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31 結界の中は魔素が少ない

「ロコル、他のギベルシェンに名前はないんじゃなかった?あの子、ロコルナって呼ばれてたよ」


「ロコルナは、次期ロコルなのです」


 なるほど。特別ってことね。


「さて。この辺りはワイバーンもいる危険な地域のようですが、本当に結界は必要ありませんか?あなたには、仲間が魔物の餌になる覚悟はおありでしょうか」


 ロコルはオイクスを振り返り、静かに話しかけた。


「村人は俺が守る!魔物の餌になんかさせるわけないだろう!」


「口だけは威勢がよいですが、足が震えていては様になりませんね。その調子で、どうやって戦うのでしょうか」


 ロコルに指摘されて、オイクスはカッとなった。大きく右腕を振り上げてロコルを殴ろうとした。そのままの姿勢で固まってしまった。地面から蔓が伸びてオイクスの右腕に巻き付いたせいで、オイクスは振り上げた腕を下ろすことができなくなっていた。


「あなたには呆れました。性根を叩き直してあげましょう」


 ロコルが一歩後ろへ下がると、オイクスを中心とした地面から円状に蔓が生え、オイクスの周囲を囲む檻となった。檻ができると、オイクスの右腕を捉えていた蔓が地面に消えた。


「ここから出せ!」


 鼻息も荒く叫ぶオイクスを見て、ロコルは首を横に振った。


「できません。あなたには徹底的な指導が必要です。それこそ、性格が変わるほどの指導がね」


 ふふふっと悪い顔で楽しそうに笑うロコル。


「それではクロム様、エル様、こちらは我々におまかせください。お疲れになったでしょうから、どうぞご自宅でごゆるりとお休みください」


「ありがとう」


「そう言えば。クロム様とエル様には従者がおりませんね。2名付けますので、何なりとお命じください」


「わかった。エル、行くぞ」


 クロムはわたしをひょいと抱き上げると、家に向かって歩き出した。


 と思ったら、長が家に向かってやって来るのが見えた。何の用だろう?


「クロム様、エル様。先ほど、村の者がワイバーンを運ぶ奇妙な少年を見たと報告に来たのです。何者かご存知でしょうか?」


「あ、それはギベルシェンのロコルナだよ。ワイバーンが結界の外の畑で襲って来たから、ロコルナが退治してくれたの。もう転移の魔法陣で送ってしまった後だと思うけど、欲しかったの?」


 ギベルシェンと聞いて、長は驚いた顔をした。


「いえいえ。儂らにワイバーンを解体する術がありませんし、ワイバーンは必要ありません。しかし、ギベルシェンが人の前に姿を現すとは珍しいですな。結界の外で襲われたということですが、畑が荒らされたのではありませんか?」


「ううん。ワイバーンが空中にいる間にロコルナが一撃で倒してくれたから、畑は大丈夫だったよ」


「なんと!ワイバーンを一撃で!?」


「ワイバーンを初めて見たけど、凶暴な顔をしてるし、結構大きいね」


 そうだ!わたしの畑は結界の外にあるから、村人にとっては魔物に襲われる危険がある。そのことを理由にして、明日からの収穫の手伝いを断れないかな?ワイバーンも恐れないギベルシェン達がいるから、人手はもう大丈夫なんだよね。


 ただ、そうするとこの村は食料に困窮したままだ。十分に食べられないなんて可愛そうだと思う。でも、野菜や果物を分けてあげるのは簡単だけど、この先ずっとそれを行うのは良くないと思う。


 だって、村人にとっては働かなくても食料が貰えて、結界で守られた暮らしが続くってことでしょ?なんでわたし達がこの村を養っていかなきゃいけないの?そんなのおかしいよ。村人の力できちんと生活が成り立つようにしなくちゃ。


 でも、と視線を村の畑へ向ける。雑草はきちんと抜かれているけれど、土は乾いていて、野菜達は相変わらず細い。こんな状態では、収穫期を迎えてもわずかな収穫量しか見込めないのは明らかだ。


 なんで長はこの状態を放置しておくの?豊かな暮らしをしたいと思わないの?


「ねえ長。どうして村の畑はあんなに元気がないの?」


「この村では野菜が育ちにくいのです。しかたありません」


「でも、結界を隔てたわたしの畑は元気だよ。ねえクロム、結界を消せば村の畑も元気になると思う?」


「う〜ん。この村は全体的に魔素が薄いんだよ。だからだね〜」


 答えたのはギベルシェンだ。


 ………それにしても、意味がわからない。


「どういうこと?」


「知ってるぅ?魔物だけじゃなくて、植物も動物も、生きるには魔素が必要なんだよ。でも、この村は魔素が薄いの。魔素が濃いと人間は暮らしにくいから、だからクロム様が結界で調整してるんじゃない?結界を解いたら畑は元気になるけど、人間は暮らしにくいよね〜」


「その通りだ。村を作る時に、当時の長と決めたのだ」


「やはり、この村では野菜は育たないのですね」


 長が悲しげに言った。


「じゃあ、わたしがしたように結界の外に畑を作ればいいんだよ」


「しかしそれでは、魔物に襲われる可能性があります。村民を危険に晒すわけにはまいりません」


「それなら、わたしの畑で手伝いするのも危険だよね」


「え?」


「でも大丈夫。ギベルシェンが畑仕事を手伝ってくれることになったから、もう村人の手伝いは必要ないの。だから、何もしない村人に収穫した物はあげないからね?」


「それは村が困ります!」


「ふふっ。目の前で豊かな生活されたら、自分達がいかに貧しい生活をしているのか突きつけられるもんね。今まで通りの生活をするのは辛いよね〜」


 ギベルシェンが笑いながら言った。なかなか言いづらいこと。言うね。



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