19 ケーキとシチューを作ります 3日目
「さて。もう遅い。寝るぞ」
クロムはわたしを抱き上げ、2階の寝室へ向かった。そこには、昨日と同じく木が剥き出しのベッドがあり、クロムにシーツと布団を出してもらいなんとかベッドメイキングをした。
そういえば。ベッドメイキングの知識も、どうしてわたしは持っているんだろう?初めて目にしたはずなのに、誰にも教えてもらわずに形にできるなんておかしい。
考えている間にも、わたしはクロムに抱き上げられてベッドに横になった。靴は抱き上げられた時に消して素足になったよ。シーツを汚したくないからね。
そんなわたしの様子を見たクロムが、清浄魔法をかけてくれた。おかげで、全身スッキリ。気持ちいいよ。
「ほう。布団とは、心地良いものだな」
布団の上に横になったクロムが言った。
「そうだね。あったかくて、気持ちいいね」
上掛けをかけてクロムの腕の中で丸くなると、心地良い睡魔が訪れた。
翌日は、まだ薄暗いうちから目が覚めてしまった。興奮して目が覚めちゃったの。クロムはまだ眠っている。わたしを抱き締める腕をするりと抜けて、ベッドから降りた。
そしてクロムを起こさないように台所へやって来ると、わたしはケーキが作れる興奮で目を輝かせた。
まずは、踏み台を用意する。これがないと、小さなわたしの体では台所で作業ができない。
床に手を当てて、魔力を少し込める。すると、わたしにちょうどいい台が現れた。よしよし。
台に座って足を上げ、足裏についた砂埃を払う。それから、魔力で靴を出した。
意気揚々と台を移動しようと手をかけたとき、わたしはあることに気づいた。台が重い。これは、いまのわたしには重労働なのでは?こんな調子じゃ、とてもケーキを作ることはできない。
ううん。今のわたしに力が足りないなら、力を手にすればいい。そう、身体強化の魔法だ!
全身に魔力を巡らせ、筋力がつくイメージをする。
台を手にすると、軽々と持つことができた。よし、これで大丈夫だ。
わたしは台を移動させて台所に立ち、ケーキの材料や道具を並べていった。それからオーブンに火を入れて温めておく。それからケーキの型代わりの鍋の内側に油を塗る。次に小鍋に魔法で水を入れて、お湯を沸かす。金属のボールにバターを入れて、湯煎にかける。バターが全部溶けたらハチミツと砂糖を入れてよく混ぜ、卵を加えてさらに混ぜる。小麦粉はザルを使ってふるい入れて、木べらに持ち替えて混ぜる。できた生地を鍋に流し入れれば、準備は完成。
オーブンが温まってから、鍋をオーブンに入れて温度を調整する。
あとは焼くだけだから、いまのうちに朝ごはんを作っておこう。
でも、わたしは料理はほとんどてきない。レシピもあまりない。できるのは、簡単なものばかりだ。
そうだ。シチューが食べたいな。沢山作って、余ったらクロムに保管してもらえばいいよね。
そうと決まれば、まずはじゃがいも、にんじん、玉ねぎの皮を剥き、適当なサイズに切っていく。肉はなんでもいいけど、鶏肉があるからそれを使おう。次々に食材を鍋に放り込み、油で炒めて軽く火を通すと小麦粉を絡める。それから牛乳を注ぎ込み、バターを入れる。すっかり煮えたら塩胡椒で味を整えて完成。
うん。美味しい。コンソメがあったらもっと美味しくなるけど、これはこれで好き。
ピー!
そのとき、オーブンが鳴った。焼けた合図かな?
オーブンを開けると香ばしくて甘い香りが広がった。鍋つかみで鍋を掴み、そっとオーブンの外へ取り出した。細く削った木をケーキの中央に刺すとなにもついてこない。うん。成功だ。
鍋に入れたままケーキを冷ますとケーキが縮んでしまうから、鍋を逆さまにしてケーキを取り出した。ケーキクーラーが欲しいところだけど、ないからまな板に乗せておく。
洗い物をしている時に、クロムは起きてきた。
「甘い匂いがするな。それがケーキか?」
クロムは台所の作業台に置いたケーキを見て言った。
「うん。今シチューをよそうから待ってね。ケーキは朝ごはんの後に食べよう?」
「シチュー?」
「そうだよ。クロム、わたしの分もテーブルまで運んでくれる?」
「ああ。白いスープなんて初めて見たが、良い匂いだな」
スープ皿を両手に持ち、テーブルに向かうクロムの背中を見てため息をついた。シチューだって言ったのに、クロムにはスープにしか見えないみたいだ。
わたしはスプーンを手に、クロムの後を追った。
わたしはクロムと向かい合ってテーブルにつき、クロムがシチューを食べる様子を眺めた。
クロムはスプーンでシチューをすくうと、躊躇うことなく口に運んだ。
「っ!」
目をかっと見開いたクロム。
「クロム、美味しくなかった?」
不安になる。わたしは美味しくできたと思うけど、味覚は人それぞれだから、クロムには美味しくなかったのかもしれない。
「そんな顔をするな。エル、こんな美味い物は初めて食べたぞ。良くできたな」
そう言って、クロムはわたしの頭を撫でてくれた。
「クロムにそう言ってもらえて嬉しい」
「こんなとろみがあるスープは初めてだ。それに、なぜスープが白いんだ?」
「あのね、クロム。これはスープじゃなくて、シチューって言うの。小麦粉とバターでとろみを出していて、白いのは牛乳を使っているからだよ。クリーミーでしょ?」
「そうか。シチューか………うん、うまい」
ふふっ。クロムがパクパク食べてくれて嬉しい。作ったかいがあるよ。
「じゃあ、そろそろケーキを食べようか。わたしがケーキを切るから、テーブルに運んでくれる?」
「いいぞ」




