72 アーモンドクッキーを作ります
「エルに似合いそうだな」
「うん。………あ、こっちはチュニックにズボンだよ。上着や肌着もある。………あ、靴も入ってた。………リボンまである?」
アリアからのアドバイスに従って、ルオーにわたしが着る服を注文した………んだけど、思ってたのと違う。こんなお嬢様みたいな服じゃ、森や畑の中を駆け回ることはできないよ。
でも、送り返したらルオーを困らせてしまうかもしれないから、これはこのまま受け取っておこう。そう決めて、木箱に入っていた服等をすべてマジックバッグにしまった。
「?なんだ、着替えないのか?」
「うん。可愛いけど、こんな服を着ていたら料理もできないんだもん」
「………そうか。では、パジャマにするのか?」
「えっと………なんでパジャマ………?」
「違うのか?まあ、エルは何を着ても可愛いから、好きにするといい」
「ありがとう………そうするよ」
今回届いた木箱には、パジャマは入っていなかった。明日、パジャマを頼むことにするよ。さっきの可愛い服達が、シワだらけにするのは悲しいから。
最後の木箱を開けると、男性用の鎧や篭手、脛当て等の装備が入っていた。これはガンフィの物だね。明日、渡してあげよう。そう思いながら、マジックバッグへしまった。
さてと。アリアは戻って来ないし、サムサもいない。今日は畑で休んでいるんだと思う。
………アリアがいないから、お風呂は入れないね。
でも、寝るには早い。
じゃあ、何をしよう?
………そうだ!クッキーの仕込みをしよう!クッキー生地は、作って冷やしておけば時間が経っても食べられるんだよ。
あ………ちょっと待って。うちには冷蔵庫がない。わたしのレシピだと、クッキー生地を冷蔵庫で冷やす必要があるのに。
マジックバッグに入れておけば腐らないけれど、氷と一緒にしておいてもクッキー生地を冷やすことはできない。そもそも、わたしは氷を作れない。やったことがないからね。
困った!!
「エル?難しい顔をしてどうした?」
「う〜〜〜っ。クッキーを作りたいんだけど、冷蔵庫がないと面倒なの」
「くっきー?れいぞうこ?何だそれは」
「クッキーはお菓子だよ。それで、えっと………冷蔵庫はね………」
木札とペンを取り出し、わたしは冷蔵庫の絵を描いた。
「これは、箱か?何をする道具なんだ?」
「中に入れた物を冷やす道具なの」
「よくわからんが、これがあれば、くっきーとやらが作れるのか?」
「そうだよ。でも、時間と手間がかかるけど、氷があればクッキーが作れるよ」
「そうか!氷なら、俺が作ってやろう」
「ありがとう。これくらいの大きさを作れる?」
わたしは、両手で氷の大きさを示した。
「ああ、問題ない」
そう言って、クロムは氷を10個も作ってくれた。多いけど、少ないよりはいい。マジックバッグにしまっておけば、いつでも取り出して使えるもんね。
クロムが作ってくれた氷は、溶ける前にさっさとマジックバッグへしまった。
「クロム、ありがとう!今夜はクッキー生地だけ作って、明日焼くね」
「なんだ。今日は食べられないのか」
明らかにガッカリした様子で、クロムが肩を落として悲しそうにしている。
「明日には食べられるんだから、そんなにガッカリしないで。お風呂に入ってきたら?」
「ああ、そうする」
ふらふらと左右に揺れながら、クロムはお風呂場へ歩いて行った。
クッキーは初めて作るのに、そこまで期待してくれるなんて嬉しいな。気合を入れて作らないといけないね!
わたしが作るクッキーは、溶かしバターに砂糖と卵黄、アーモンドプードル、薄力粉を順番に加えては混ぜて、棒状に伸ばして冷やし固めるの。そして卵白を塗って砂糖をまぶして薄くスライスしたら、鉄板に並べて焼くんだよ。とっても美味しいの。
まずは、材料を用意しないとね。
えーと………アーモンドプードルは………あるね。よかった!粉がなかったら、実をすり鉢でゴリゴリ擦らなきゃいけないところだったよ。できないことはないけど、粉にするのは時間がかかるんだよね。
次に、抹茶とココアパウダーがないか探したけれど、そのふたつはどこにもなかった。
残念だけど、ないものはしかたない。今回は諦めよう。
ということは、いま作れるクッキーは基本となるプレーン味のみ。
プレーン味のクッキー生地を大量に作っておいて、好きな時に焼けるように準備しておこうっと。
わたしは持っている中で1番大きなボウルにバターを入れ、湯煎で溶かし始めた。コンロはふたつあるから
もうひとつのコンロでも同じようにバターを湯煎で溶かしていく。木箱に入っていたバターは室温になっていたようで、すぐに溶けていく。ある程度溶けたら、ボウルをコンロから降ろして、予熱で残りのバターを溶かす。
そこに砂糖を加えて混ぜる。分離して混ぜきらないけれど、いまはこれでいい。
卵は殻を使って卵黄と卵白に分けて、卵黄だけボウルに入れる。卵白はあとで使うから、ちゃんととっておく。
卵黄を加えて混ぜたボウルの中身は、さっきまで分離していたのが嘘みたいに、全体が馴染んでいく。
次にアーモンドプードルと薄力粉を加えて、木べらで混ぜれば生地は出来上がり。