37 捕まえてきました
サムサを褒めると、アリアが「私も褒めて」と言うので褒めておいた。
「エグファンカは強そうだね。アリアもすごいよ。ありがとう」
「この短時間で目的の物を捕らえてくるとは大したものだ」
クロムにも認められて、2名はとっても嬉しそう。
「あのね、エグファンカ達の家を作ろうとしていたの。どこに作ればいいかな?」
「そうだよ〜。それぞれ離れたところに家があったほうがアーヴァメント達は落ち着くと思うよ」
「エグファンカは角があるから、出入り口は大きいほうが良いわね」
「アーヴァメントとアーヴァグレタの出入り口は小さくていいよ。窓もなしでお願いね」
2名が色々と意見を出してくれた結果、畑から少し離れた場所に距離をおいて3軒の家を建てる事になった。いまは一匹づつしかいないから、それほどの大きさは必要ない。窓も必要ないと言うことだった。それぞれが通れるくらいの出入り口があれば十分ということで、ずいぶんシンプルな四角い家を建てる事になった。注意したのは、地面からの高さ。クロムの腰くらいの高さになるように注意した。
エグファンカの家は完成したけれど、その間サムサ達に掴まれているアーヴァメント達はぐったりとして動かない。死んでしまったのじゃないかと不安になったけれど、クロムによると生きているらしい。鼓動があると言われた。
鼓動があると言われても安心はできないし、ぐったりしてて可哀そうだよ。どうにか元気にしてあげられないかな?
元気にする魔法ってあるから?アーヴァメント達に致命傷になるような傷はないけれど、それでも全身に傷があって痛々しい。傷を治すには、癒しが必要だよね?わたしに、癒やしを与えることはできるかな?
「ねえアリア。エグファンカを癒してあげたいの。できるかわからないけど、試していい?」
「いいよ〜。しっかり捕まえてるね」
アリアの同意を得たので、わたしはエグファンカに向けて手を伸ばした。
「元気にな〜れ、元気にな〜れ」
魔力がわたしの手からエグファンカへ向けて流れていった。すると、エグファンカにあった細かい傷が癒えていく。そして目が見開かれると、辺りをキョロキョロと見回したあと、視線がわたしに固定された。感激しているように見えるのは気のせいかな。
「暴れないね〜」
「そうだね。手を離しても大丈夫じゃない?」
「君、逃げたらすぐ捕まえるからね?」
アリアがエグファンカに言い聞かせるようにして地面に置き、そっと手を離した。でも、エグファンカの視線はわたしに固定されたままで動かない。どうしたんだろう?
「………どうやら、エルを主と認めたようだ。エル、声をかけてやれ」
クロムがそんな事を言ってきた。
「でもクロム。わたしは癒しただけだよ?他に何もしてないよ」
「それで十分だ。いいか、弱肉強食が原則の世界で、癒しを与えられる事などまずない。アリアがエグファンカをエルに捧げ、おまえはそれを癒した。エグファンカにとっては、自分を捕らえた者より上位の存在が自分を癒した事になる。主と認めるには十分な理由だ」
そうかなぁ。
エグファンカを見ると、まるでクロムの言葉に同意するかのように頭を上下に動かしている。
「あのね、わたしはエルって言うの。よろしくね。この家に住んでわたしのために花の蜜を集めてほしいの。お願いできる?」
聞くと、エグファンカは先ほどより激しく頭を上下に振った。………頭、取れないかな。
「次はアーヴァメントとアーヴァグレタだな。2体まとめて回復させてはどうだ」
「うん。そうするよ、クロム」
クロムに言われて、今度はサムサが掴んでいるアーヴァメントとアーヴァグレタに魔力を流した。
この2体もエグファンカと同じくぐったりしていたけど、魔力を浴びて元気になったみたい。触覚をピコピコ動かしたり、脚や羽を動かして身体の具合をみている。いまのところ、逃げ出す様子は見られない。
「身体の具合はどう?変な感じはしない?」
わたしが聞くと、アーヴァメントとアーヴァグレタはビクリと身体を震わせたあと、わたしを見て頷いた。
「あなた達にお願いがあるの。わたしのために花の蜜を集めてくれる?」
アーヴァメントが任せて!と言いたげに頷いたのに対して、アーヴァグレタは困ったように頭を横に振った。
「え、エル様のお願いが聞けないの?」
サムサがアーヴァグレタを掴む手に力を込めようとしたのをクロムが止めた。
「待て、サムサ。そのアーヴァグレタは兵士だ。狩りは得意でも、採蜜は苦手なのであろう」
アーヴァグレタはクロムの言葉に「そうなんです!」と言わんばかりに頷いた。
確かに、アーヴァグレタの身体は戦うことに特化しているようで、兵士と言われれば納得のフォルムをしている。ふわふわと柔らかそうな被毛を持つアーヴァメントとは大違いだ。アーヴァメントはその点、戦う能力は低く見える。
「じゃあ、アーヴァグレタにはアーヴァメントの護衛をお願いできる?」
そう聞くと、アーヴァグレタは安心したように頷いた。