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46 ハノーヴァー国

「それで、話はできたの?」


「あぁ。奴は、人間の国の王子だと名乗った。王太子になるための課題として、ブラックドラゴンの鱗を手に入れるように命じられたと言った。それでゴミをくれてやったのに、奴は逃げなかった。ここにいるのは俺の命を預けられる大事な友だから、見捨てることはできぬとか言っていたな」


 ゴミっていうのは、剥がれ落ちた鱗の事だよね、たぶん。


「それからどうしたの?ガノンドロフと仲間を助けてあげたの?」


「すでに助からぬ者もいたが、面倒なのでまとめて回復させた。ガノンドロフと奴の仲間達は協力し合って死んだ仲間をこの村まで運んだあと埋葬し、療養のためしばらく滞在したはずだ。あとのことはわからん」


「ガノンドロフは王になれたのかな?」


「さぁな。ルオーに聞いてみればどうだ」


「そうする!」


 木札とインクを用意して、手紙を書いた。できた手紙は、サムサが運んでくれた。


 お茶を楽しんでいるうちに、返事が来た。行動が早いね。


「ご質問にあったガノンドロフについてお答えする前に、この国について少し説明致します。アルトーの街は人間の国ハノーヴァーに属しています。ハノーヴァー国は黒の森に接する国で、常に魔物の脅威に晒されています。そのため、武を尊ぶ性質があり、小国ながら強力な軍を有する国でもあります」


 へえ。ハノーヴァー国って言うんだ。


「今から10年前、王が3人の子供達に課題を出しました。ハノーヴァー国を治めようとする者に力がなければ国民から認められない。黒の森の主であるアムナート様の許しを得て、その力を示せ、というものでした。その3人というのが、ジェラルディン王子、ミルドレッド姫、ガノンドロフ王子です。結果、ガノンドロフ王子だけがアムナート様の鱗を持ち帰り、王太子として認められることになったのです」


 ふむふむ。じゃあ、ガノンドロフは無事、王になれたのかな?


「ところが、王は健康そのもので、引退されることなく10年の月日が経ったある日、ミルドレッド姫がクロム様の鱗を手に王に申し出たのです。王は鱗を持ち帰る期限を定めなかった。だから、鱗を持ち帰った自分にも王になる権利があるはずだ。改めて、王太子を選んでほしい、と」


 ええっ!今さら!?だって、10年も経っていたら結婚して子供がいたっておかしくないよ。王の後継ぎになれなかったんだから、とっくに他所で結婚してるんじゃないの?


 それに、鱗を手に入れたって言うけど、お姫様どころか、冒険者だってクロムの寝床には来てないよ。いつ、鱗を手に入れ………あ、クロムが売った鱗?


「ミルドレッド姫が持ち帰ったと主張する鱗は、お察しの通り、クロム様がリングス商会にお譲りいただいたものです。オークションにかける間もなく、ミルドレッド姫の配下に奪われてしまいました。申し訳ありません。商会の従業員が情報料と引き換えに、ミルドレッド姫に鱗が手に入った事を漏らしてしまったのです。どうやら、黒の森に出入りしている我々リングス商会が鱗を手に入れるのを、ミルドレッド姫はずっと待っていたようですね」


 うわぁ。大変。クロムから鱗を買い取ったリングス商会は大損害だよね。


「しかし王は、すでに王太子をガノンドロフ王子に決めていること、王位の引き継ぎを始めていることを理由に王太子の再選定は行わないことを宣言。それに納得できなかったミルドレッド姫によりガノンドロフ王子は毒を盛られ、城の外へ逃げ延びたそうです。いまは、ガノンドロフ王子の身を案じた派閥による捜索と、この機に確実に命を奪おうとするミルドレッド姫の派閥による捜索が行われていますが、まだ行方はわかっていません。もしそちらにいるのがガノンドロフ王子だとすれば、王家に伝わる転移の魔法陣を使用した可能性が高いです。王家には、緊急脱出用の手段が用意されているはずですからね」


 これが事実なら、リングス商会の情報網はすばらしいね。この短時間で、よくこれだけの情報。集められたなぁと思う。それとも、王家が何かの目的でわざと情報を漏らしているとか?………うん、怪しい。


「………いまの段階でこれだけ情報が漏れてるってことは、どういうことなのかな?誰かが、わざと情報を漏らしているようにしか思えないんだけど」


「………前もって計画していたにしても、動きが早すぎるな」


「クロムが鱗をリングス商会に売ったことで、一気に物事が動き出したんだよね?クロムが鱗を売ることなんて、誰にもわからないのに。ルオーは、商会の者が情報を売ったって書いていたけど、それだけじゃなくて、見張られていた可能性もあるよね」


「ここでいくら話していても、推測にしかならん。ガンフィに話を聞きに行くぞ」


「わかった」


 おもしろそうだからついて行きたい、と言うロコル=カッツェに後で話を聞かせてあげる約束をして畑に帰し、わたしとクロムはガンフィが泊まっている家へ急いだ。


 ガンフィは寝ていたけれど、クロムの気配を感じたのか目を開けた。さっきよりずいぶん顔色が良くなっている。スープを飲ませたのが良かったのかな。


「また来たのか。………あ、あんたは、俺を助けてくれた奴だな。さっきはありがとう。おかげて死なずにすんだ」


 ガンフィはクロムに向かって言った。軽口を叩いているようで、どこか緊張しているのが感じられる。

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