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24 収穫後に

 そうだった!収穫して大喜び、で終わりじゃないんだ。手伝ってくれた皆に分けないといけないし、収穫した物を転移の魔法陣まで運ばなきゃいけない。


 収穫した作物は種類も多く、誰がどれだけ収穫してくれたのか、正直なところわからない。だから、収穫できた全体の2割を手伝ってくれた皆に渡し、それを8人で均等に分けてもらうことにした。


「始めの約束とは違うけど、いいかな?それと、明日からの収穫の手伝いを皆にお願いしたいんだけど、いい?」


 わたしの言葉を聞いて子供達は喜んだけれど、大人達は渋い顔をしている。


「こんな短い時間の手伝いでこれだけの野菜や果物をもらえるのはありがたいんだけど、あたしらばっかりがもらってたら、他の連中に悪いよ」


「そうだね。怒る奴も出てくるだろうね」


「なんで?おしごとしてもらったんだからいいじゃない」


「ラーラはネルの子守がいつもの仕事だろ。ネルの子守をしている間に、他の子供達がエル様の所で野菜や果物をもらってたらどう思う?」


「そんなのずるい!仲間外れにしないで!………あ」


「そういうことだ」


 ラーラは普段はネルという赤ちゃんの面倒をみているみたい。今日はたまたまおばあさんに代わってもらえたけど、毎日というわけにはいかないよね。


 他の皆も、普段の仕事があるはずだ。短い時間とはいえ、毎日拘束するのはよくない。でも、手伝ってもらわないと、収穫をわたしとクロムだけでするのは大変だ。


「そうだ。交代で手伝ってもらうことはできるかな?」


「交代ですか?」


「うん。まず長に話をして、収穫を手伝ってくれる人を集めるの。その人達をいくつかの班に分けて、交代で手伝ってもらうんだよ。やりたくない人もいるだろうし、こうすれば平等でしょ?」


「なるほど!いい案ですな。さっそく長に話して来ましょう」


 おじいさんがそう言って、自分の籠を手に歩いて行った。


 わたしが話しても長は真剣に取り合ってくれないけれど、住民から話を持ちかけられれば違うかもしれない。


「皆、今日はありがとう。収穫が早く終わって助かったよ。長との話し合いがどうなるかわからないけど、良かったら明日も集まってね」


「うん。また来るよ!」


 ラーラ達くらい小さな子供は、あまりできることがないみたい。収穫の手伝いをして、籠いっぱいに収穫物がもらえることが嬉しくて堪らないみたい。


 大人………というより、老人は体力も力もなく、あまりできることがない。だから、老人も自分達が役に立てたことを喜んで帰って行った。


 畑仕事を本格的にしようと思えば、草むしりだって重労働だけど、収穫だけならそれほど大変じゃない。それに、楽しい。皆が手伝ってくれて良かった。


 さてと。収穫が終わったあとは、明日の準備をしないとね。果物の木はそのまま残すとして、野菜を収穫したあとの茎や葉、根に魔力を流す。肥大化した植物が暴れて土を掘り起こしたあとは、植物を枯らして土に帰した。それから雨を降らして、土を湿らせた。よし、これで明日の準備はできた。


 あとは、収穫した物を残す物と売る物に分けて、転移の魔法陣でリングス商会へ送るの。手紙も書かないとね。


 クロムに収穫物をアイテムボックスに収納してもらい、わたし達は家に向かった。


 家の前には、長と、怖い顔のオイクスが待っていた。わたし、オイクスを怒らせるようなことしたかな?


「おまえ、村を分断する気か!」


 いきなり怒られた。わけがわからない。


「わたしは畑仕事しかしてないよ。それで、村で分断が起きるの?」


「勝手に村人を集めて、畑仕事をさせたらしいな。報酬として、収穫した作物の2割をもらったと言っていたぞ」


「そうだよ?」


 それの何が悪いのかわからない。手伝ってもらったから報酬を渡すのは当たり前のことでしょう?


「それだけじゃない。明日からも希望者には手伝わせると言ったらしいな」


「うん。村人が長に相談に行ったでしょ?」


「ああ。来た。だから、こうして、わざわざ、訪ねて来てやったんだ」


 怒っているわけを説明してくれるんだろうか?それならありがたいな。


「オイクス、そう感情的になるな」


「だけど!」


「儂が話す。良いかな?クロム様、エル様」


「ああ、言ってみろ」


「この村には、総勢82人の村人が暮らしております。エル様の提案を多くの村人は喜ぶでしょうが、そうでない者もおります」


「だから、嫌な人は手伝わなくても………」


「エル様のお心遣いはわかるのですが、そうではないのです」


「どういうことだ?」


「老いて体が弱くなった者がいるのです。また、幼過ぎて畑仕事には向かない者、見張りのように本来の仕事を離れられない者………様々な理由によって、エル様の恩恵を受けられない者がおります」


 わかった。希望者だけに収穫物をあげるのは不公平だってことね?


「やりたくない者はそれでよいでしょう。ですが、やりたくてもやれない者はいかがするおつもりですか?人は貰える物はなんであれそれが自分だけ貰えないとなれば不満が出てきます。最初はわずかな不満だったとしても、次第にそれは大きく膨らみ、エル様や、貰える者を拒むことに繋がりかねません」


 不公平だとか、そんな話じゃなかった。恨みか、恨みは怖いよね。恨み、妬み、そねみ、そういう感情は、人をあっという間に悪い道へ落ちてしまう。落ちた人間は、後先を考えずになにをするかわからない。

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