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27 ギベルシェン

「やれやれ。土から出るのは久しぶりだ」


 少年は土から腕を出し、そのままぽんっと土から抜け出て宙を舞った。綺麗に着地すると、ふらつくことなくわたしの前まで歩いて来た。頭に葉っぱが生えている以外は、姿はヒト族やエルフに近い。緑色の衣装を纏っていて、それが土から出て来たにも関わらず、土に汚れていない事が不思議でならない。


 少年の背は高く、人間で言えば15歳くらいに見える。あれ?人間の成人て15歳だっけ?ということは、少年じゃなくて青年になるのかな?髪は短くツンツンしていて、陽の光を浴びてキラキラと濃い緑色に輝いている。


「ん?おまえ、人間じゃないな。気配が違う」


 びくうっ。


「妙だな。おまえからアムナート様の匂いがする」


「えっ?それって、ドラゴン臭いってこと?水浴びもしてないから、獣臭いってこと!?」


 自分で腕の匂いを嗅いでみるも、よくわからない。でも、この距離で臭うってことは、相当臭いってことだよね?うわあ、この場から逃げたい?


「違う違う!ドラゴン臭がするってことじゃない!臭い匂いがするって言ってるんじゃないぞ!おまえ、アムナート様と一緒にいただろ?だから匂いがするんだ」


 青年は慌ててわたしの言葉を訂正してきた。


「アムナート様はどこにいらっしゃるんだ?」


「いまはアムナートじゃなくて、クロムって名乗っているよ」


「え?」


「クロムなら、すぐそこの家にいるよ。呼んで来ようか?」


「アムナート様を呼びつけるなんてできるか、このあほ!僕が挨拶に行く!その家だな!?」


 青年はものすごい剣幕で怒ると、ズンズン歩いて行ってしまった。


「クスクス。行っちゃったね〜」


「ロコルのおこりんぼ。プンプンだったね〜」


「あぁ、土が魔力で満たされてる。気持ちいい〜」


「あの子の魔力、気持ちいいね〜」


 声が聞こえて振り向くと、葉っぱを生やした頭がいくつも並んでいて、わたしは固まった。なんなのこれは?何体埋まっているの?え?23体?わたしは葉っぱ頭を数えて驚いた。


「エル様!」


 呼ばれて振り向くと、さっきの青年とクロムが並んで立っていた。


「なに?」


 青年は突然わたしの前に駆けて来ると、跪き、わたしを見上げた。


「さきほどは、クロム様のご息女とは知らず、大変失礼な事を申し上げました。どうか、このロコルに罰をお与えください」


「え………?」


 クロムに何を言われたんだろう。


「クロム、この人に何を言ったの?さっきとは別人みたいだよ」


「エル、ロコルはギベルシェン、魔物だ。ロコルには、おまえが俺の娘だと話しただけだ」


 ロコルがこの青年の名前だというのは何となくわかるけれど………。


「ギベルシェンて何?」


「ギベルシェンは、植物系の魔物だ。そら、そこら中に埋まっているだろう」


 クロムの指差す方を見ると、頭に葉っぱを乗せた生首がわたし。見てニコリと笑った。なかなかシュールだ。


「あの、ロコル。わたしはたまたまクロムの魔素溜まりから生まれただけで、特別じゃないからね。そんな風に畏まらなくていいよ」


「クロム様は、我々魔物の王であらせられます。その強力な魔力が溶け出した魔素溜まりでは、これまで生き物が生まれることはなく、形にすらなりませんでした。エル様が特別でなくて、何が特別と言えましょう。我らが王のご息女でいらっしゃるエル様は、我々ギベルシェンがお仕えする主なのです。ですから、どうぞ私の不敬に対して罰をお与えください。首を差し出せとおっしゃるなら、喜んでこの身を捧げましょう!」


 ………重い!


 それにしても、クロムは魔物の王だったんだね。略して魔王?魔王ってことは、勇者に討伐されるんじゃないの?クロムが勇者に倒されるなんて嫌だ!


「どうしたエル。顔色が悪いぞ」


「クロム、勇者に討伐されちゃうの?」


「いきなりなんだ!?」


「だって、クロムは魔王なんでしょ?」


「は?………あぁ、ロコルが言った魔物の王を略したな?いいか、俺は魔物の王であって、決して魔王ではない。魔王は、魔族の王はヴァージルだ。それに、だ。魔王は勇者などに討伐されるほど弱くはないし、大人しく討伐されてやるほど優しくもないぞ。魔王に戦を仕掛けるなら、人間の国が1つや2つは滅ぶことになる」


「そうなんだ。クロムが魔王じゃなくて良かった。魔王はクロムの友達なの?」


「会えば挨拶する仲だ」


 それは、ただの知り合いってことかな?それとも仲が良いのかな?クロムの表情からは、魔王ヴァージルとどんな関係なのか読み取れなかった。


 下を見ると、まだ跪いたままのロコルと目が合った。


「エル様………」


 また「罰をください」と言われるのが分かって、慌てて言葉を遮った。


「畑仕事を手伝って!」


「………え?そんな事でよろしいので?」


「そんな事じゃないよ。わたしには、美味しい物が実る畑は大事なの。畑を広げたのはいいんだけど、わたしだけじゃ種をまくのも、木の世話をするのも大変だから、手伝ってくれる人が欲しかったの」


「わかりました。人ではありませんが、我らギベルシェン一同、誠心誠意、心を込めて畑の世話をさせていただきます」


 あれ?ギベルシェン一同?23体のギベルシェンとロコルが手伝ってくれるということ?畑に目をやると、ロコルの言葉を聞いたギベルシェン達が土から這い出して来るところだった。だいぶ怖い光景だった。

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