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5 商隊が来た 2日目

 わたしは残されていた切り株のひとつを見つめた。小さな芽を出し、懸命に生きようとしている。


「家になって」


 めきめきめきっ!


 声をかけると切り株が急激に成長し、膨れ上がり、そして大きく口を開けたかと思えば、ドアが生まれ入口を塞いだ。窓もあり、よろい戸がついている。しかも2階建てだ。想像していたよりも大きく立派で驚きしかない。


「大したものだ。これなら、寝心地がよさそうだ」


 褒められるのは嬉しい。


 と、その時。


「なんだこりゃあ!」


 長の孫でオイクスと呼ばれていた黒い獣人が現れた。


 その後ろからやって来て、遠巻きにこちらの様子を伺う十数人の獣人の姿が見える。


 人混みをかき分けて、長が現れた。


 あ、どうしよう。勝手なことをして、怒られるのかな。


「クロム様、これは………なにをなされたのですか?」


「エルが洞窟では寝られんと言うので、ここに家を作らせたのだ」


「エル??」


 長はなんのことかわからないと言いたげに、首を傾けた。


「俺の娘だ」


「はっ!?クロム様のお嬢様ですと?」


 そのときになって、初めて気づいたと言わんばかりにに長は目を見開いた。背を精一杯伸ばし、クロムの腕の中にいるわたしを見つめている。


「アムナート様って独り身じゃなかったか?」


「この、ばかっ。クロム様って呼べって長に言われたばっかりだろう!」


「きれいな子だね」


 集まった獣人達がざわついた。


「クロム様のお嬢様でしたか。わしはこの村の長を任されております、オラクルと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 長オラクルが、深々と頭を下げた。


「エルです。よろしくお願いします」


「はっ、可愛い!………いえ、ご丁寧にありがとうございます」


「あの、ここに家を建てたのはわたしなの。勝手に家を建てて、怒ってる?」


「とんでもない!」


 長オラクルは首をぶんぶんと横に振った。振り過ぎて、頭が取れるんじゃないかと心配になるほど。


「このように立派な家を見るのは初めてなので、みな驚いているだけです。さすがクロム様のお嬢様です」


 褒められるのは、素直に嬉しい。


「話は済んだな。では、俺達は寝る。くだらないことで起こすなよ」


 そう言い捨てて、クロムはわたしを抱いたまま、できたばかりの木の家へ入った。


 扉はきしみもなくするりと開き、そして静かに閉まった。中は台所とリビングが繋がっていて、お客さんをもてなすような立派なテーブルと椅子が床から生えていた。奥の扉を開けると、トイレと浴室があった。すごい。


 そのまま2階へ上がると、寝室が2つあり、どちらの部屋もベッドが備え付けられていた。木が剥き出しで、シーツもなにもないけれど、丸みを帯びた造りが寝心地良さそうに見えた。


「エルはどちらの部屋がいい?」


「わたしは、クロムと一緒ならどっちでもいい」


「そうか」


 そう言うと、クロムは大きいほうの寝室へ行き(ベッドもこっちのほうが大きい)ベッドに横になった。そしてわたしを自分の脇に抱き直すと、自分のコートで包んでくれた。


 そうして、わたしはクロムに包まれながら眠った。


 翌朝、賑やかな話し声を聞いて目覚めた。


「すごいなぁ。これ、一瞬で作ってしまったんでしょう?器用というか、なんというか………魔力も相当あるんでしょうねぇ。羨ましい!」


「しいっ。トリー、声が大きい!アムナート様を起こしてしまったらどうするんだ」


「えー、クロム様ってお呼びするんじゃありませんでした?お名前を変えるなんて、どういう気の向きようなんでしょう。僕みたいな平凡な犬獣人にはわかりませんねぇ」


「そうだった。クロム様、クロム様………間違えないようにしないと。間違えたら、きっと首が飛ぶぞ!」


「ふふっ。ケシーは怖がりですねぇ。クロム様はそんなことなさいませんよ。もっと大きな存在ですから」


「確かになぁ。商人の血が騒ぐぜ」


 え、商人?クロムが、「商隊が来たら俺を呼べ」って言ってたね。


「クロム………あ、起きてた?」


 顔を見ると、目がぱっちり開いている。


「あれだけ騒がれれば、嫌でも起きる」


「そうだね。賑やかで、楽しそうだもんね」


「いや………まあ、いい」


「??」


 むぅ。クロムがなにかを言いかけてやめてしまったので気になる。


 クロムはベッドから降りると、わたしを抱き上げようと腕を伸ばしてきた。その腕に触れて、「自分で歩きたい」と言った。


「俺はかまわないが、足が汚れるぞ」


 わたしは靴を履いていないので、当然である。


「家に入るたびに足を洗うのか?」


 言われてはっとした。


 そういえば、いまのわたしには足を洗う水も、足を拭く布も、なにもない。いまのままじゃ、ただただクロムに迷惑をかけるだけだ。


 ………靴があればいいんだよね?それなら………。


 クロムの足元をじっと見つめ、自分の脚が靴を履いている様子を強くイメージする。すると、クロムとまったく同じ黒いブーツが現れた。わたしにはごつくて似合わないけど、とりあえずこれでいい。


「できたよ」


「それなら歩けるな。だが、無理はするな」


「うん。わかってる」

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