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14 街の冒険者

 不思議に思っていると、お姉さんは深いため息をついた。


「はあ〜、良かった。そんな質のいい服を着ているんだもの。お忍びの貴族様かと思っちゃったじゃないですか。貴族様に失礼な真似をしたら、何をされるかかわらないんだから………ブルブルッ。あー、びっくりした」


 よくわからないけれど、お姉さんは貴族様を恐れていて、クロムが貴族様かもしれないと思ったってことだね。質の良い服を着ているし、相席を知らないから、庶民の生活を知らない=貴族様って考えたのかもね。


 それからお姉さんは、先に4人が着いていたテーブルにわたし達を案内してくれた。


 ぱっと見た感じ、4人は冒険者に見える。男2人、女2人の4人組だ。男が剣士で、女が魔法使いかな。ヒト族が男女1人ずついて、獣人もまた男女1人ずついる。


「お客さん達、相席お願いします」


「ああいいよ」


 ヒト族の男がそう言うと、他の3人が頷いた。彼がリーダーなのかもしれない。


「じゃあお客さん、メニューは日替わり定食だけだから。お嬢ちゃんの分は少なめにして、2人前用意していい?」


「ああ」


 クロムが返事をすると、お姉さんは厨房に注文が入ったことを告げた。そして、お金を受け取ると他のお客さんの給仕に行ってしまった。


 わたしとクロムが席につくと、4人組の冒険者が話しかけてきた。


「同じテーブルに着いた縁だ。少しの間だが、仲良くしようぜ。俺はこのチームのリーダーで剣士のアレクだ」


「私はエレナ。魔法使いよ。こっちのソフィも魔法使いなの」


「………はじめまして」


「そして俺が剣士のドーザーだ。よろしくな」


 わたしの隣の席にいたドーザーが右手を差し出してきた。同じく手を差し出すと、握手してきた。ゴツゴツしてて、大きな手だった。


 アレクとエレナがヒト族、ソフィとドーザーが獣人だ。


「わたしはエル。こっちはクロムだよ」


「クロムだ」


 クロムに、愛想を振りまくつもりはないらしい。


「お兄さん達は冒険者なの?まだお昼なのに、冒険しないの?」


「ああ、俺達は冒険者だぜ。これでもCランクなんだ。すごいだろ?」


「う、うん」


 冒険者のランクなんて知らないから、Cランクと言われてもすごいのかどうかピンとこない。


「も〜、エルちゃんが困ってるじゃないの」


「いや、わりい」


 そう言って、アレクが頭を掻いた。


「あのね、エルちゃん。黒の森って知ってる?この街の近くにあって、こわーい魔物がいっぱいいるところ」


「うん。知ってるよ」


 というか、そこに住んでいるのだ。


「私達、黒の森に狩りに行ってたんだけど。今朝は森の浅い部分に魔物がいないのよ。しかも、魔物だけじゃなくて獣もいないの。だから仕方なく帰って来たってわけ」


「………あの風が吹いてから、魔物がいなくなった。風が原因」


 あ、それって、クロムが飛んできたときの風かな?


「まーだ言ってんのか。確かに強い風だったけどさ、風が吹いたくらいで魔物がいなくなるわけないだろ?」


「そうだぞ。ソフィの感知能力でも、風の中に何も見つけられなかったんだ。ただの風ってことだ。魔物がいなくなったのは、魔物の気まぐれじゃないか?」


 へぇ。感知能力か。それ、便利そうだね。どうやるんだろう?獣人ならではの能力があるのかな?


「で、クロムとエルは何してるんだ?見たところ、冒険者って感じじゃねえし、さっき小耳に挟んだ感じだと、貴族様でもないんだろ?だったら商人か?」


「俺とエルは、用事があって村からリングス商会を訪ねて来たのだ」


「へえ。リングス商会って、すぐ近くの商会だろ。俺達も冒険で世話になってるぜ。じゃあやっぱり、あんたは商人か?」


「いや、ただのクロムだ」


「ははっ。ただのクロムか。あんた、おもしろいな!」


「このあとはどうするんだ?」


「ご飯を食べたら、市場へ行っていっぱいお買い物をするの」


 クロムが聞かれたけれど、わたしが答えていた。


 ふふっ。楽しみすぎる。市場には何があるかな?美味しい物や珍しい物、便利な道具………なにがあるかな?


「エルちゃん可愛いわね。きっと、村にはない物がいっぱいあるわよ」


「そうだよね。楽しみ!」


 そこまで話したところで、わたしとクロムに料理が運ばれてきた。ゴロリとした肉が浮いたスープと、野菜炒めにパン。すでにアレク達が食べていた物と一緒だ。


 さっそくスープを口へ運ぶ。


「………………」


「どうした」


 スープは薄い塩味だった。肉は柔らかく煮込まれているものの、肉の味しかしない。一緒に煮込まれていた野菜はゴロゴロしていて食べごたえはあるけど、それだけだ。


 人生初めての食事がこんななんてショックだ。


「………美味しくない」


「そうか?食堂の料理なんてこんなもんだぜ」


 そう言って、アレクはパンを美味しそうにひとかじりした。


 見るからに硬そうなパンだ。でも、もしかしたら味はいいのかもしれない。


 そう思ってパンにかじりついた。


「………」


 噛めなかった。


 え、なにこれ。これがパンなの?こんなものを美味しそうに食べるアレク達って、顎の力どうなってるの?あ、スープに浸して食べるのね。なるほど………でも、硬くてちぎれないよ?

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