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47 ガンフィの話

「ふん。顔色がずいぶんマシになったな。さっきは死体みたいだったぞ」


「ははっ。死にかけだったからな」


「何があった?ガノンドロフ」


 そう言うクロムの様子は、ガンフィを試すものではなく、確信を持っているように思える。


 ガンフィの目の瞳孔がわずかに開いた。それ以外は何の反応もなく、ガンフィは不思議そうに首を傾けた。素晴らしい自制心だと思う。


「俺はガンフィだぜ。ガノンドロフ王子じゃねえ」


「いいや。おまえだ。さっきはわからなかったが、確かにおまえだ。間違いない」


「なんでそんな確信を持って言える?前に会ったことが………!うぐっ」


 クロムが軽く威圧すると、ガンフィはとっさに戦いの構えをとろうとして身体の痛みに呻いた。


「クロム!ガンフィはまだ回復していないんだから、威圧なんかしちゃだめでしょ?」


「ふんっ。俺の気配を忘れているようだから、思い出させてやったのだ」


 偉そうなクロムは放っておいて、ガンフィを見ると、ベッドの上で呻きながらクロムを警戒していた。


「ごめんね、ガンフィ。びっくりしたでしょ。それで、クロムのこと………ううん、アムナートのこと思い出した?」


「は?アムナートだと?」


 ガンフィの目が点になった。おもしろい。


「俺の寝床に踏み込んで来ておいて、忘れたと言うのか?」


「忘れるわけがない。いや、忘れられるわけがありません、アムナート様。その節は、大変お世話になりました」


 ガンフィはベッドの上で正座をして、そのまま流れるような動作で綺麗な土下座をした。


「頭を上げろ。俺は話をしに来たのだ。それでは話しにくい」


「はい!」


「それから、俺のことはクロムと呼ぶように。わかったか?」


「はい、クロム様」


「うむ。それでよい」


「それで、どうしてガンフィは黒の森にいるの?王子様なら、王都にいるんじゃないの?」


「あなたはエル………様でしたね」


 ガンフィはどこまで話すべきか、わたしを探っているように見える。


「そうだよ。クロムの娘なの」


「クロム様のお嬢様!?そうですか、わかりました。それでは、すべてを話します」


 よくわからないけれど、話す気になったのならありがたい。クロムには話すけど、わたしには聞かせられないとなったら悲しいもんね。


「おっしゃる通り、私は王都にいました。王城の中に離宮をいただいていまして、そこで生活をしているのです。一昨日の夜も、いつも通り離宮の食堂で家族と食事をしていました。家族と言うのは、妻と私の子供達のことです。王との仲は悪くはないのですが、王妃はわたしを憎んでいるので、王が気を使って私達との食事を取らないようにしているのです」


 ガンフィは見た目30過ぎだし、奥さんや子供がいてもおかしくないよね。


「王妃は自分の子供であるジェラルディン兄上とミルドレッド姉上ではなく、側室の子である私が王太子となったことを10年経った今も恨んでいるのです。そして、一昨日の夜、私は食事に毒を盛られました。幸い、家族は無事でしたが、私は家族の為にも、離宮に留まっていてはいけないと思いました。私が生きていると知られれば、家族にも危険が及ぶことでしょう」


 あれ?ルオーの話では、毒を盛ったのはもう少し後な感じだったよ。王が王太子の再選定を断ったから、毒を盛ったんでしょう?違うの?


「すぐに身を隠さなければいけない、と思い、思い浮かんだのは転移の魔法陣です。隠し通路を使い、密かに脱出用魔法陣を起動させました。そして着いたのが、この黒の森でした」


 ここまでは、ガンフィは毒を盛られただけで、怪我らしい怪我をしていない。黒の森に来てから、魔物に襲われたのかな?それとも追手がいた?


「逃げたものの、転送された場所は屋根もない石造りの小さな遺跡で、そこはオークの巣となっていました。転移の魔法陣が、まさかそのような場所に繋がっているとは思わず、私は慌てました」


 そりゃそうだろうね。何匹いたのか知らないけど、オークの巣に放り込まれたらわたしでも慌てるよ。


「なにしろ防具もなく、武器と言えば腰で飾りのようになっていた一振りだけ。しかも身体は毒に侵されています。なんとか隙をついてオークの巣を抜け出したものの、私が力尽きて倒れるのを待つ魔物がぴたりと近くに張り付き離れませんでした。幸運にも、途中で見つけ口にした薬草が毒に効いたらしく、少しづつ体内で解毒が始まったのを感じました。しかし、私の死を待つように、ぴたりとついて離れない1体の魔物がいた。私が立ち止まれば、すぐにも襲いかかって来ていただろう。だから、私は立ち止まるわけにはいかなかった」


 一昨日の夜に毒を盛られたと言うことは、その状態で2日も森を彷徨っていたということだよね。すごい精神力だよ。


「だが、ついに私は倒れた。まともに食事をとっておらず、飲み水も手に入らなかったせいだろう。限界だった。私にとどめを刺そうと攻撃してくる魔物に反撃する力は残っていなかった。そして、死を覚悟した時、複数の羽音が聞こえた。新手の魔物が来たことで、わずかに残っていた希望が打ち砕かれた気がした。ところが、その新手の魔物は私を襲っていた魔物を倒し、私をどこかへ運び出した。わけがわからなかった。柔らかい土の上に寝かされて、餌として埋められるのかと思った。ところがクロム様が現れて、私の傷を癒やしてくれた。天使のように美しい少女は、私にスープを飲ませてくれた。また、希望が生まれた。家族の元へ戻り、務めを果たすという希望が」


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