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26 パンケーキと畑と誰かと

 オイクスは口をポカンと開けて固まった。クロムが予想以上に詳しく説明してくれてびっくりしたのか、そもそも、クロムの鱗を売るという発想がなかったのか………。


 でも、きっと、魔物を捕らえたら食べられる部分は食べて売れる素材は剥ぎ取るよね?売ることができるし、加工して使うこともできるんだから。


 何にしても、使える物は使わなきゃ勿体ないよ。


 クロムが乱暴にオイクスの手から鍋を奪い取ると、中でかちゃりと音がした。お皿、割れてないよね?


「もう下がっていいぞ」


「はい」


 去って行くオイクスの後ろ姿を見送ることなく、わたしとクロムは家に入った。


 さてと。お昼ごはんは何にしよう?クロムが待っているし、簡単な物がいいよね。じゃあ、パンケーキだな。


 まずは小麦粉をボールに入れて。次に砂糖と牛乳、卵を割り入れる。力加減を失敗して卵の殻がボールに入ってしまったから、大きな殻を使って欠片をすくい出す。生地を混ぜたら、油を引いたフライパンで1枚づつ焼いていく。次々焼いていく。どんどん焼いていく。ふふふっ。パンケーキの山が積み重なっていくのって楽しい。


 全部のパンケーキが焼けると、クロムがテーブルまで運んでくれた。取り皿を並べ、パンケーキを2枚づつ取る。そこへハチミツをかけて、イチゴとラズベリー、木苺を散らした。うん。美味しそう。


「これは?」


「パンケーキだよ。シンプルなパンケーキだから、ハチミツや果物と一緒に食べてね」


「うん、美味い。今朝食べたケーキとはまた違った食感だな」


「美味しいよね。わたしも好き」


 ハチミツの甘さと、ベリーの酸味が合わさっていい感じだ。


「今度は長にやらないのか?」


「うん。長も甘い物ばっかり貰っても困るでしょ?クロムが好きなだけ食べていいよ」


 そう言うと、クロムはバクバクと美味しそうに残りのパンケーキを食べ始めた。


 わたしとクロムは魔素を吸収して生きているから、生きるだけなら食べる必要はない。だけど美味しい物を食べると嬉しいし、幸せな気持ちになるよね。


 台所の後片付けをしたら、畑へ行くことにした。


 今の村の規模を考えたら、畑の大きさは今の2倍でいいかな?それとも3倍?いやいや、広げ過ぎは良くないよね。それに、なんでわたし、この村の人を養うことを考えているんだろう?


 日々、食べる物に困る生活は良くないと思うよ。お腹いっぱいに食べられるようになるといいと思う。でも、それをわたしがするのは違うと思う。


 わたしが村全体の食料を作るようになれば、村人はこれまでのように働く必要がなくなる。食べるだけなら、ただ生きるだけなら、なにもする必要がなくなってしまう。わたしは、そんなふうにわたしに依存させたいわけじゃない。


 ただ畑がやりたくて、でも人手が足りなくて、それで村人の力を借りようと思っただけで………。


 わたしが畑仕事をやると、草むしりなんてしている暇がなく一瞬で実がなる。畑を耕すのは植物にやってもらうし、水まきはわたしが水を降らせれば済む。手伝ってほしいのは、種まきと収穫くらいだ。


 考えてみれば、種まきと収穫だけで報酬がもらえるなんて、かなり割の良い仕事じゃない?


 う〜ん。外から人を連れて来て働かせればいいのかな?でもそれだと、この村のためにはならないし………はぁ。ため息が出るよ。


 とりあえず、明日は村人が来る。今日よりも広い畑が必要だから、畑を広げておくかな。


 わたしは周り一帯に魔力が広がるように意識して、魔力を広げていった。だって、木に移動してもらうんだもの。木がせまっ!って感じることがないように移動してもらうために、かなり広範囲に魔法をかける必要がある。


「お願い。場所を空けて」


 ザザザザザッ!!


 ボコボコボコ!!


 わたしのお願いを合図に、木が移動を始めた。だけど不思議な動きをしている。何かを避けるように木が動いているので、あちらでぶつかり、こちらでぶつかりしている。大きな石でもあったんだろうか?


 ようやく木々が落ち着いたあとの地面を見てみると、あちらこちらに葉っぱが頭を出していた。大きな葉っぱで、1枚がわたしの頭ほどもある。木が避けていたのは、この葉っぱだったらしい。


「なんの植物だろう?」


 これまで、木が移動した跡は雑草が1本も残っていなかった。ただの雑草ではないようだけど、わたしにはそれがなんなのか思いつかない。


 葉っぱのひとつに近づき、試しに軽く引っ張ってみた。


「いてっ」


 地面の中から声がした。


 慌てて手を離すと、葉っぱが大きく揺れて、地面から何かが顔を出した。透き通るような白い肌に、不満そうにすがめられた緑の目の少年が、土の上に首だけ出してわたしを見つめた。


「ひいっ」


 そのあまりな光景に、思わず悲鳴を上げた。


 少年は辺りを見回し、周囲に木がなくなっていることを確認すると、目が怒りに燃えたあと、困惑に取って代わった。


「人間が木を切り倒したのか?いや、切り株も、草もない。それにしては、ギベルシェンだけを避けているように見えるし、人間に僕らの見分けがつくとも思えない。何が起こったんだ?」


 ギベルシェン?あの、頭に葉っぱを生やした少年のこと?


 少年は首を振ると、ため息をついた。



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