうでしょ」


「大丈夫にゃ。こいつら、結構、丈夫にゃ」


 ランベルが足を退けると、無事な様子の葉っぱが現れた。


「………なんとも、ない?」


 葉っぱは青々としていて、瑞々(みずみず)しい。見たところ、傷んだ様子はない。

 

「うう〜ん。だれぇ?」


 土の中からズボッと頭を出したのはアリエだった。サムセと一緒に洞窟の魔法陣の管理をしてくれていて、夜の時間帯を担当している。遺跡の魔法陣から現れる者を確保する作戦には、洞窟組は参加していない。夜に備えて寝ていたのかも。そうだとしたら、起こして悪かったな。


「あ、クロム様。エル様。おかえりなさい」


 にっこり笑った顔が可愛らしい。気持ちがほっこりする。


「ただいま、アリエ。起こしちゃってごめんね。どうして、わざわざカイトの隣で寝ていたの?」


「カイトに癒しの波動を浴びせてたの」


「癒しの波動?それって、癒しの魔法みたいなもの?」


 カイトを見ると、さっきわたしが騒いだのに眠っていた。


「そうそう。私達ギベルシェンは、寝ている間に癒しの波動を出すの。癒しの波動を浴びていれば、死にかけの魔物だってこの世に繋ぎ止めることができるんだから。すごいのよ」


「えっと………それって、つまり………」


「癒しの波動はね、命を繋ぎ止める働きをするんだ。たとえ半身しかない状態でも、この世に命を繋ぎ止める。ただし、不老の術ではない。傷を癒す術でもない。使い方には注意が必要だ!って、前のロコルが言ってたわよ。わかった?」


「ああ。万が一、カイトが死ぬことがないようにそばで見守ってくれたんだな」


 え、クロム。そういうこと?


「ふふん。そうよ。じゃあ、もう少し寝るから邪魔しないでね〜」


 そう言って、アリエは土に潜ってしまった。


 わたしには、アリエの言っていたことが理解できなかった。わかったのは、アリエがカイトのために傍にいてくれるということ。いまは、それがわかっただけで十分だよ。


「さあ、もういいだろ?エル様、行くよ」


「うん。わかった」


 ロコルナ=ティルリについて行くと、村の広場に着いた。人だかりができていたけれど、わたし達に気づくと場所を開けてくれた。


 広場の中心にはツタでグルグル巻きにされた人間が倒れていて、その人間をサムテとエグファンカ達が囲んでいた。


「やっと来た!もう、遅いよロコルナ」


「ごめんな、サムテ」


「で、こいつはどうするの?気を失ったままだから、殺すなら簡単だよ」


「殺しちゃだめ!」


 サムテの言葉に、慌てて声を上げた。


 まだ、この人間の正体がわかっていないし、ラーシュ・ダイダロス騎士団長だとしたら、ガンフィが味方にしたいと言っていた。騎士団長じゃないとしても、なにか役に立つ情報を持っているかもしれない。簡単に殺されては困る。


 改めてグルグル巻きの人間を見ると、そこに倒れているのは人族の男だった。マントにジャケット、ズボン、ブーツという格好で、どれも質の良い物を身に着けているように見える。剣などの武器になりそうな物は身に着けていない。拘束したあとで取り上げたのかな?そして、ツタが目と口を塞ぐように巻き付いているのは、視界を奪い、呪文を唱えるのを防ぐためかな。身体の自由を奪っても、魔法で攻撃されたら面倒だものね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ