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「エル。そろそろガンフィに報告に行くぞ。遺跡の様子を聞きたがっているだろう」


「あ、そうだね!じゃあ、遺跡や魔法陣の調査は明日だね」


「ふむ。そうだな。それでいいだろう」


 ガンフィが泊まっている家に向かって歩き出したクロムの後を、サムサが当たり前の顔をしてついて来る。


 アリアはカイトを畑へ連れて行ったまま、戻って来ていない。いま、畑には他のギベルシェン達がいないから、カイトに危険がないように付き添ってくれているんだと思う。


 アリアが戻ったら、その気遣いを褒めてあげなきゃね!


 ガンフィが泊まっている部屋の前に来ると、クロムが開けるまでもなく扉が開いた。ガンフィに付き添っているアリカが開けてくれたの。


 ガンフィは部屋の空いているスペースで、スクワットをゆったらとしたペースで行っていた。


 え?訓練をするには、まだ早いよね?


「え〜と………ガンフィ?元気そうだね?」


「これはクロム様、エル様。少しづつ、調子を取り戻すように身体を動かしているところです。思ったより動けて安心しました」


 そう言って、ガンフィは嬉しそうに笑った。


「………それは良かった。話したいことがあるから、席についてくれる?」


「はい」


 クロムはわたしを自分の正面に抱え直し、わたしを自分の膝に乗せて椅子に座った。


 それを見てガンフィは苦笑し、わたし達の正面の椅子に座った。


 そしてクロムが、森の中にあった遺跡を確認したこと、その遺跡を呪いを受けたオークの群れが守っていたこと、そしてオークが死んだあとは魔石を狙って多くの魔物が集まって来たこと、オークのボスの魔石を砕くと、魔物が散り散りに逃げて行ったことを順を追って話した。


「………なるほど。魔物の魔石に呪いを封じることで、魔法陣を守らせていたのですか」


「………うん。そうだね」


「………?エル様、何かありましたか?」


「えっ?」


「これはカンなのですが、エル様が悲しそうに見えたもので………」


 う〜むむっ。普通にしているつもりだったのに、ガンフィに気づかれてしまった。鋭いね。


「エル?悲しいのか?」


 クロムがわたしの顔を覗き込んできた。眉が心配そうに下がっている。

 

 あぁ、ここは、誤魔化さずに正直に言ったほうがいい………かな?


「………あのね、悲しいのかは自分でもわからないんだけど。魔法陣を守るために魔物が利用されていたのが許せないの」


「この世は弱肉強食だ。弱い者は利用される」


「うん。それはわかるよ。でも、ちょっと違くて。その………食べるために殺されたり、殺して素材を利用されるのは納得できるの。食べること自体は人間じゃなくても魔物同士だってするし、素材を利用するのは悪いことじゃないから」


 じゃあ、何が納得できないのか?


「でもね、魔法陣の守護者として呪いに縛られて生きるのは、洗脳されて、遺跡から離れられなくしてまで魔法陣を守るのは、魔物達の意思をまるで無視した行為でしょ?生きているのに、ただの道具のように扱われるのは許せないよ。何年続いたのか呪いがわからないけど、終わることのない拷問のようなものだよ。わたしは、魔物が意思のない道具のように扱われるのが嫌なの」


「………」


「………」


「………エル様の仰るとおりです。知らなかったこととは言え、王家の人間としてお詫びいたします」


 ガンフィが立ち上がり、頭を深く下げた。


「ううん。今回のことは、ガンフィのせいじゃないよ。あの魔法陣を作らせた、過去の王のせいでしょ」


 そもそも。王城を脱出するための魔法陣が、黒の森に繋がっていたことが問題なんだよ。かつての王様は、どうしてあんな場所に魔法陣を設置したんだろう?王城を逃げ出してきても、その脱出先が魔物の巣窟じゃ、普通の人間は魔物に殺されてしまうよ?


 運良く遺跡から逃げ出せたとして、ここは黒の森の奥深く。とても、無事に人里まで辿り着けるとは思えない。


 実際、ガンフィは魔物に襲われて死にかけたしね。


 ………あの魔法陣は、脱出用の魔法陣なんかじゃなくて、逃げ出した王族にトドメを刺すためのものなんじゃないかな。


 だとしたら、納得できるんだけど。


「ねえ、ガンフィ。遺跡の魔法陣は、王家の者しか使えないって言っていたよね」


「そうです」


「そっかぁ………」


「エル。何が気になるんだ?」


「………なんだか、ガンフィが毒に侵されたら、魔法陣を使って王城を脱出することを敵に予想されてたんじゃないかと思ったの」


「ふむ。それで?」


「ほら。ガンフィは家族を危険に晒さないために王城を脱出したって言っていたよね。ガンフィをよく知っていて、ガンフィの行動を予測できる人物だったら、ガンフィが自らあの魔法陣を使って王城を脱出するよう誘導できたんじゃないかと思うの」


「確かに。エルの言う通りだ」


 静かに頷くクロムとは違い、ガンフィは青い顔をしてわたしの次の言葉を待っている。


「王城にいる人間で、ガンフィの顔を知らない人間はいないよね?ガンフィが密かに王城を脱出するためには、脱出用の魔法陣を使うしかないでしょう?そして、魔法陣の先が魔物の巣窟になっていることを知っている人物がいたとしたら、その人は自分の手を汚さずにガンフィを殺すことができる」



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