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79 話し合い

 どうして、ロコル=カッツェもディエゴもわたしにお世話係をつけようとするんだろう。そんなに、わたしは何もできないように見えるのかな?


 確かに、わたしは魔素溜まりから生まれて数ヶ月の幼い魔物だし、力は弱いし、見た目は人間の5〜6歳児程度。身体強化魔法を使わないと料理もできない非力さだよ。客観的に見て、頼りないのはわかる。


 でも、身の回りのことなら大抵ひとりでできるし、魔法が使えるこの身体は、人間ほど頼りなくはないよ。


 人に頼るのが嫌なんじゃないの。わたしにはできないことがいっぱいあるから、頼ることに抵抗はないよ。だけど………まるで何もできない子供扱いされるのは納得がいかない。


 それに、好意を持っているサムサやアリアの働きを馬鹿にされたみたいでイラッとした。


 ランベルがわたしの機嫌が悪化したことを感じ取り、ソワソワし始めた。さっきまでディエゴやワームを警戒してウロウロしていたけれど、いまはわたしの顔をチラチラ見ながらヒゲをピクピク震わせている。可哀想だけど、いまのわたしにランベルを気にかけてあげるだけの余裕はない。


 よし。ディエゴとの話し合いを再開しようか。


「………ディエゴ」


「はい」


 ディエゴはわたしの雰囲気が変わったことを感じ取っているようで、長々と話したりせず、短く返事だけをした。


「わたしのお世話係は、サムサとアリアが十分務めてくれているわ。その働きを馬鹿にして、会ったこともない者をお世話係として押し付けて来るなら、あなたはわたしのことも馬鹿にしているのよ」


「そんなことはありません!エル様を馬鹿にするなんて、ありえません」


 ディエゴが焦った様子で、少し身を乗り出しながら言った。


「じゃあ、見下しているんでしょう」


「とんでもない!」


 ディエゴは今度は立ち上がり、思わずと言った様子で、一歩前に踏み出した。


「………わたしはあまりに幼くて、頼りなくて、自分が手を貸さないと何もできない。そう思っているでしょ?」


「!」


「心の底では、かつての主のようにわたしを育て上げれば、かつての生活を取り戻せるかもしれない。そう思っているんじゃない?」


「それは………!」


「わたしは、漆黒の王アムナートの娘エルスヴァーン。あなたの思い通りにできるほど、優しい相手じゃないよ」


「申し訳ございません!!」


 ディエゴは剣から手を離すと、残像が見えるほどの勢いで地面にひれ伏した。


「漆黒の王アムナート様とは存ぜず、大変失礼をいたしました!」


「………俺を知っているのか」


「もちろんでございます。神の愛し子様」


 神の愛し子?なにそれ?


「その名で呼ぶな」


 クロムが嫌悪も露わにディエゴを睨みつけた。

 

 睨まれたディエゴは、ひれ伏したままビクリと震えた。


「俺を知っているならわかるはずだ。俺は、敵には容赦しない。赦さない。内に入れた者のためなら、何でもするぞ?」


 うわあ。クロムの顔が、あの、わたしには甘いクロムの顔が、甘い物が好きなクロムの顔が、とんでもなく悪い顔になっていた。


 わたしは両手を伸ばしてクロムの顔に触れ、注意を自分に向けた。


 クロムはハッとした顔をしたあと、眉を下げて申し訳なさそうな顔をした。


 クロムが感情的になったことで、自分の頭が冷静になっていくのを感じる。


 ディエゴは、べつにわたしと敵対しようとしたわけじゃない。思惑はあったにしても、わたしの役に立とうと先回りして動いただけ。それに対して、わたしは馬鹿にされたように感じて過剰反応してしまった。落ち着いて「話し合い」をしなきゃいけなかったのに………わたし、子供なんだなぁ。


 空を見ると、太陽が姿を現し、周囲を明るく照らしていた。………ガンフィの朝ご飯を用意してこなかったから、今ごろお腹を空かせているね。急いで帰って、ご飯支度をしなくちゃ。


 ディエゴを見ると、彼はひれ伏したまま微動だにせず固まっていて、その後ろでワームも身動きせずじっとしていた。


「あの、ディエゴ。さっきは感情的になっちゃってごめんね」


「とんでもない。私こそ、申し訳ありません」


「ちょっと家に帰って朝ご飯作らないと行けないから、わたし達が戻るまでここで待っていてくれる?」


「あっ、そうですね。朝食は大事ですからね。私達は、この地でエル様をお待ちしております。どうぞごゆっくりお過ごしください」


「うん。わかった」


 わたしが返事をすると、ディエゴは明らかにホッとした様子を見せた。


 なんだろう?わたし、まだ何にもしてないよね?


「じゃあ、ロコル=カッツェ。ギベルシェンの中から何人か選んで。その子達と一緒にここに残ってくれる?」


「では、6人選ばせていただきます。………他の者は、エル様と共に行きなさい」


「「「「は〜い」」」」


「エルは、にゃ〜が守るにゃ」


「ふふふ。ランベルありがとう」


 ランベルが大きな頭を擦り寄せてきたので、喜んでそのモフモフの頭を撫でさせてもらった。


「………フォレストキャットがしゃべった?………いまの魔物はしゃべるのですか?………いや、エル様が名前を呼んでいましたね。つまり、名持ちの魔物?………そうですか。エル様はフォレストキャットと絆を結んだのですね………」


 ディエゴがなにやらブツブツ言っていたけど、聞き取れなかった。


 わたしは、目はいいけど、耳は人並みなんだよね。



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