23 収穫
種と言っても、じゃがいものようにそのまま土に埋めるものもある。果物は果実のままで、土に埋めていった。このほうが実の栄養も使って育つからいいの。と、自分に言い聞かせる。
種まきができたら、次は成長させるだけ。
再び全身に魔力を行き渡らせ、種まきした畑に向けて魔力を広げていく。
「大きくな〜れ、大きくな〜れ」
畑に蒔いた種から芽が出て成長し、茎が伸び葉をつけて花が咲き、あっという間に実をつけた。
果物は木となり、それぞれが美味しそうな鈴なりの実をつけた。
ふふっ。大成功!
「な、なんだよこれ!」
「こんなにすぐ成長するなんてありえないわ!」
「すっげー美味そう!なあおまえ、食っていいか?」
男の子がわたしを見て、目をキラキラさせている。
「なに言ってるのよ。これは全部クロム様の物なんだから、だめに決まってるでしょ!」
赤ちゃんをおんぶしている女の子が叫ぶように言うと、それまで大人しく寝ていた赤ちゃんが起きてしまった。
「ふえ〜ん、ふえ〜ん!」
頼りない声で、精一杯泣いている。可愛い。
クロムが顔をしかめると、女の子はビクッとなって男の子の後ろに隠れた。
前に押し出される形になってしまった男の子達は、クロムに見られて泣きそうだ。
わたしはその男の子達に向かって話しかけた。
「あのね。野菜も果物もいっぱいできたでしょ?だから、わたしとクロムだけで収穫するのは大変なの。収穫を手伝ってくれたら、採れた物の2割をあげる。どう?やる?」
てっきり子供達が喜ぶと思ったのに、子供達は困った顔をしている。
「………ええと。2割ってなに?」
「しゅーかくってなに?」
あ、そっか。言葉が難しくてわからなかったのか。
「えっとね。野菜と果物を採ることを収穫っていうの。10個採れたら、そのうちの2個をあげるよ。手伝ってくれる?」
「やる!家に行って籠取って来る!」
「俺もやる!いっぱい採るんだ!」
「びえ〜ん!」
「………ネルのお世話があるから、あたしだけしゅーかくできない。ずるい」
女の子は大声で泣くようになった赤ちゃんと一緒になって、ポロポロ涙をこぼし始めた。
困った。どうしよう?
女の子にかける言葉が見つからなくて途方に暮れていると、男の子達が籠を手に持ち、大人達を連れて戻って来た。
「おやおやラーラ、何を泣いているんだい?ネルはお腹が空いているのかねえ。ずいぶん泣いて」
ひとりのおばあさんが、女の子に向かって話しかけた。ラーラと呼ばれた子は、そのおばあさんに抱きつき泣きながら訴えた。
「ひっく。あの子が、しゅーかく手伝ったら野菜と果物くれるって言ったのに、あたしはネルのせいでしゅーかくできないんだもん!あたしだってお腹が空いてるのに………ネルなんて嫌い!」
「嫌いなんて言うじゃないよ。ほら、ネルの世話はこのばあばに任せて、ラーラはお手伝いにお行き」
そう言って、おばあさんはラーラからネルのおんぶ紐を外し、ネルを抱っこして連れて行ってしまった。
「クロム様。あたし達も、収穫を手伝わせてもらっていいですか?」
男の子達が連れて来た女性が、おずおずとクロムに話しかけてきた。
赤ちゃんの泣き声が遠ざかって表情が落ち着いてきたクロムが、女性を見て首を横に振った。
「あれはエルの畑だ。許可を求めるなら、俺ではなくエルにしろ」
一瞬落ち込んだ女性だけど、その言葉を聞いてほっとした表情をした。
「エル様。あたし達も収穫していいですか?」
「うん、いいよ。皆でやったほうが楽しいし、早く終わるよね」
「ありがとうございます!」
収穫のために集まったのは、大人5人、子供が3人。人手が多い分、あっという間に収穫は終わった。山盛りになったいくつもの籠を見ていると、満足感が込み上げてくる。
保管のためにも籠は使うし、明日も収穫するから、もっと籠が必要だね。ルオーに頼まなきゃ。
………でも、どうやって頼めばいいんだろう?手紙かな?う〜ん。手紙を送るには転移の魔法陣を使えばいいけど、紙なんて高価な物を買っていたかな?ちょっとした注文だから、紙じゃなくて木札でいいんだけど………そもそも、わたしって字をかけるんだっけ?クロムに習った覚えはないな。
あ、字を書くならインクも必要だよね。どうしよう。買った覚えがないよ。
「クロム、ルオーに手紙を書きたいんだけど、木札とインクはある?」
「あるぞ。トリーが用意した物の中に入っている。こんなもの、どうするのだ?」
「必要な物を手紙に書いて、ルオーに送ってもらうの。手紙でお願いしないと、ルオーも何を送ればいいのかわからないでしょ」
「む。そうか。それは考えていなかったな」
「じゃあ、ルオーとどうやって連絡とるつもりだったの?」
「当然、念話だ」
「え、念話?相手が目の前にいなくても、念話ってできるの?」
「当たり前だ。相手の気配さえ覚えておけば、距離など関係なく対話ができる。まあ、距離が離れる分、魔力を消費するがな」
「そうなんだ。ルオーも気配なら覚えているよ。やってみようかな」
「それはあとにして、まず、収穫物を分け与えるのが先ではないか?皆、エルの指示を待っているぞ」