78 ゴーレム達
「彼はディエゴだよ。なんで跪いてるのかわからないけど、ちょっと騎士みたいだよね?」
「はあぁっ?」
てっきり同意してくれるものと思っていたら、ロコルナ=ティルリは怒りで顔を赤くした。
………あれ?わたし、なにか間違った?
「エル様、あいつに名前つけたの?」
こわっ。顔こわっ。
「ち、違うよ!ディエゴが自分で名乗ったの」
ふー、ふー。きれいな顔をしているだけに、怒ると顔が怖いよ。
「ふうん。………じゃあ、あいつにはすでに主がいるってこと?」
なぜかわからないけれど、ロコルナ=ティルリの表情が和らいだ。良かった。
「え、そうなのかな。ディエゴ、あなたには主がいるの?」
質問しながら、わたしは混乱していた。ご主人様と、主と、どう違うんだろう………。
「はい。エル様。私には主様方がいます。古代都市アスケルディアから逃れ、この地へやって来た魔法使い達です。私達の創造主様です」
「なるほどな。古代都市アスケルディアか。それなら、おまえの性能の高さも理解できる。今までどう過ごしていた?他に仲間はいないのか?」
クロムは、何かを理解したらしい。わたしは古代都市アスケルディアがどんな街なのかわからないし、ディエゴの言ったことから何を理解すればいいのかわからない。
「先ほども申し上げましたが、私に命令、質問等をできるのはエル様です。あなたではありません」
ディエゴは冷たく言い放った。態度が冷静な分、心に響く。クロムはイラッとしたみたい。
「ディエゴ、クロムはわたしのお父さん………?なの。だからお願い。話を聞いてあげて」
「どうして疑問形なのでしょう。おふたりは似ていませんが、本当に親子ですか」
「わたしは、クロムの魔素溜まりから生まれたの。だから、似てなくても親子って言うんだと思う」
「そうですか。わかりました。「お願い」されましたので、クロムの質問に答えましょう」
………なんでクロムは呼び捨てなんだろう。そして、どうしてそんなドヤ顔なんだろう。ゴーレムのドヤ顔………シュールだ。
………あれ。ロコルナ=ティルリが悔しそう顔をしてる。なんでかな。
「主様方がこの地に移り住んでから、私達はずっとこの地にいます。もちろん、私の他にも主様方にお仕えするゴーレムはおりました。主様方の身の回りのお世話をする者、住居の安全を管理する者、食料の管理をする者、主様方の研究の助手を務める者など、様々です。ちなみに、私は執事を務めていました」
「そんな強そうな剣を持っているのに、執事なの?」
騎士の間違いじゃない?
「古代都市アスケルディアにいたゴーレムでしたら職業別に能力調整をさせていましたが、この地では違います。メイドでも狩りをできなくては主様方の食を満たすことはできませんし、執事が敵の撃退をできなくては、主様方が安らかにお休みいただくことはできかねるのです」
「敵?ディエゴの主達は、誰と戦っていたの?」
「古代都市アスケルディアの魔法使い達です。主様方をアスケルディアから追い出した後も、命を狙って時折、刺客を寄越していました」
「ひどい!」
「そうでもありません。政敵を完膚なきまでに叩きのめすことは、当時はよくあったことなのです」
「え?」
刺客を差し向けることが、よくあったこと?当時の政治はどうなっていたの?
「で、でも、そんなふうに殺してばかりいたら、人が少なくなって都市を維持できなくなるんじゃないの?」
「その通りです。政治闘争が、古代都市アスケルディアが滅んだ原因のひとつです」
政治での戦いで都市がひとつ滅ぶなんて、本当かな?でも、原因のひとつって言っていたし、他にも原因は色々あったんだろうね。
「さて。私の仲間ですが、確認したところ、魔核が残っていたのは騎士隊長のヴィルヘルム、副隊長のアントン、食料管理をしていたバーナビー、メイド頭のユルドでした。他は魔核が壊れています」
「なんだか、重要な地位についていたゴーレムばかり魔核が残っていたんだね」
「主様方をお守りするために、優先的に、魔核を保護する魔法が念入りにかけられていましたから」
「他のゴーレムはどうなった?」
「………魔核がなくなったことで体組織を維持できなくなり、自然崩壊したようです」
「そう………悲しいね」
「問題ありません。残った素材を回収し、身体を再構築いたしました」
どういうこと?身体を再構築って………身体を新たに作ったっていうことかな。でも待って。誰が、どうやってゴーレムを作り直したの?まだゴーレムを作れる魔法使いが残ってるの?そんなわけないよね。遺跡はボロボロでとても人が住んでいるような状態じゃなかったし、昨日までオークが住み着いていたんだから。
「では、再構築したゴーレムは何体いる?」
あ、それも気になるよね。
「とりあえず、4体。小さな魔核しか用意できなかったので、大した能力はありません」
「とりあえず、か。その4体は、何をさせるつもりで作った」
「それはもちろん、エル様のお世話をさせるためです」
「ディエゴ。わたしとクロムの世話ならギベルシェンのサムサとアリアがやってくれるから、いま以上にお世話係は必要ないよ?」
「そのギベルシェンは、従者としての知識や訓練を積んでいるのですか?」
「え、違うよ。でもね、よく働いてくれてありがたいと思ってるの。わたしは、サムサとアリアがいてくれて、すごく助かってるんだよ」