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25 働き方について

「ですから、オイクスは今回の件で村が分断される事を恐れているのです」


 そっか。簡単に考えていたけど、それじゃだめだったんだね。長とオイクスは、村の統治者として村全体のことを考えているんだね。


「わかった。手伝ってもらうことはやめるよ」


「いいえ、そうではありません」


「え?」


「村は食べ物に困っていますから、それを分けていただけるのは本当にありがたいのです。これは儂からの提案なのですが、こうするのはいかがでしょう?毎日、朝食の後から1時間ほど、動ける者に畑仕事を手伝わせます。分けていただく野菜や果物は、収穫した物の3割にしていただけないでしょうか?それを、村全体で分けたいと思います。いかがでしょうか?」


 村全体で分けるなら、今の収穫量じゃ足りないよね。それなら、もっと畑を広げなきゃいけない。畑を広げるのはいいけど、それをしたらわたしとクロムだけで種をまききれない。種をまくのを手伝ってもらうとして、そのあと収穫するには時間が足りないよ。


「いかがしましたか?収穫物の3割は多いでしょうか?」


「あ、うん。それだね。それと、畑を広げたら種まきも手伝ってもらわないと時間が足りないの」


 わたしは3割あげてもいいと思うけど、さすがに3割はあげ過ぎだと思う。


「そうですか。それでは、収穫物は2割。労働時間は朝食後の2時間ではいかがですか?」


「うん。それならいいよ」


「ありがとうございます。オイクスも、それでよいな?」


「………ああ」


 オイクスはむすっとした様子で頷いた。


「ところでエル様」


「なに?」


「白いスープとケーキは美味しくいただき、残りを村の者に分けさせていただきました。あれほど美味しい物は食べたことがありません。あれほどの物を作られるのであれば、昨日のスープは味気ない物だったのではないかと思います」


「そんなことないよ。アルトーの街の食堂で食べたスープより、塩が効いていて美味しかったよ」


「そうですか。あれはオイクスが作ったのです。ありがとうございます」


「え。オイクス、料理できるの?すごいね」


「おまえに言われたくない」


 ………なんで?


 そうは言ったけれど、オイクスは褒められてどこか嬉しそうだ。


「では、後でオイクスに鍋と皿を届けさせます」


「え、じいちゃん!?なんで俺がそんなこと………」


「いいから行くぞ。ほっほっほ」


 愉快に笑う長の後を、オイクスは不満そうな顔をしてついて行った。


 長とオイクスを見送ったら、次は手紙を書かなきゃいけない。それから収穫した野菜と果物を分けて、転移の魔法陣でアルトーの街へ送るでしょ?少し休憩したら、お昼ごはんの準備をして、森の様子を見ながら畑を拡張させなくちゃ。


 おおっ。わたしってば、結構忙しい?


 そしてわたしが忙しいということは、クロムも忙しいということだ。


 わたしは自分で決めたことだから忙しくてもいいけど、クロムはそうじゃないよね。何とか休ませてあげたいけど、わたしに付き合わせてたら自然とクロムも忙しくなってしまう。


 わたしはアイテムボックスを使えないし、どうしてもクロムに頼る部分が出てきてしまう。なんだかクロムに頼りっぱなしで申し訳ないなぁ。早く大きくなって、色々と成長して、クロムに頼らないようになりたい。


 でもいまは、とりあえず目の前のことをひとつづつ片付けていくしかない。


 クロムに木札とインクを出してもらって、ルオーに当てた手紙を書く。まず、収穫物の買い取り依頼でしょ。それから、収穫物を入れておく籠や木箱の注文。


 手紙は書いたけど、読めなかったら困るからクロムにも確認してもらった。クロムにはちゃんと読めた。良かった。


 次に、クロムに頼んで収穫物の2割ほどを地下の食料庫に入れてもらった。


 あとは、転移の魔法陣を使うだけだ。


 クロムと手を繋いで村の洞窟へ向かい、クロムが転移の魔法陣を設置した場所に残りの収穫物とわたしが書いた手紙を置いてくれた。


 クロムが魔法陣に向けて手をかざして魔力を流すと、魔法陣が光って上にあった物がすべて消えてなくなった。すごいなぁ。こんな一瞬で、物を移動できてしまうんだ。


「夕方にでも、様子を見に来ればいいだろう。………やはり、管理者がいないと不便だな」


「そうだね。いつ返事が来るかわからないもんね」


 この転移の魔法陣を管理してくれる人がいれば、そう何度も洞窟へ来なくていいし、荷物や手紙が届いたら処理をして欲しいよね。


 というわけで家に帰ってきたけれど、仏頂面のオイクスが家の前で待っていた。手には、朝シチューを作った大きな鍋を持っている。お皿が見えないところを見ると、鍋の中に入れてあるのかな。


「遅いぞ。どこへ行っていた!」


「洞窟へ行っていたの。転移の魔法陣で収穫した物をリングス商会に送ってたんだよ」


「リングス商会?ああ、トリー達のいる商会か」


「そう。野菜も果物も美味しそうに出来たから、売れればお小遣い程度にはなると思う。でも、籠と木箱をいっぱい注文したから、支払いのほうが多いと思うよ」


「………おまえ、金を持ってるのか?支払いはどうするつもりだ」


「おまえが心配せずとも、金ならある。預けてある金がなくなれば、ルオーが喜んで俺の鱗を買い取るだろう」


「クロム様の鱗!?売って大丈夫なんですか」


「どういう意味だ。剥がれ落ちた鱗など俺にとってはゴミ同然だが、人間には価値があるらしい。エルを育てると決めた以上、俺には金がいる。鱗を売って金を稼ぐことの何が問題だ」

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