21 毒見
「長の所で一緒に食べたら?」
「え!?僕達もいただいていいんですか?」
「もちろん」
「「やったぁー!」」
トリーとケシーは、手を取り合って大喜びだ。こんなに喜んでくれるなら、もっと作っておけば良かったかな?
「それで、おまえ達は何しにここへ来たのだ?」
「はっ。そうでした。アルトーへ戻るので、ご挨拶に伺ったんです」
「ほう」
「この度は、素晴らしい商売をさせていただきありがとうございます。アルトーに戻ったら、改めて手紙を書かせていただきます」
「いい心がけだ」
そっか。トリーとケシーは、出発の挨拶に来てくれたのか。嬉しいな。
それから、トリーが小さな体には不釣り合いな大きな鍋を抱え、ケシーがケーキのお皿を大事そうに抱え、ゆったりとした足取りで家を出ていった。あの大きな鍋を持てるということは、トリーも身体強化の魔法が使えるんだと思う。そうじゃなきゃ、あの力は説明がつかないもん。
さてと。次は畑仕事だ。でも、畑を作る前に長に一言あったほうがいいよね。うん。心象って大事。
「クロム、わたしも長の家に行ってくるね」
「エルが行く必要はなかろう」
「ううん。必要あるんだよ。わたしの畑を作りたいから、長の許可がいるんだよ」
「長の許可など必要ない。ここで1番偉いのは俺だからな。俺が許可すれば、長は文句も言えん」
「それじゃだめなんだよ。この村の代表は長なんだから。ちゃんと話して許可をもらってからじゃないと、あとで問題が起きた時に困るのは嫌なの」
「………そうか。なら、行って来るがいい」
「うん。行ってきます!」
どこか寂しそうなクロムに見送られて、わたしはトリーとケシーと一緒に長の家まで歩いた。
途中、見かけた村人は、わたしを遠巻きに見つめていた。得体の知れない怪物を見るような、恐れと好奇心がないまぜになった視線だった。居心地が悪い。
「こんにちはー。トリーとケシーです。クロム様からのお届け物を持って来ました」
トリーが声を張り上げると、ぎいぃと扉が開き、オイクスが姿を現した。
「あいつが何を寄越したって?ゴミでも持たされたんじゃねえの?ははっ。………げっ、チビがいるじゃねえか!」
オイクスは言いながらトリーとケシーを見回し、最後にわたしに視線を止めて悪態をついた。
「どうしたオイクス?トリーとケシーなら、中に入ってもらいなさい」
家の中から、長の声が聞こえた。
「………入れよ」
オイクスは気まずそうな顔でそう言って、両手が塞がっているトリーとケシーのために扉を抑えてくれた。案外、優しい所があるのかもしれない。
トリーとケシーに続いてわたしも中に入ると、長がわたしに気づいてぎょっとした。
「これはこれはエル様。このようなむさくるしい所へよくぞおいでくださいました。本日は、なんの御用でしょう?」
長は座っていた椅子から慌てて立ち上がり、クロムに対してするように深くおじぎをした。
「そんなふうにしないで、頭を上げて。今日は、作ったシチューとケーキを持って来たの」
「はて、シチューとケーキですか?初めて聞きますな」
長は不思議そうに首を傾けてトリーとケシーの持っている物を見つめた。
「白いスープだと?匂いはマシだが、何を入れた?毒じゃねえだろうな?」
オイクスは鍋を覗き込み、不審な物を見るような目をした。
「毒じゃないよ。なんなら、ここで食べてみせようか?」
「エル様!毒見役なら僕がします!」
「ずるいぞトリー!俺だって食べたいんだからな!」
「じゃあ、ケシーはシチューを毒見して。僕はケーキを毒見するから」
「だめだ!俺は両方食べたいんだ!こんな美味しそうな物を前にして、食べないという選択肢はない!」
おっかしいの。初めて見る食べ物に、こんなに興味を持ってくれるなんて思わなかった。
「じゃあ、2人とも両方食べたら?」
「「そうします!」」
トリーとケシーは長の家のテーブルにそっと鍋とお皿を置くと、長を見て頭をぺこりと下げた。
「それでは、僕らで毒見をさせていただきます」
「ああ、頼むよ」
言われたトリーは、マジックバッグからまず踏み台を出し、その上に乗った。そうしないと、背が低くてテーブルに置いた鍋を覗き込むことができないの。それから、スープ皿や平皿、スプーンとフォークを並べ、お玉でシチューをすくってスープ皿に盛り付けた。
良い匂いがして、さっき食べたばかりなのに、また食べたくなってくる。
ケーキは平皿に1カットづつ移し、準備ができたところで待ちきれない様子のケシーがシチューを口にした。
「うまっ………なにこれ?………うまっ」
一口食べて目を見開くと、感激した様子でシチューをバクバク食べていくケシー。
その様子を見て、慌ててトリーもスプーンを手にする。
「………はあ、美味しいです。なんですかこれ。こんな美味しい物初めて食べましたよ」
気に入ってくれたようで嬉しい。
一気にシチューを食べ終わると、今度はケーキだ。2人はフォークで突き刺し、その柔らかな感触に驚いた。
「なんだこれ?パンとは全然違うぞ」
「ふんわりしてますね。少しづつ食べるんでしょうか?」
「うわっ。甘い!でもくどくない」
「しっとりしてて、ふんわりした食感ですね。甘さがちょうどいい。これがケーキですか?」
「そうだよ、トリー。美味しいでしょ?」
2人の美味しそうな様子に、わたしは大満足。