16 村へ帰る
「大丈夫ですよー。こう見えて僕は成人していますし、この子はエルフなので幼く見えるだけです」
ん?トリー、エルフってわたしのこと?髪で耳が隠れてるからって、そんな嘘ついて大丈夫?
「それにしたって、夜の森は危険だぜ。荷台に乗せてやるから、一緒に街へ行くぞ」
「ありがとうございます。ですが、僕達は"夜の森"に用事があるんです。だから、朝まで待てないんですよ。さあ、お兄さんも急がないと閉門に間に合いませんよ?」
トリーは、"夜の森"というところを強調して言った。
それを聞いて、お兄さんは顔を青くする。
「まさか、これから狩りをする気か?はぁ〜、どうかしてる」
「まあ、そんなところです」
「まったく!何が起きても知らないぞ。じゃあな!」
お兄さんは呆れたようなため息をつき、荷馬車を走らせて去って行った。
良かった。これで、森に行くことを引き止められずにすむよ。
そうして森の入口に着いたものの、森の中にクロムがドラゴンになれるような空き地は見当たらない。もっと奥まで行くのかな?
「クロム、どこでドラゴンになるの?森の外しか開けた場所はないよ。でも、森の外でドラゴンになったら、街から見えちゃうよね?」
「そうだな。街の人間は黒の森を警戒しているから、ここで人化の術を解けば見つかるだろう」
「そうだよね。でも………ふああ〜………村の長には夜には戻るって言ったから、そろそろ出発して村に帰らないとね」
「エル、眠そうだな」
「うん。眠い」
そう言って、クロムの胸元に顔をグリグリと擦りつけた。
クロムが愉快そうな声をあげた。
「それなら、このまま抱いていくとしよう」
「え、どうやって村まで行くの?」
「なにも、ドラゴンの姿でなければ飛べぬというわけではない。この姿でも、翼を出せば飛べるのだ」
「すごい!クロム、すごいね」
「で、でもですね!クロム様が飛べば、街の見張り台から見えてしまうと思うのですが………」
そうだね。アルトーの街の人にとっては、ドラゴンも、空を飛ぶ翼の生えた人間も脅威だよね。
「いま、結界を張った。これで外からは見えん。この状態で飛べば、風が吹いたとしか思わんだろう」
「それなら安心ですね。ところで、クロム様に抱っこされているエル様はいいとして、僕はどうしたらいいのでしょう?僕も連れて行っていただけるんですよね?」
トリーが不安そうな顔でクロムを見上げている。
そっか。クロムがドラゴンなら背中に乗せてもらうことができるけど、人型ならそれはできない。トリーはどうしよう?クロムにしがみついてもらう?でも、疲れちゃって、途中で落ちちゃうかもしれないよね。それはトリーが可哀想。
「ねえクロム。結界の外から見えないんだったら、ドラゴンになっても外の人にはクロムが見えないんだよね?」
「そうだ」
「だったら、ドラゴンになってトリーを乗せてあげて。お願い」
「ふんっ。お願いされては、きかぬわけにはいかんな」
クロムは急に表情が緩み、目尻が下がった。なんだろう。わたし、なにかクロムが喜ぶようなこと言ったかな。
トリーはクロムの言葉に、ほっとした表情を浮かべている。そうだよね。アルトーの街の門はもう閉まっているし、こんな所にひとり残されても困るよね。うん。考えたと思うんだ。クロムにしがみついて村まで飛んで行くのと、ここに残されるのと。どっちも嫌だと思う。
クロムはわたしを地面に降ろし、少し離れたところでどへと姿を変えた。暗闇でもわかる、見事なドラゴン。すごくかっこいい。
そしてわたしとトリーは、クロムの背中に乗って村まで帰るよことになった。
空は夕闇から夜空へと変わり、空には星が瞬き始める。手を伸ばせば星に手が届きそうなのに、いくら手を伸ばしてもあの光には届かない。
「エル様、クロム様にしっかり掴まっていてください。手を離すと危ないですよ。エル様になにかあれば、怒られるのは僕なんですからね!」
うん、ごめんね。やらずにはいられなかったの。
村のそばまで来ると、クロムは結界を解いた。村の広場に着地するのに姿を消していたら、着地の際に村人が巻き込まれるかもしれないからね。そんなことになったら、クロムが村人から恨まれてしまう。それはだめ。
クロムが村の上空に到着すると、見張りの獣人がいち早くやって来て、家の外に出ていた村人が広場に近づかないよう誘導してくれた。ありがたい。
そしてクロムが悠々と広場に着地すると、わたしは風魔法を使って自分とトリーを地面に降ろした。わたしとトリーが地面に着地したのと確認してから、クロムは人化の術を使った。
クロムが人型になったのを見届けてから、長とオイクスがやって来た。
「クロム様、お帰りなさいませ」
「うむ。長よ、食事の用意はできているか?」
「はい。ささやかながら、用意させていただきました。場所はご自宅でよろしいですか?」
「ああ。今から家へ帰る。食事の準備をしろ」
「かしこまりました」
長が目配せすると、後ろに控えていた大人達が長の家へ向けて駆けていった。長の家で、料理を作ってくれたのかな?見ていると、長の家から出て来た人達は、鍋や籠を抱えてわたしの家へ向かっている。料理を運んでくれているんだと思う。




