22 自分の畑を作る
長とオイクスは、美味しそうにシチューとケーキを食べている2人を羨ましそうに見ていた。
「オイクス、毒は入ってなかったでしょ?」
「そ、そうみたいだな」
「じゃあ、受け取ってくれる?」
「仕方ねえ」
「ふふっ。ありがとう。これは、引っ越しの挨拶だよ。よろしくね。それと、長にお願いがあるの」
お願いと言ったとたん、緩み始めていたオイクスの表情が険しくなった。
「何ですかな?」
「自分の畑が欲しいの。家のそばの土地を切り拓いて、畑を作ってもいい?」
「それはかまいませんが、誰が畑の世話をするのですか?まさか、クロム様がなさるわけではございませんでしょう?」
「もちろん、わたしがやるよ」
自信満々に答えると、長は首をゆるく横に振った。
「エル様は、畑仕事を簡単にお考えのようですな。生き物を世話するというのは、簡単なことではありません。それに、エル様では畑を耕すこともおできにならないのでは?」
「それは魔法を使うから大丈夫。でも、収穫は手伝ってほしいかな。いっぱい育てるつもりなの」
「そうですか………エル様は、村の畑をご覧になりましたか?この村では、作物は育ちが悪いのです。おそらく、エル様が期待されるほどの収穫はないでしょう」
「う〜ん。だから?村の畑で作物が育たないからって、わたしが育てられないとは限らないよ。畑は家の裏の森を切り拓いて作るし、作物は魔法を使って育てるからそんなに大変じゃないの」
「なんと!今ある畑を使うのではなく、新たに森を切り拓いて作るですと!?それが、どれほど大変なことかおわかりですか?木を切り倒し、切り株を掘り起こし、石を取り除きながら硬い土を掘り起こすのですぞ。とても、エル様にできるとは思えません。おやめください」
む〜ん。しつこい。やりたいって言っているんだから、許可してくれればいいのに。
「あのぉ………エル様は植物魔法を使えますよね?それなら、普通に作業するよら効率よく畑が作れるはずですし、作物も育つのではないでしょうか」
トリーが長との間に入って、そう言ってくれた。トリーの言葉を聞いた長は、はっとした顔をした。
「そうでしたな。植物魔法があれば、たやすくできるてしょう。それに、やってみればエル様も畑仕事の大変さがわかるでしょうし………いいでしょう。許可します」
「やった!ありがとう、長。それにトリーもありがとう」
ふふっ。いっぱい育てて食べたい物がいっぱいあるんだよ。今から、たわわに実った野菜や果物の姿が目に浮かぶようだよ。
長やトリー達と別れて、わたしは家まで急いだ。いくら急いでも、スタスタとは歩けないから遅いんだけど。卵から生まれてまだ2日目だから仕方ない。慣れれば、きっと早く歩けるようになるはず。
それより気になるのは、わたしのあとをついて来る子供達だ。わたしと同じくらいの5〜6歳に見える子供が2人、もう少し大きく見える子供が1人、その大きな子におんぶされた赤ちゃんが1人いる。
この4人はわたしが長の家に行く途中でわたしに気づいて、そこからずっと遠目にわたしの様子を伺っている。4人より大きい子は大人の手伝いをしているみたいだから、この子達は暇を持て余しているのかもしれない。
わたしがせっせと足を動かして家に着く頃には、子供達の警戒心も緩んだのか、好奇心が勝ったのか知らないけど、子供達はわたしのまわりに張り付くようにしていた。なにかしてくるわけじゃないからいいけど、ちょっと邪魔だ。
家に着くと、すぐに家の裏手へ回る。
手つかずの森がそこにはあった。太い木々が沢山生えていて、切り倒してしまうのは可哀想に見える。お願いしたら、場所を移動してくれるかな?
わたしは全身に魔力を巡らせ、その魔力を周囲に行き渡らせるように広げていく。
「なんだ?木なんか見て、なにしてるんだ?」
「木が珍しいのか?変なやつだな」
「洞窟にいたから、木を知らないんじゃないの?」
………誰かに見られながら木に話しかけるのって、ちょっと恥ずかしいかも。
ええい。やっちゃえ!
「森の木々よ、場所を開けて。畑を作りたいの」
ザザザザザー!!
ボコボコボコ!!
森の木々が、わたしの声を聞いて激しく揺れた。揺れながら根を引き抜き、左右に別れて移動していく。おそらく20メートル✕20メートルの場所が開いたところで木々は移動をやめ、地面に根を下ろした。木が移動したあとの地面は掘り起こされて、耕す必要がないくらい土が柔らかくなっている。
「すっげぇ。木が動いたぞ!」
「なんなの!?気持ち悪い!」
「うわぁー、魔法だ!」
わたし後ろで子供達が大声をあげた。
さらにその後ろには、村の畑で作業していた大人達がぽかんとした顔をして立っている。
「エル、長の許可をもらったようだな」
いつの間にかやって来ていたクロムが、すっとそばに寄ってきてわたしの頭を撫でてくれた。
「うん。ちゃんと許可もらってきたよ。これから種まきをするんだよ」
「なにを植えるか決めたのか?」
「うん。畑を4つに区分けして、まずは2つの畑に野菜と果物を植えようと思うの。じゃがいもと、にんじんと、玉ねぎでしょ。それからトマトに豆とキャベツも欲しいな。果物はブドウとりんご、オレンジ、ベリー類」
「そんなに一気に育てられるものか?」
「うん。大丈夫。種を出してね」