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わたしは畑全体に魔力を流し、再び花をつけ、実がなる様子をイメージした。昨日より魔力を持っていかれる感じがしたけど、実際は成功した。緑の葉っぱの中から蕾が出て、花が咲き、実がみのった。木にも鈴なりに実がついている。
そうなると、畑中央の赤黒い血の跡が気になってくる。わたしは平気だけど、血の跡が残る畑で収穫するのは嫌だと思う。それで、雨を降らせて血を洗い流した。土が少しぬかるむけどしかたない。
家に帰ってくると、ルオーに当てて追加の手紙を書いた。そろそろ砂糖や卵、バターなんかの残りが少なくなってきたから、送ってほしいと書いたよ。
今頃、長から説明を受けた村人がわたしの畑へ行って野菜や果物を採っている頃かな?様子を見に行ったほうがいいのかな?でも、わたしが行くとクロムがついて来るから緊張するよね。採られて困る物はないし、立ち会わなくてもいいかな。
そうだ。せっかくグラムス芋が出来たんだから、砂糖を作れないかやっえみたい!………いや、やっぱりやめておこう。時間がかかるし、手間もかかりそう。
それより、ガンフィのためにごはんを作らなくちゃ。
鳥ガラスープは飽きているかもしれないから、違うスープを作りたいな。トウモロコシがあるから、コーンスープでもいいな。それともオニオンスープかな?
う〜ん。今から作れば、コーンスープはお昼ごはんに間に合うよね。オニオンスープは夜ごはんかな?
………よし、両方作ろう!
まずは、トウモロコシの皮を剥いてトウモロコシを塩茹でしよう。
トウモロコシを茹でている間に、玉ねぎを薄切りにしていく。どんどん薄切りにしていく。次々、薄切りにしていく。………泣く。どうせ作るなら大量に作っておきたいから、泣きながら玉ねぎを切っていく。
「エル、どうした!?」
わたしの様子を見たクロムに心配されたけど、こればっかりはどうしようもない。なんで玉ねぎを切ると、涙が出るんだろうね?
「大丈夫だから、クロムは休んでて」
「………俺は邪魔か?」
「違うよ。クロムに美味しい物を食べてほしいから頑張ってるの。だから、そんな心配そうに見られたら困っちゃうよ」
「そうか。なら、俺にも手伝えることはないか?」
「え?」
「なんだその顔は。俺だって、指示されれば手伝いくらいできるぞ」
嬉しい。正直言って、2つのスープをひとりで作るのは大変だったの。人手が欲しかったんだよ。でも、クロムにお願いするのは悪い気がして言えなかったの。
「ありがとうクロム!じゃあ、この玉ねぎが茶色になるまで弱火で炒めてくれる?」
「わかった。茶色になるまでだな」
ふふっ。料理経験のないクロムは、大量の玉ねぎを炒める大変さも知らず簡単に引き受けてくれたよ。嬉しいなぁ。
玉ねぎがたいに入った寸胴をクロムにまかせて、わたしはコーンスープを作ることにする。茹で上がったトウモロコシの実を包丁で削ぐように切っていき、残った芯は4等分にする。それを水から煮て(本当はコンソメスープが欲しい!)、実が柔らかくなったところで芯を取り出し、実はすり鉢に入れる。そしてすりこ木ですり潰して細かくなったら実を鍋に戻す、というのを繰り返す。次にミルクを加えて、塩コショウで味付けをする。
味見をする。うん。美味しい。
隣でひたすら玉ねぎを混ぜているクロムにも、コーンスープを味見してもらう。
「美味い!なめらかで、クリーミーで、甘みがあるな」
喜んでもらえてよかった。トウモロコシをひたすらすり潰したかいがあるよ。
さてと。お昼ごはんのメインは何にしよう?簡単にステーキにしたいけど、ガンフィの胃に負担がかかるかもしれないから、ハンバーグのほうがいいね。
「それで、エル。この鍋はまだ混ぜないとだめなのか?いい加減、飽きてきたのだが………」
そうだよね。ほとんど変化のない玉ねぎを混ぜているだけなら飽きるよね。わたしでも飽きるよ。だからやりたくないんだよ。でも、やってもらうよ?わたしはハンバーグを作るからね。
「ごめんね。手伝いたいんだけど、わたしはハンバーグを作るからもう少し頑張って」
「そうか。ハンバーグは美味かったな。いいだろう。茶色の玉ねぎは俺に任せろ」
「ありがとう」
というわけで、まずは玉ねぎを切ってみじん切りにする。それを見ていたクロムが、微妙な顔をしていた。玉ねぎを透明になるまで炒めたら、肉を出してミンチにしていく。早く、ひき肉にする機械が欲しいなぁ。
あれ?ルオーに注文してたよね?それとも、まだだったかな?
昨日作った時と同じく、ハンバーグを焼きながらソースを作った。
ポテトサラダも作りたかったけど、コンロの数が足りない。もう1台オーブンコンロが必要だね。
クロムが混ぜてくれている寸胴を覗くと玉ねぎが茶色になっていて、ここまで焦がさずに丁寧に混ぜてくれたクロムにお礼を言った。
空いたコンロを使って、ポテトを茹でることにした。やっぱりポテトサラダが食べたいからね。
頑張ってくれてクロムには、少し休憩してもらうことにした。クロムが持っているケーキを出してもらい、8等分にカットする。まな板は返してもらい、ケーキはお皿に並べた。お茶と一緒煮出すと、クロムは嬉しそうに笑った。