8 甘味を作れる?
「うん。お願い。あと、小麦粉ひと袋と………バターか油はある?それと卵も欲しいの」
「はい。全部あります。ですが、こんなにお買いになられて、なにを作られるんですか?」
「お菓子を作るの」
「「ええ!?」」
「菓子とはなんだ?」
トリーとケシーは驚き固まり、クロムは不思議そうな顔をしている。
クロムはお菓子を知らないのかな?
「お菓子って、甘味のことですよね?最近になって、王都の貴族の間で流行り始めたフレンチトーストやクッキーを、エル様は作れるんですか!?」
「どうやって甘味の作り方を知ったんですか!?」
トリーとケシーがぐいぐい来る。小柄と言っても、わたしより背が高い。あまりぐいぐい来られると、圧迫感がある。
そのとき、クロムがわたしをひょいと抱き上げてくれた。助かった。
「ええと、お菓子っていうのは甘味のことだよ。わたしが作りたいのはケーキなんだけど………」
「ケーキとはなんだ?」
「あのね、クロム。ケーキっていうのは、材料を混ぜて型に入れて焼いたもので、しっとりしてふわふわの食感で、甘くて美味しいの」
「………よくわからんが、それを作れるのか?」
「たぶん?作り方はわかるの。でも、道具も必要だし、火加減も重要だから、失敗するかもしれないよ」
「失敗してもかまわん。やってみろ」
「うん!じゃあ、トリーにケシー、調理道具を見せてくれる?できればケーキの型が欲しいんだけど、なければこのくらいの大きさの鍋が欲しいの。あとはへらと、泡だて器。泡だて器がなかったらフォークをお願い。それから………」
「ケーキは初めて聞いたばかりで、型とやらはありませんねぇ。鍋ならありますが、そんなに小さいのは持って来ていません。木べらはありますが、泡だて器?そんなものは、初めて聞きました。フォークなら大小持って来ていますよ。どれがよろしいですか?それに、お皿も必要ですよね。クロム様はお金に余裕がありますので、木製ではなく、陶器のお皿なんてどうでしょう?あとはコップやスプーンもご入用ですよね。それと………」
そうやって、しばらくトリーと相談しながら必要な物を確認していった。
揃えてもらった物は、クロムがアイテムボックスにしまってくれた。
それから、クロムがそばでわたし達の様子を見守っていた長に声をかけた。
「長よ。残りの品は村ですべて分けるがいい。金は払ってあるから、気にすることはないぞ」
「え?村にくださるのですか?ありがとうございます!」
わたしはかなりの量を買ってもらったと思うけど、遠慮しながら選んだせいか、荷馬車にはまだかなりの量の商品が積まれている。周囲でわたし達の様子を見守っていた村人は、全部で40人くらいだし、全員にわけられるほどの食料が残っていると思う。
周囲を見回して気になったのは、若い男性が少ないこと。老人と女性、そして子供が多い。どうしてかな?男性は出稼ぎに行くとか?
商品を分けてもらえると聞いて、村人はわっと沸き立った。お互いの顔を見合わせて近くの人と小声で話し合っている。
「トリーだったな。今後のことについて話し合いたい。家に行くぞ」
「あ、わかりました。ケシー、あとのことはお願いしますね」
「任せてくれ!」
ケシーが元気よく返事をすると、クロムがわたしを抱いたまま、畑の奥の家に向かって歩き出した。そのあとを、トリーが小走りでついて来る。
わたし達が広場を出ると、ケシーが威勢よく声を張り上げた。
「さあさあ皆さん、お集まりください。お代はクロム様に頂いていますので、お好きな物をお持ちいただいて結構ですよ!」
わっと歓声が上がり、人々が荷馬車に群がった。特に子供が嬉しそうにしている。子供が喜んでいる姿はいいね。
家に帰ってくると、クロムがようやくわたしを降ろしてくれた。
リビングの椅子にクロムと並んで座り、テーブルを挟んで向かいにトリーが座った。トリーは「クロム様の前で、椅子に座るなんてとんでもない!」と嫌がったんだけど、トリーは背が低いから椅子に座ってもらわないとテーブルが邪魔で顔を見て話せないの。
「さて。今後も色々な品を運んでもらいたいのだが、問題はあるか?」
「はい。じつは、リングス商会が拠点にしているアルトーの街からこの村まで片道30日ほどかかります。ですから、頻繁にこの村を訪れることができません」
そんな遠いところから来てくれていたんだ。
「ふむ。それほどかかるか」
「はい。この村は黒の森にありますし、森には街道が整備されておりません。てすから馬車を使えず、ロバに荷馬車を曳かせているのでどうしても時間がかかります」
じゃあ、どうしたらいいんだろう?今から街道を作る?でも、人手がないし、この黒の森は広いよね?片道30日もかかる距離を整備するって、どれだけのお金がかかるんだろう。
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