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140 ディングリン商会の者

 向こうの御者がこちらに気づいて、大きく手を振った。


 こちらも大きく手を振り返すと、少しして馬車列が止まった。どうしたんだろう?


 不思議に思っていると、停止した馬車からひとりの男性が降りてきて、なぜかこちらへ向かって走って来た。


 息を切らせてやって来たのは20歳そこそこの男性で、全力疾走をしたのか、息を整えるまで少し時間がかかった。


「ハァ、ハァ。すみません、私はディングリン商会の者です。突然で申し訳ありませんが、熱さましをお持ちではないでしょうか?」


「え、熱さましですか?私が持っていますよ」


 そう答えたロゼリア妃に、男性は感謝の視線を向けた。


「本当ですか!?よかったぁー。これで、街に着くまでお嬢様の体力がもつといいのですが………」


「お嬢様?誰か、具合の悪い人がいるの?」


 わたしの問いかけに、男性は大きく頷いた。


「そうなんです。大事なお嬢様が、蛇に噛まれて熱を出していてね。すごく苦しんでいるんです」


「それは大変!毒消しはありますか?」


「あ、いえ。使える薬は、すべて使い切ってしまいました………」


「そうなの………」


 男性の返事に、ロゼリア妃も肩を落とした。


『ねえ、クロム。クロムだったら、蛇の毒も消すことができるよね?』


 わたしは念話でクロムに話しかけた。声に出して、男性に聞かれるのはよくないと思ったから。


『そうだな。おそらく、問題なく解毒できるだろう。それがどうした?』


『うん。お嬢様という人を助けてあげたいの。でも、ほら、まだ相手がどんな人かわからない状態だから、どうしたらいいか迷っていて………』


『そうだな。不用意に関わるべきではない』


『でしょ?いまは、ロゼリア妃達をルパーサの町まで送り届けるのが先だしね』


『だが、エルは助けたいのだろう?』


『うん………』


『では、会ってみてどうするか判断すればよい』


『そっか、そうする!』


 わたしとクロムが話し合っているうちに、ロゼリア妃はディングリン商会の男性に熱さましや毒消しを渡していた。男性はロゼリア妃にお礼を言って、去るところだった。


「お兄さん、待って。わたしね、回復魔法が使えるの。役に立てるかどうかわからないけれど、お嬢様に会わせてくれる?」


「え、その年で魔法が使えるんですか?しかも、回復魔法ですって!?」


 去りかけていた男性は慌てて戻って来て、わたしに深々と頭を下げた。


「どうか、私と一緒に来てください。お嬢様を助けてください」


「うん。すぐ準備するね」


 全員に敷物から降りてもらい、敷物の上に置いたままのお皿やカトラリーなどをまとめてマジックバッグにしまった。そのあとかまどと、枝で干していた布巾を収納して準備はおしまい。


 準備が終わり、馬車に向かって歩き出そうとしたところをクロムに捕まり、抱っこされた。


 大股で歩き出したクロムを先頭に、ロゼリア妃やリドリー王子、ハワード王子、そしてディングリン商会の男性とダフネが続いた。ロゼリア妃と男性は小走りで、ダフネもそれに合わせて小走りをしている。リドリー王子とハワード王子は一生懸命に走っている。


 途中でディングリン商会の男性がクロムを追い越し、3台並んだ馬車列の真ん中にある馬車へ向かった。その馬車は他の馬車より豪華で、大きく立派だった。


 真ん中の馬車の周囲には、護衛と思われる冒険者のような装備を身に着けた6人の男女と、ビシッとスーツを着込んだひとりの男性がいた。スーツ姿の男性は、さっきロゼリア妃が渡した薬を走って来た男性から受け取ると、「ご苦労だった」と言って馬車の中に入って行った。


 馬車の扉が閉められたところで、護衛が2人馬車の前に立った。大股でやって来たクロムを警戒しているようだ。そして、あとから走ってやって来るロゼリア妃やリドリー王子達を見て困惑している。


 そのとき、薬を運んだ男性が馬車に向かって声をかけた。


「ジェームズ様!こちらの少女が、回復魔法を使えるそうです。お嬢様の治療をお願いしてはどうでしょうか?」


 バンッ!


 勢いよく馬車の扉が開き、さっきのスーツ姿の男性が馬車から顔を出してわたし達を見回した。


「ん?少女というには年がいっているようだが、この際、それはどうでもいい。回復魔法を使えるというのは本当かね?」


 スーツ姿の男性………ジェームズの視線は、どう考えてもロゼリア妃に向いている。


 ロゼリア妃は申し訳なさそうに苦笑して、クロムの腕の中にいるわたしを指さした。


「回復魔法が使えるのは、このエルです」


「は?このお嬢さんが回復魔法を使えるというのですか?本当に?」


 ジェームズが驚きに目を見開き、わたしを見つめてきた。


 そのとき、ジェームズの右手の甲に傷があるのに気づいた。なにか、鋭い物でつけられたような傷に見える。それも、傷が塞がってそれほど時間が経っていない。


 ジェームズの身体の状態を調べるべく、魔力を自分の目に流した。すると、ジェームズの全身に異変があるのに気づいた。全身を巡る血管が、おかしな色をしている。………これは、毒?

評価、ブクマ、いいねをありがとうございます。

特にいいねがすごいですね(笑)

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