18 食料庫ができた
食事が終わると、トリーがせっせと食器を流しへ運んでくれた。
「さて。長よ、おまえに伝えることがある」
「何でございましょう?」
「この村とアルトーの街を繋ぐ転移の魔法陣を設置することにした。魔法陣は洞窟に設置する。管理を任せられる者はいるか」
「申し訳ありません。おっしゃっている意味がよくわからないのですが………」
「あのね。転移の魔法陣を使えば、一瞬でアルトーの街から物を運べるの。反対に、村の特産物を運んで売ることもできるんだよ」
「………大変素晴らしいことのようですね」
「??長は嬉しくないの?」
「なにしろ、この村は貧しく、若者は外へ出稼ぎに行くのが常ですからな」
ああ、やっぱりそうなんだ。だから、村には老人と子供ばかりなんだね。
「物を運べると言っても、その物をタダでいただけるわけではないのでしょうか?お金がかかるのは承知しておりますよ。しかし、この村には、その魔法陣とやらの恩恵を受けられるほどのお金はありませぬ。村人が利用することはないでしょう。けれど、クロム様のなさることに反対する気はございません。どうぞ、お好きなようになさってください」
う〜ん。村には必要ないけど、クロムがやりたいなら好きにすればいいってこと?長として、その態度はどうなんだろう?なんだか、投げやりだなぁ。
「では、好きにさせてもらう。下がっていいぞ」
クロムに言われ、長は外に出た。が、すぐにさっき鍋や何かを運んでくれた村人を連れて戻って来た。鍋や食器やカラトリー、パンを詰めた籠を持つと、長は村人を連れて出ていった。
「トリー、おまえとは今後について話したい」
「と、おっしゃいますと?」
「転移の魔法陣を設置したあと、どのように運用するかだ。リングス商会のほうは問題がないが、こちらは管理者がいないではないか」
「たしかにそうですね。長の協力が得られないとなると、クロム様が自ら魔法陣を管理するか、管理を任せられる者を探すしかありませんね」
「俺が管理するのは面倒だ。誰か、適任者はいないか?」
「村の見張りをしているドゥルーバンは信頼できますよ。あとは、長の孫のオイクスですかね。彼は………」
うう〜ん。話し声が、子守歌のように聞こえてきた。眠い。眠いよ………。
まだ眠っちゃだめ。お話は終わってないし、転移の魔法陣も設置してない。ベッドメイキングだってしてないし………そうだ!台所の片付けもしてない!クロムにオーブンを設置してもらわないと、明日、朝ごはんを作る時に困るよ。
「さて。話は以上だ。転移の魔法陣を設置して、今日は終いだな」
「じゃあ、わたしはベッドメイキングをするね。クロム、シーツと布団を出して」
「戻ったら手伝ってやるから、エルは大人しく待っていろ」
そう言って、クロムはシーツも布団も出してはくれなかった。考えてみれば、わたしひとりじゃ階段を登るので精一杯なんだから、物を持って2階へ上がれるはずないよね。クロムが正しい。
しかたない。クロムが出掛けている間に、わたしはオーブンを置く準備でもするかな。そう思って台所を見たけれど、今の台所にオーブンを置くスペースがない。
オーブンが置けなくちゃ、ケーキが作れないじゃない!
いやいや、焦ってもどうしようもない。スペースがないなら、作ればいいんだよ。
わたしは台所に立ち、台所を広げるイメージをした。
ぼんっ!
家全体が大きく震え、跳ねたような気がした。
家の中を見回すと、確かに台所は広がっていた。だけど、広がっていたのは台所だけじゃないよ。リビングも広がっている。なるほど。家全体が大きくなったみたい。
台所を見回すと、台所から下に続く階段ができていた。やった!これはきっと、食料庫だよ。アルトーの街でいっぱい買い物したから、食料庫があれば助かる。
食料庫にはなぜかヒカリゴケが生えていて、うっすらと明るかった。地下にあるせいか、空気がひんやりしている。この広さと環境だったら、食料庫として完璧!
ルンルン気分で台所に戻ってくると、ちょうどクロムが帰って来たところだった。
「クロム聞いて!オーブンを置くスペースを広げようとしたら家が大きくなって、食料庫ができたの。すごいでしょ?これで、いっぱい食料をしまえるよ」
「食料なら、俺のアイテムボックスにしまっておけばいいてはないか。腐らず、いつまでもしまっておけるぞ」
「それもいいけど、クロムにお願いしてばかりだと悪いもん。それに、使いたい時にクロムがいなかったら困るでしょ?だから、今から言う食材や道具を出してくれる?」
「ああ、いいぞ」
一気に出してもらっても整理に困るから、少しづつ物を出しては片付ける、ということをやることにした。
まず、オーブンを出してもらった。
オーブンを見たわたしは、すぐにでもケーキを作りたい衝動に駆られたけれど、そこはぐっと我慢した。まず、片付けないとね。
トリーのアドバイスを受けて家具も買っていたから、台所に作業テーブルを置き、棚を置いて小分けされた調味料や香辛料、料理道具、食器やカラトリーと次々に並べていく。地下の食料庫には、大きい袋に入った調味料や食材を並べていく。
重い物が多かったから、わたしは全身に魔力を巡らせて身体能力を上げる身体強化の魔法を使った。これができなかったら、とても片付けなんてできなかったよ。
かなりの量を整理したと思うけど、クロムのアイテムボックスにはまだまだ食材や種が詰まっている。腐りやすい肉や魚は、明日食べる分を残して全部アイテムボックスにしまってある。食材は大切にしないとね。