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141 解毒魔法

「ねえ、クロム。この人、毒に侵されてる?」


「ああ。ドクロヘビの毒だな。摂取した毒が少ないせいで、症状が出るのが遅れたのだろう。ふむ。そろそろ倒れるぞ」


「え、それは大変!あの、あなた?すぐ座って。立ったまま倒れたら危ないよ!」


「はっ?………うぐっ!」


 ジェームズの身体がふらつき、真っ青な顔で膝と手をついた。ところが身体を支えきることができず、顔から地面に倒れ込んだ。


「ジェームズ様!」


 さっきの、ディングリン商会の男性がジェームズに駆け寄り、ジェームズの身体を仰向けにして地面に寝かせた。


「ううっ………ダート………私のことはいい。お嬢様を………」


 ふむふむ。彼はダートと言うのか。って、そんなこと考えてる場合じゃなかった!


「クロム、どうしたらいいの?」


「ふむ。エルはどうしたい?」


「え、わたし?わたしは助けたいよ」


 目の前で人が死ぬのは、気分のいいものじゃないからね。


「なら、やってみるがいい。俺が誘導してやる」


 クロムはわたしを地面に降ろし、わたしの隣にしゃがみこんだ。


「でも、どうしたらいいかわからないよ。回復魔法で毒は消せないでしょ?」


「ああ。解毒魔法を使う。体内の毒を中和して無毒化しつつ、こいつの身体に毒に対する耐性をつける」


「わかった。やってみる」


 わたしは、ダートが抱えているジェームズの手に触れた。脈が速い。


 クロムが、わたしの背後から腕を伸ばしてわたしの手に自分の手を重ねた。重ねた手を通してクロムの魔力が流れ込んでくる。クロムの魔力は、そのままジェームズの身体を巡り始めた。


 わたしは、クロムの魔力に沿って自分の魔力をジェームズの身体に流した。


 ジェームズの身体の隅々まで魔力を流したところで、クロムの魔力が動きを見せた。これは、毒を中和しているのかな?


 わたしは、意識を集中させてクロムの魔力の動きに合わせた。数分そうしていて、ようやくクロムの魔力の動きに合わせられたと思ったとき、クロムの魔力がまた違う動きを見せた。今度は、ジェームズの全身に対して毒の耐性をつけているのだと思う。


 必死にクロムの動きに合わせる。同時にふたつの魔力操作をしているせいで、集中力が途切れそうになる。額に脂汗が浮いてくる。


 クロムがわたしのためにゆっくり作業してくれているのはわかるけど、それでもついていくので精一杯だよ。


 そうして数分が経ち、ジェームズの全身から毒の気配が消え身体が正常な状態に戻ったとき、ジェームズはそれまでの荒い呼吸から落ち着いた呼吸と顔色に戻った。


「なんと!?もう………苦しくない?」


「ジェームズ様、助かって良かったです!」


「そうだな、ダート。………いや、私のことなどよりお嬢様だ!」


 ジェームズはガバッと上半身を起こすと、わたしの手を握った。


「お願いします。お嬢様を助けてください!」


「ごめんなさい。そうしたいんだけど、いまはすぐはちょっと………」


「あっ………」


 ジェームズはぐったりしているわたしを見てハッとした顔をしたあと、わたしの手を静かに離した。


 わたしは汗をかいて息もあがっていて、とても疲れている。いますぐ魔法を行使するのは、遠慮したい。


 植物魔法は慣れているから、植物を操るだけなら大して考えることなく魔法を使えるけど、解毒魔法はそうじゃない。クロムに手伝ってもらって、時間をかけてようやくできたほど、わたしには難易度が高い魔法だ。


 いま無理をしてお嬢様を治そうとしても、失敗する未来しか見えない。


「申し訳ありません。私などより、お嬢様を優先してもらうべきでした」


 うん。気持ちはわかるけど、お嬢様は薬を与えられている。いまの段階では、緊急性が高いのはジェームズだったと思う。


「とりあえず、お嬢様を診せてもらっていいかな?」


「はい!よろしくお願いします」


 ジェームズが立ち上がり、馬車の扉を開けた。


 クロムがわたしを抱き上げると清浄魔法をかけてくれ、わたしは少しさっぱり舌気持ちで馬車の入口を覗き込んだ。


「うっ」


 馬車の中は薬の匂いと汗の臭いが充満し、ソファに横になった少女は荒い呼吸を繰り返しながら目だけを動かしてこちらをちらりと見た。


 少女の肌は紫色をしていて、医学の素人のわたしから見ても危険な状態に見える。


 少女は、たぶん15歳くらい。身体には布がかけられていて、どこが患部なのかわからない。


 その少女の横、馬車の床にひとりの女性がぐったりと座り込んでいた。馬車に乗り込んできたわたしとクロムを気丈にも睨みつけ、少女を守るように腕を広げた。


「大丈夫、怖がらないで。わたし達は敵じゃないよ」


「黙りなさい。お嬢様には指一本触れさせません!」


 おおっ。この女性も具合が悪いはずなのに、すごい意気込みだ。


「ナーレ!この少女は解毒がてきるのです!見なさい、私を治してくれましたよ」


 クロムの後ろからジェームズが顔を覗かせ、そう叫んだ。


「え?」


「このままでは、お嬢様さまは街までもちません。治療をしていただきます。あなたはそこをどきなさい」



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