表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/141

44 ガンフィ

 大勢の村人が遠巻きに眺めているのは、すでに話が村中に広がっているからだろうか。


 畑に行くと、すでに野菜や果物の収穫が終わっていて、色とりどりだった畑が茶色と緑色だけになっていた。そんな畑の中央に、赤い物が横たわっている。………違う!あの赤は、血の赤だ!傷ついた人間が倒れているんだ。


「クロム、あそこ!人が倒れてる!」


「あぁ、俺にも見えている。慌てるな」


 畑に倒れている人は貴族なのか、ひらひらの身なりのいい服を身に着けていた。それらは見るからにボロボロで、特にお腹に切り裂かれたような跡がありそれが致命傷に見えた。ひどい。下手したら、この傷は内蔵まで傷つけているんじゃない?血を流しすぎたのか、顔は土のような色で、浅い息を繰り返している。


 クロムが長い脚で倒れている人のそばまで行くと、その開きっぱなしの目を覗き込んだ。すでに死ぬことを受け入れているのか、その青い目は穏やかだった。


「………おまえは生きろ」


 青い目から何を読み取ったのか、クロムは彼に向かって命令した。


 そしてクロムはわたしを左腕で抱き直すと、右手を畑に倒れている人に向かって突き出した。手のひらから魔力が流れ出し、彼の全身を包み込んだ。


「エル、よく見ていろ」


 言われなくても、私の目は傷が塞がっていく彼に釘付けだった。わたしみたいに、力任せにやるのとは違う。表面の傷だけじゃなく、もっと奥にある血管や傷ついた臓器までも治癒させている。クロムの魔法がどれだけすごいのか、説明されなくてもわかった。わたしみたいな大雑把な魔力の使い方ではなく、もっと繊細で、丁寧な使い方をしている。さすがクロム!


 治癒が終わると、畑に倒れている彼の顔色が若干良くなった。呼吸はずいぶん楽そうになっている。


「こいつの世話をするのに、家が必要だな。エル、できるか?」


「うん。できるよ」


「ロコル、こいつの世話をする者を選べ。それから、家へ運んで世話をするんだ」


「はい。承知致しました」


 クロムが声をかけると、ロコル=カッツェがサムソとアリカを世話係に任命した。そして、サムソが倒れている彼をおんぶした。倒れている彼は大柄だったようで、足が引きずられているけれどそれを指摘する者は誰もいない。


 クロムがわたしを抱え直して家に向かって歩き出すと、ロコル=カッツェとサムソ、アリカがついて来た。わたし達の家の左隣の土地へやって来ると、クロムに家を建てるように言われた。


 せっかくなので、ギベルシェン達も泊まれるよう大きくしておく。3階建てで、寝室は13部屋ある。それから客室は2部屋。広い食堂に台所もある。雨の日は、ここで寝泊まりすればいいと思う。わたし達の家よりずいぶん大きくなって、ちょっとした屋敷のような感じになった。


 完成した姿を見て、わたしは大満足だ。


 褒めてほしくてクロムを見ると、呆れた表情をしていた。………なぜ。


「とにかく中へ入るぞ」


 家の中は、入ってすぐ食堂になっていた。長いテーブルと、椅子がずらりと並んでいる。すぐに2階に上がり、上がってすぐの部屋へ入った。クロムがわたしを下ろしてくれたので、クロムが出してくれた布団とシーツでベッドメイキングをした。


「クロム様、こいつに清浄魔法をかけてくれる?このままじゃ、布団が汚れちゃう」


 とサムソが言うと、クロムがサムソにおぶられた彼に清浄魔法をかけてくれた。アリサが彼の靴を脱がし、サムソと2名がかりで彼をベッドに寝かせた。


「この人間、とっても大きいわね。ベッドからはみ出そう」


 アリカの言う通り、彼はとても大きい。身長は2メートルくらいあるんじゃないかな。身体は鍛えられていて筋肉が厚い。太ももは、わたしの腰より明らかに太い。


「サムソ、アリカ、この男の世話は任せる」


「え、わたしもお手伝いするよ!」


 わたしは、サムソとアリカに後のことを任せて立ち去ろうとしたクロムの服を掴んだ。すると、クロムは嫌そうな顔でわたしを振り返った。


「また、そうやって抱え込もうとする………」


「お手伝いだけだから!疲れたらすぐ休むし、無理しないって約束する。だから、ね?いいでしよ?」


「………日が暮れたら、嫌でも家に連れ帰るぞ」


「はーい!」


 元気よく返事をすると、クロムがため息をついて去って行った。


 さてと。まずは何をしようかな?ベッドで寝ている彼は、話せるかな?いつまでも「彼」と呼んでいるのも何だし、名前が知りたい。


 わたしは彼の顔を覗き込んだ。彼がビクリとする。


「あの、わたしはエル。あなたの名前は?」


「俺は………ガンフィ………」


 かすれた声だったけれど、しっかり聞き取れた。話すのは問題ないみたい。


 それなら、お腹空いてないかな?沢山血を流したんだから、水分も栄養も足りていないはず。でも、こんな時はガツガツ食べちゃだめなんだよね?まず、水分からだったかな?それなら、昨日作った鳥ガラスープがあるよ。ふふんっ。マジックバッグに寸胴ごとしまっておいたんだよね。


 マジックバッグから寸胴を出すと、何となく入れておいたお皿にスープを入れ、ガンフィのそばへ持って行った。もちろんスプーンもあるよ。


「ガンフィ、スープだよ。飲んでね」


「………どこから………?むぐっ」


ガンフィの口にスプーンを当てると、スープをそっと流し込んだ。でも、勢いよくやり過ぎたみたいで、ガンフィが少しむせた。練習が必要だね。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ