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「よく俺を覚えていたな」


 ガンフィの言葉遣いは、わたしやクロムに対するときと違ってくだけている。こちらの方が、ガンフィらしい。


「当然です。クロム様と戦って生き残られた方を忘れるはずがありません」


 ふむふむ。なるほどね〜。………つまり、クロムは向かってきた者は殺す主義っていうこと?ううっ。クロム、優しくないね。


 オイクスは、英雄を見るようなキラキラした眼差しをガンフィに向けている。


「少し、話がしたいんだが。中に入ってもいいだろうか?」


「もちろんです。どうぞ」


 家の中に入ると、オイクスがガンフィにお茶を用意しようと動き出した。見ていると、手際がいい。スープもオイクスが作ってくれたって言うし、普段の家事はオイクスがやっているのかな?人は見かけによらないって言うけど、そのとおりだね。オイクスに家事は似合わないよ。


 オイクスはガンフィと長の前にはお茶を丁寧に置いたけど、クロムとわたしの前には渋々といった感じで置いた。飲んで見ると、美味しかった。ううむっ。オイクスの家事スキルは侮れないね。


「それで。クロム様とエル様までご一緒とは、どのようなお話ですかな?」


 ガンフィはオイクスをちらりと見て、少し考える仕草をした。


 その気持ちはわかるよ。たぶん、どこまで話すか考えているんだよね?長は口が硬そうだけど、オイクスはなんだかしゃべりそうなんだよね………。


「ここだけの話にしてほしいのだが、かまわないだろうか?」


「ガンフィが黙っていて欲しいって言うなら、誰にも言わないぜ」


 オイクスは自信満々に胸を張る。う〜ん。信じていいのかな?


「ガンフィ殿、オイクスはこう見えて約束は守る男です。信じてはくださらんか」


「………わかった。話そう。俺は今、命を狙われている。命からがら逃げて来たところを、クロム様に救われたんだ」


「何だって!?」


「………アーヴァメント達に運ばれてきた男というのは、ガンフィ殿でしたか。しかし、逃げて来たとはいったい?アルトーの街から逃げ出したということですかな?お供の者もいないようですし、逃げるにしても、黒の森のこんな深い場所へ来る理由がわかりません」


 まあ、そうだよね。普通は逃げ出すなら、安全な土地を選ぶよね。


「長は、10年前のことを覚えているか?」


「はい。覚えております。若者が護衛を連れて、我々が止めるのも聞かずクロム様の洞窟へ向かい、帰ってきたかと思えば暗い顔をして死者を弔いたいと申し出てきたのです。てっきり、洞窟にいる魔物にやられて引き返して来たかと思えば、クロム様に鱗を頂いてきたと言う。それほどの偉業を成し遂げたなら、もう少し晴れやかな顔をしているものでしょう。しかしガンフィ殿は失った仲間のことを思い、自らの行いを悔いているようでした。そんな若者のことを、忘れられるはずがありません」


「ああ、あれは俺の過ちだ。しかし、それだけ覚えているなら俺の名前も覚えているだろう?」


「はい」


 それって、ガンフィがガノンドロフ王子だっていうことを知っているってこと?


「義母と姉が、俺の命を狙っている。家を飛び出し、気づいたらこの森にいたんだ。移動方法は聞くな。言えない」


「ガンフィは家族に命を狙われてるのか!?なんで?」


「………」


 オイクスは驚き、長は考え込むように沈黙した。


「それで、身体を休めるために少しの間この村に居させてほしい」


「わかった!好きなだけいてくれよ、ガンフィ。いいよな、じいちゃん?」


「しかし………」


 長の様子を見ていると、たぶん長はガンフィの正体を知っているんだと思う。王妃とミルドレッドから命を狙われているとなれば、下手したらこの村が戦場になるかもしれない。この村のことだけを考えるなら、ガンフィに出て行って欲しいと考えても無理はないと思う。


「今、ギベルシェンに森を捜索させている。怪しい者がいればすぐにわかるだろう。それに、ガンフィがこの村にいるのはそう長いことではない。いいな?」


「………わかりました。しかし、森に何者かが潜んでいるかもしれないとなれば、村人を森へ行かせるわけにはいきません。そうなると、食料が乏しいこの村では厳しいのですが………」


「それなら、わたしが食料を提供するよ。わたしの畑にある野菜と果物を食べていいよ。それならいい?」


「エル様、ありがとうございます」


 今日はギベルシェンがいないから畑仕事を休もうと思っていたけど、これで休めなくなったね。


「これから畑に作物を実らせるから、採りに来るのはそのあとにしてね」


「承知しました」


「それから、ギベルシェンがいないから魔物には十分気をつけて。子供だけで来るようなことはしないでね」


 長とオイクスに別れを言って、わたし達は長の家をあとにした。


 ガンフィはひとりで泊まっている家に向かい、わたしとクロムはふたりで畑へ向かった。


 畑は実を収穫した後の緑と、ギベルシェンが埋まっていた土の茶色の中で、ガンフィの血の跡の赤黒い色が目立つ。


 さて。どうしようかな?手の空いたギベルシェンがいないから、種まきをするならわたしとクロムだけでやらないといけない。でも、この広さをたったふたりで種まきするのはきつい。どうにか、楽して実をみのらせる方法がないかな?木の実(果物)は魔力を流せば実がなるけど、野菜はそうはいかないよね。


 それとも、野菜もこの葉っぱだけの状態から実をみのらせることができるかな?まあ、できなければ、今日は果物だけ食べてもらえばいいよね。よし、やってみよう。



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