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 ロコル=カッツェは次々と魔石を取り出していき、ある大きなオークの身体から魔石を取り出したところで動きを止めた。その魔石は、それまでの魔石より大きく、黒く禍々しい色をしていた。


 魔物達が、ロコル=カッツェがその魔石を手にした瞬間、色めき立った。次々に吠えて、ギベルシェン達を乗り越えて行こうと騒ぎ出した。そんな魔物達の命を、ギベルシェン達は容赦なく奪っていく。


「砕け」


 クロムの低い声が、怒りを孕んで辺りに広がった。


 ロコル=カッツェはツタをドリルのようにして、手にした魔石に当てた。魔石は呆気なく粉々に砕け散った。その瞬間、黒い魔石から何か禍々しいものが霧散していくのを感じた。


 周囲の空気が変わると、魔物達の動きが止まった。


「………去れ」


 クロムが再び威圧をかけると、魔物達は一斉に逃げ出した。そして、無数の死体の山と魔石が残った。


「………呪い、か」


 クロムがポツリと呟いた。その顔は苦々しい。


「どういうこと?」


「オークの長は、呪いに囚われていたのですよ。遺跡の守護者という呪いに、ね」


「おそらく、ここに魔法陣を設置した人間が魔法陣を守るために魔法をかけたのだろう」


「いったい、どれほどの魔物が呪いに囚われて命を落としたことか………酷いことをしますね」


 クロムとロコル=カッツェはわかったようだけど、わたしにもわかるように説明してほしい。


「エル、オークの長にかけられていた呪いは、この魔法陣を守るためのものだ。魔法陣から一定の距離を離れることなく、襲って来る敵を倒すよう呪いがかけられている。問題は、魔法陣の守護者が倒された後だ。守護者の魔石が魔物を呼び寄せ、元の守護者の魔石を新たな守護者が喰らうことで呪いが引き継がれる」


「………つまり、元守護者だったオークが倒されたから、呪いが次の守護者を求めて森の魔物を引き寄せたってこと?」


「そうです。最終的煮残った魔物が、次の守護者になる予定だったのでしょう」


「でも、ロコル=カッツェが魔石を砕いたから、呪いが弾けて魔物が逃げちゃったんだよね?」


「そうだ。魔石という器がなければ、呪いはその力を発揮できない」


「もう魔物は呪いに引き寄せられることはないし、勝手に魔法陣の守護者にされることもないんだよね?」


「安心したか?」


「うん。でも………」


「でも、なんだ」


「ここに魔法陣を設置して、魔物に呪いをかけたのは人間だよね」


「そうだな。それがどうかしたか?」


「人間は、勝手に守護者にされる魔物のことを考えたのかな?呪いにおびき寄せられてやって来た魔物が守護者になると、この地に縛り付けられて遺跡から離れられなくなるんでしょ?守護者はたぶん呪いに精神攻撃されて、魔法陣を守らなきゃいけない気持ちに捺せられていたと思うの。そうじゃなきゃ、魔物が魔法陣を守ることなんかしないと思うから。そこまでして魔法陣を守らせ用とした人間は、魔物のこも。少しでも考えてくれたのかな?」


「………人間は、自分達こそがこの世界の上位種であると考えている。魔物のことは、食料や素材が採れる生き物ぐらいにしか考えていないだろう」


「………魔物の肉は美味しいし、良い素材もいっぱいあるもんね。でも、魔物は本能のままに生きているけれど、感情だってあるのに。ドウグのように使い捨てられる存在だなんて悲しいよ」


「ならば、進化するしかない」


「………進化すれば、使い捨てられなくなる?」


「ああ。進化し、知識を得て、力を手に入れれば、ただの魔物ではなくなる。名を持ち、発言力を手にしたならば、その存在を人間も無視できなくなる」


「それは、並の魔物にできることじゃないよね?」


「そうだな。ほとんどの魔物は本能のままに生きて、そして死ぬ。この世は弱肉強食だ。多くの魔物は進化の前に食われて死ぬ。苦労して名持ちになったとしても、人間が無視できなくなるほどの強者はほんの一握りだ。そもそも、人間は臆病だ。無視できないほどの魔物が現れたら、大抵は徒党を組んで討伐にやって来る。生き残りたいなら、ひっそりと息を潜めているか、人間では手出しできぬほどの力を身に着けることだ」


「………クロムは、討伐されない?」


「そうだ。俺は討伐されない。俺は魔物の王だからな」


 そう言って、クロムは笑った。だけど、顔は笑顔なのに、目は笑っていなかった。どこか寂しげで、何かを諦めたような目をしていた。


 わたしは急に胸がざわついて、クロムの首にぎゅっと抱きついた。


「どうした」


「わたしは、ずっと一緒にいるよ。人間にやられたりしない。ずっとクロムの傍にいるよ」


 クロムの胸元に顔をグリグリと擦り付けると、クロムがクックッと笑った。


「懐かれるのも、悪くないな。………ん?」


 クロムの様子に異変を感じて辺りを見回すと、森の木々の間をすり抜けるようにして向かって来る一匹の猫が見えた。美しい白い体毛に、すらりと伸びた肢体、ぴんと立った耳が可愛らしい。わずかに開けた口の中には、ピンク色の舌が見える。その身体は猫にしか見えないのに、サイズがちょっとおかしい。近くまで寄ってきた猫の頭の高さが、クロムに抱かれているわたしと同じくらいなの。


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