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「ふむ。熱いが、これも美味いな。ソースがいい」
クロムが先にピザに手をつけた。まずは、トマトのピザだね。それを見て、ガンフィも大皿に乗っているトマトのピザに手を伸ばした。
「美味しい!こんなに柔らかくもちもちしたパンは初めてだ」
うん。それ、パンじゃなくてピザなんだけどね。喜んでくれて何よりだよ。
わたしはトマトのピザを食べたあと、じゃがいものピザを食べた。こちらはチーズかわ美味しい。
クロムとガンフィは、ふたりで用意したピザをほとんど食べてしまった。クロムはいつも通りだけど、ガンフィもよく食べたと思う。お腹をさすって、苦しそうにしている。身体が大きいから、沢山食べるのかな。
「エル様、ありがとうございました。これほど美味しい物は、王宮でも滅多に食べられませんよ」
「そうなの?王宮の食事も、あんまり美味しくないんだね」
「ええ。そうですね。妻や子供達にも食べさせてあげたいです」
「子供達?ガンフィには、何人子供がいるの?」
「2人ですよ。ちょうど、エル様と同じくらいですね。7歳と6歳です」
「そうなんだ」
わたしは、魔素溜まりから生まれてまだ数ヶ月だけど、見た目だけなら6歳くらいだもんね。ガンフィは、自分の子供達とわたしを重ねて見ているのか、優しい目をしていた。
「そういえば。ルオーから荷物が届いていたの。たぶん、ガンフィの服が入っていると思うよ。出してみるね」
マジックバッグから木箱を出して蓋を開けた。中には、予想通り服が入っていた。地味な茶色のシャツとズボン下着だ。防具はないけど、靴や剣もある。剣が入っていたから、木箱が大きかったんだね。
ガンフィが着替える間、クロムとわたし、アリカは部屋の外で待つことになった。小さなレディ(わたし)に男の着替えは見せられない、という理由で。わたしはレディなんかじゃないのに。そんなことで押し問答してもしかたないので、わたしは待っている間、手紙を読むことにした。
手紙には、ガンフィに服を送ることが書かれていた。それと、きちんとした服は仕立屋に急がせて仕立てさせているので、もう少し待って欲しいとのこと。それから、村でのガンフィの状況に対する問い合わせと、黒の森に変化がないかなど、心配する言葉が並んでいた。そして最後に、村で採れる野菜と果物は人気があるので、できれば送ってほしいが今の状況では難しいだろうか?と書かれていた。そして、ついでのように、収穫物が入っていた木箱やカゴは送り返す、と書かれていた。
ふふ。この、木箱やカゴを送り返してくれるの嬉しい。だって大量の収穫物を運ぶには、入れ物が必要だもの。
実を言うと、野菜や果物のことはすっかり忘れていた。世話をしてくれるギベルシェン達が森に入っている以上、畑の世話をすることはできない。人手が足りないもの。だからって、村人に畑の世話を頼むのはよくないと思う。コロコロ言うことを変えていたらそれだけで信用をなくすし、村人だって混乱すると思うから。
ルオーには、今の状況が落ち着くまで野菜や果物は待ってもらうことにしよう。
それにしても。長にはガンフィについて説明しに行かなきゃいけないよね。何と言っても、村の長なんだから。突然、村に血まみれの男が現れたら驚くし、かぜ村に来たのか、どうして血まみれだったのか知りたいだろうと思う。
本当だったら、昨日のうちにオイクスあたりが駆け込んで来てもおかしくなかったんだけど、ガンフィが血まみれで運ばれたのを聞いて、知りたいのを我慢してくれているんだと思う。
「クロム。ガンフィのこと。長に紹介したほうがいいと思うの。これから行く?」
「そうだな。早いほうがいいだろう」
「わかりました。今から行きましょう」
わたし達の話を聞いていたらしいガンフィが部屋から出てきた。ボロボロだったひらひらの服を脱いで、どこの肉体労働者?と思うような服を着ている。元々ガタイがよくて身長があるから、傍に立たれるとかなりの圧迫感がある。質素な服だけど、とてもただの人には見えない。
「少し待って。ルオーへの返事を書いちゃうね」
ささっと手紙を書き、アリカに魔法陣へ持って行くように頼んだ。
「じゃあ、手紙を届けたら部屋の掃除をするから。ガンフィはゆっくりしてきてね」
と言われて、ガンフィは素直に頷いた。
それからわたし達は、ガンフィと一緒に家を出て長の家へ向かった。村人はガンフィを見て驚いたようにしているけど、近づいて来たり、声をかけて来る者はいない。只者じゃないってわかるのかな?
長の家に着いて扉をノックすると、警戒した様子のオイクスが顔を覗かせた。
大柄なオイクスだけど、頭の上の耳を除くと身長はガンフィの方が高い。オイクスはガンフィを見上げると、驚いたように目を見開いた。
「………ガンフィ?」
「その顔はオイクスか?大きくなったな」
そっか。ガンフィは10年前にも村に寄っているんだっけ。ふたりとも、よく覚えていたね。
「じいちゃん、ガンフィが来たぞ!」
オイクスに呼ばれて、長が家の奥から出てきた。そしてガンフィを見ると、懐かしそうに目を細めた。
「これはこれは、ガンフィ様。よくおいでになりました」
長は、ガンフィの正体について知っているのかな?深々と頭を下げた。