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「では、ダイダロスについて詳しいだろう。………見た目はどうだ?どんな男だ?」
「?」
クロムは、どうしてそんなことを聞くんだろう?騎士団長の見た目が、何と関係があるんだろう?
「ギベルシェン達がダイダロスがどんな男か知っていれば、むやみに攻撃することはないだろう。殺すことなくうまく誘い出して、この村へ連れて来るようにしたほうがよい」
「そうか!………そうですね。ラーシュを味方にできれば心強い。この村まで連れて来てもらえれば、私が説得します」
「ラーシュの背は高く、私よりわずかに低いくらいです。よく鍛えられた身体は体格がよく、自分の身の丈ほどもある大剣を背に担いでいます。年は42歳。短く切り揃えた金の髪に、青い瞳をしています」
「あれ、ガンフィと一緒だね。ガンフィも、髪の色が金色で、瞳が青だよね」
「そうです。我がハノーヴァー王家の色は、金の髪に青い瞳なのです」
「顔もガンフィと似てるの?」
「いいえ。顔は、ラーシュの方が整っていて、かなりハンサムですよ。おかげで、若い頃から女性にモテていましたね」
王子よりモテる騎士って、どんな人なんだろう?
「アリカ、いま聞いた騎士団長の特徴をギベルシェン達に伝えてくれる?見つけたら、村まで連れて来てほしいの」
「連れてくるのはいいけど、人間の美醜なんてわたし達にはわからないよ?」
「そっか。魔物にとって重要なのは、強さだもんね」
「そうそう」
「じゃあ、人間を見つけたら村まで連れて来て。その後のことは、相手によって考えよう?」
「いやいやいや!エル様、ラーシュかわ来るとは限らないのですよ?さっきも言いましたが、ハノーヴァー国の高位貴族は王家の血を引いている者が多いのです。そして貴族家の次男以降は、騎士団に所属している者も多いのですよ。村に連れて来た人間が、中立ならまだしも、敵側の者だったらどうするのか!」
わたしとアリカの会話を聞いていたガンフィが、慌てて話に割り込んできた。
敵側の者だったらどうするのか?
確かに、ガンフィの言うとおりだね。
「それなら、連れて来た人間は、森に家を建ててそこに閉じ込めておけばいいんじゃない?」
「森に?」
「そう。森ならクロムの結界がないから魔物が寄ってくるけど、ガンフィを追いかけて来るような騎士なら、魔物くらい平気だよね?」
「それは………騎士なら、魔物くらい平気でしょうが、どうやって閉じ込めるおつもりで?」
「ふふんっ。家は、地下に建てるの。あとは、ギベルシェンに見張りをしてもらえば逃げられないよ」
「なるほど。地下か。エル、よく考えたな」
クロムに褒められて、わたしは嬉しくなった。
とっさの思いつきだったけれど、結果オーライというやつだ。
「まあ、何にしても、ラーシュかどうか、見分けてもらえたらありがたい」
「どうやって?金髪で青い瞳の騎士はいっぱいいるんじゃないの?」
「それはそうですが。身の丈ほどの大剣を、自らの身体の一部のように扱えるのはラーシュだけです。一度戦ってみれば、ラーシュかどうか判断がつくはすですよ」
「わかったわ。おっきい剣を持ってる強い剣士を連れて来ればいいんでしょ。任せて」
そう言って、アリカはガンフィが止める間もなく寝室を出て行った。
ガンフィは何か言おうとしたのか、アリカに向かって手を上げたまましばらく固まっていたけれど、諦めたようなため息をついて手を降ろした。
話は済んだので、ガンフィを残してわたしとクロムは家へ帰って来て。サムサはいなかったけれど、台所はきれいに片付いていた。
家の居間には、木箱がふたつ置かれていた。台所にも、木箱がひとつ置かれている。サムスが洞窟から運んでくれたのかな。
クロムに下に降ろしてもらい、台所へ行って木箱の蓋を開けた。中には大量の砂糖やバター等が入っていて、見た瞬間に嬉しくなった。
やった!これだけあれば、色々作れるよ。
木箱に入っていた物を、すべてマジックバッグにしまった。マジックバッグの中は時間が停止しているから、中の物が腐ることはない。
そして、木箱の底には、わたしが欲しかった泡だて器が布に包まれて入っていた。
「なんだそれは?」
「泡だて器だよ!これがあれば、お菓子作りがうんと楽にできるの。本当に嬉しい!」
「そうか。良かったな」
お菓子と聞いて、クロムと笑顔になった。
「うん!あっちは、何が入っているのかな?」
小走りで居間に戻り、ひとつ目の木箱を開けた。その中には、大量の色とりどりの布が入っていた。
「??」
1枚取り出して広げてみると、それは服だった。大きさからいって、わたしの服。綿でできた、たぶん裕福な平民の子が着る服で、フリルやレース、刺繍などで飾り付けられている。手触りもいい。生地はきれいに染色されていて、服のセンスのないわたしでも、おしゃれな服だとわかる。女の子らしい水色の可愛いワンピースは、フリルのついた袖が特徴的で、後ろのスリットからは繊細なレースが覗いている。裾には、丁寧に刺繍が施されていた。