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「どうした?エル」
「ううっ。わからないことも確認しないといけないこともいっぱいあって混乱してるの。何から手を付けたらいいんだろう?ルオーは信用していいの?」
「焦ることはない。ひとつづつ、片付けていけばいい。ルオーは怪しいが、とりあえず味方だと思っておけ。まずは、現状を把握することから始めたらどうだ?」
「どういうこと?」
「まず、ガノンドロフは生きている」
「そうだね。ガンフィはクロムのおかげで助かったよね」
「………待て。なぜガノンドロフをガンフィと呼ぶ?」
「ガンフィが自分で名乗ったからだよ。変かな?」
「おかしくはないが………そうだな。村人にガノンドロフの正体を悟られないために、ガンフィと呼んだほうがよかろう」
「うん。わかった」
村人は、なにか問題があってもガノンドロフを知らなかったと言い切ればなんとか乗り切れるよね。
「それで、ガンフィだが。あれは切り札になる。現在、ハノーヴァー王家にとって正当な王太子だ。その生死がはっきりするまで、次の王太子を立てることはできないだろう。ガンフィの周囲の人間で、誰が味方で、誰が敵か見極めることも重要になる」
「敵は王妃とジェラルディンとミルドレッドでしょ?」
「それは違う。ジェラルディン兄上は私を支えると約束してくれている。兄上の夢は宰相としてこの国を支えることだ。王になることではない」
「そう。それなら、王がミルドレッドでもジェラルディンには同じなんじゃない?」
「え?」
ガンフィはぽかんと口を開けて、わたしを見た。そして、言われたことについて考えた。
「確かに、ミルドレッド姉上が王となっても、ジェラルディン兄上の立場は同じだ。だが、兄上は私を支えると約束してくれた。兄上は信頼できる。敵ではない」
その目には、確固たる自信がみなぎっていた。
「敵ではないだけで、味方とは限らない。中立かもしれんぞ」
「それは考えてもみなかった」
そう言ったガンフィは、クロムの意見を、そういう意見もあるのだな、と受け止めた。
「ところで。ガンフィが脱出に使った魔法陣の存在を知っているのはどれくらいいるの?」
「父上と私だけだ。だが、正確な場所を知らないだけで、王妃やジェラルディン兄上、ミルドレッド姉上もその存在には気づいているだろう。それがどうかしましたか?」
「うん。脱出用魔法陣の存在を知っているなら、追手を差し向けて来そうだと思ったんだけど。そんなことはないよね。どういうことなのかな?」
「脱出用魔法陣は、王家の者でなければ動かせないのです。そして、魔法陣がどこに繋がっているか知らないため、追手を差し向けることを躊躇しているのでしょう」
そうなんだ。今、王城にいる王家の者は誰だろう?王と王妃は確実にいるよね。国の支配者なんだし。宰相を目指すジェラルディンもいるはず。最後はミルドレッドだけど、彼女は王に直訴するために王城に来たんだから、望む答えを手にするまでは去らないよね。
もしわたしがガンフィを殺そうとした黒幕なら、確実にガンフィの息の根を止めるために、どこに転送されるかわからなくても追手を送り込むんだけどな。敵の考えは違うのかな。
「とりあえず、ギベルシェン達に遺跡の捜索と、追手の捜索をさせたほうがよさそうだね」
「そうだな。ギベルシェンを3つに分けて、村の警護をサムサに任せよう。ロコルには遺跡の捜索を、ロコルナに追手の捜索を指揮させよう」
「わかったよ。僕が伝えて来る」
静かに控えていたサムソが、そう言って部屋を出ていった。
声を発するまでその存在を忘れかけていたからびっくりしたよ。
「で、ガンフィを殺そうとしたのは誰だと思う?王妃?それともミルドレッド?」
「あの日は、姉上は城にはいませんでした」
「その言い方だと、ミルドレッドは普段は城にいるみたいだね」
「ええ。姉上はベクランタ国へ嫁いだものの、お相手の王子が不慮の事故で亡くなり、ハノーヴァー国へ戻ってきたのです。普段は私とは違う離宮で暮らしています」
「普段は離宮で暮らしているミルドレッドが、どうして王都を離れたんだと思う?」
「ミルドレッド姉上は、視察と称して王都を離れることも少なくありません」
「じゃあ、アルトー街へ来ていたとしてもおかしくないってこと?」
「そうです」
「ミルドレッドが不在ということは、おまえに手を下したのは王妃ということになるな」
「決めつけはよくないよ。ミルドレッドが自分のアリバイを作った上で、残る者に指示していたかもしれないでしょ?それに、王妃や姫が離宮の厨房をウロウロしていたら怪しくて注目されるから、何かしたらすぐに気づくよ。たぶん、実際に動いたのは手下で、上は命令をしただけ。それも、尻尾を掴まれないように巧妙にしてるよ」
「その可能性はありますね。また、王妃とミルドレッド姉上が共謀した可能性もあります。私は2人に憎まれていますから」
「………王城の様子を探る必要があるな」
と言われても、王城に伝手などないし、黒の森にいるわたし達には探りようがない。ここは、不思議な情報網を持つルオーを頼るのがよさそう。