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「え、村の畑が豊かになるのか?そんな馬鹿な………」
「長はそんなこと言ってなかったわよ。やっと豊かな生活を送れると思ったのに、やっぱりだめなの?」
「もう野菜や果物をもらえないの?」
それぞれの理由で、がくりとうなだれる村人達。
「皆、慌てないで。今日の収穫は手伝ってもらうから、あとで収穫した物から報酬をあげるね。でも、見てわかるように畑を広げたの。収穫した物のうち2割だと結構な量になるから、今日あげるのはひとり籠1つまでね」
その言葉を聞いて、明らかにほっとした顔を浮かべる者と、がっかりした表情を浮かべる者がいた。沢山もらったとしても、食べ切れなければ腐らすだけなのに。
「収穫について注意してほしいのは、ギベルシェン達と協力すること。それから、畑の左右の家にアーヴァメントとアーヴァグレタ、それからエグファンカがいるから刺激しないでね」
魔物の名前を聞いて、一斉に顔色を悪くする村人達。
「アーヴァメントとアーヴァグレタとエグファンカは採蜜のために飼っているから、刺激しなければ攻撃してこないよ。怖かったら、なるべく畑の中央で作業するといいよ。それから村の畑のことだけど。最初の頃は、土地に血を捧げることで魔力を満たしていたんだって」
血を捧げると聞いて、ますます顔色が悪くなっていく村人達。すっかり腰が引けている。
「血にも魔力が籠もっているから、当時は血を捧げたんだと思う。でも、わたしみたいに魔力を土地に行き渡らせることができれば、血を捧げる必要なんてないと思うの。だからって、わたしに期待しないでほしいんだけど。この村と相性がいいのはわたしじゃなく、長の一族なの。だから、土地に魔力を満たす仕事は長かオイクスにしてもらうといいよ」
自分達が血を捧げたり、土地を魔力で満たすわけではないと聞いてほっとした様子を見せる村人達。コロコロ表情が変わって忙しいね。
「ところで。ロコル=カッツェ、皆を連れて畑から出てくれる?植物を育てるから、そのまま埋まってたら危ないよ」
「承知致しました。さあ皆、畑から出て並ぶんだ」
「「「「ひいっ!」」」」
ギベルシェン達がロコル=カッツェの指示で一斉に畑からずぼっと出て来て村人が悲鳴を上げた。うん。その気持ちはわかるよ。怖いよね。
ギベルシェンが全員並んだのを確認してから、わたしは魔力を畑に広げていった。そして、植物達が大きく美味しく育つように念じる。すると、植物が急成長して花を付け、大きな実をつけた。昨日、収穫したばかりの果実の木々も新たな花を付け、実をつけている。魔法ってすごい。
「じゃあ、収穫を始めてくれる?それから、洞窟に籠や木箱が届いてるはずだから、ギベルシェン達はそれをここに運んでほしいの。収穫物を入れる物だから、先に運んでくれると嬉しいな」
「わかりました。おまえ達、エル様に言われた通り洞窟から籠と木箱を運んでくるんだ」
ロコル=カッツェが指示すると、ギベルシェン達がロコル=カッツェを残して全員動き出した。数が多いのって、こういう時に便利だよね。
ロコル=カッツェは、村人の様子に目を光らせている。
村人はギベルシェンがいなくなったのを確認してからバラバラに動き出した。自分が欲しい物の収穫に向かっている気がする。と言っても、今の畑は整然とした並びではなく、ギベルシェンが気の向くまま植えた状態だから、目的の物を探すのは大変そう。
グラムス芋だけは1箇所に固まっていて、芋類は食べ飽きているのか、村人は興味を示さない。芋類は保存も効くし、使い勝手がいいし、美味しいのに。村人が我先にと狙っているのは、栄養のたかい豆類。それから果物だね。確かに甘味は貴重だけど、果物ばっかり食べても身体には良くないよね。やっぱり、バランスよく食べないと。
そうしているうちに、ギベルシェン達が両手いっぱいに荷物を抱えて戻ってきた。どの男女も力持らしく、木箱を2個、3個と運んでも平気そうな顔をしている。木箱を置くと、その中から籠を取り出していく。そしてすべてを運び終えると、収穫のために籠を持って畑に散って行った。
「皆楽しそうだね。クロム、わたしも収穫してくるね」
「む?そうか。それては、俺も行こう」
「うん。楽しもうね」
畑を広げたから、これだけの人数で作業しても時間がかかる。楽しみはいっぱいあるよ。
ワイワイやりながら作業していたら、2時間なんてあっという間に経ってしまった。それでも、多くの作物が残っている。午前中は畑仕事かな。
村人には褒美として籠1つ分の野菜や果物を渡して帰ってもらった。約束したのは2時間だけだからね。収穫された物の山を見ているから、もっとほしいとごねる人もいたけれど、ロコル=カッツェの笑顔の威圧に負けてすごすごと帰って行ったよ。
村人がいる間は大人しく家に籠もっていたアーヴァメント達は、村人がいなくなると家から出て来て畑の様子を眺めた。
そう言えば。花の蜜を集めてもらうのに桶が必要だね。リングス商会に注文しなくちゃ。
そうだ。ジュースを飲みたいから、ジュース用の圧搾機も欲しいな。
それに、ひき肉を作る機械も欲しい。ひき肉があればハンバーグが作れる!あぁ、ハンバーグ食べたくなってきたな。お昼はハンバーグにしようかな?でも、包丁で肉をミンチにするのって大変じゃない?