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136 影移動

 わたしが正面に向き直ると、ロゼリア妃が考え込むような顔をしてわたしを見つめていた。なんだろう?


「ロゼリア妃、どうしたの?」


「………ドラゴンにとって、給餌は求愛行動の一種と聞いたことがあります。お若く見えますが、エル様はクロム様のつがいなのでしょうか?」


「ええ?違うよ!わたしはクロムの魔素溜まりから生まれた、ただの魔物だよ。クロムとは父娘みたいなものだよ」


「そう、なのですか?ということは、エル様もドラゴンなのですか?」


 ロゼリア妃の瞳が、好奇心で輝いている。


 ロゼリア妃の横で正座しているリドリー王子とハワード王子も「ドラゴン」と聞いて目を輝かせている。


 うんうん。ドラゴンはかっこいいもんね!


「ううん。わたしは、生まれたときからこの姿なの。ドラゴンじゃないよ。それより、これからのことを話そうね」


「そうでした」


「この街を出る方法としては、大まかに言って、正面から堂々と出る方法と、認識阻害の結界を張ってこっそり出る方法、ダフネの影移動を使う方法がある」


 クロムの言葉に、ロゼリア妃が頷いた。


「徒歩や乗合馬車を使う方法は人目を引きますし、行き先を特定されやすいです。正面から出る方法はなしでしょう」


「次の認識阻害の結界だが、これは存在を隠すだけで、姿が消えてなくなるわけではない。追跡に長けている者なら、追ってくるのも難しくないだろう」


「それでは、3番目の案の影移動になりますね。息を止めていられる時間が限られるので、そう長い距離は移動できませんが。街の壁を越えてしまえば、暗闇に紛れて移動することはできるでしょう」


「じゃあさ、影移動で壁を越えて、外に出たら認識阻害の結界を張りながら飛んで移動するのはどう?」


「それもいいが、街を出てすぐでは、気づく者がいるかもしれんぞ」


「それじゃあ、どうするの?」


「ふむ。要は、長く影移動ができればいいのだ」


「それは無理です。子供達は、それほど長く息を止めていることができません」


「空気を通さない結界を張るから問題ない」


 空気を通さない結界?そんなものがあるの?


「結界内には空気が残る。大きめの結界を張り、十分に空気を確保した上で影移動をすればいい。万が一、移動途中で空気がなくなれば、そこで影移動をやめればいいことだ」


「クロムがそう言うなら、わたしは従うよ。クロムは、できないことをできるとは言わないもの」


「そう、ですね。私も、クロム様に従います。リドリーとハワードもいいですね?」


「うん!」


「僕は、お母さんの決断を信じている」


「あ、僕も!僕もお母さんを信じてる!」


 リドリー王子とハワード王子が微笑ましい。


「では、3時間ほど仮眠を取るがいい。夜更けに移動を開始する」


 クロムに言われ、ロゼリア妃達は隣の自室へと戻って行った。


 ダフネは部屋に残っている。わたし達が寝坊しないよう、時間になったら起こしてくれるんだって。


 わたしは早起きだけど、夜中に起きれる気がしなかったから助かった。


 わたし達の部屋はベッドが2つしかないので、ひとつのベッドをわたしとクロムが使い、もうひとつのベッドをダフネが使うことになった。


 クロムに浄化魔法をかけてもらってすっきりしてからベッドに横になり、やがて眠りに落ちた。


 ゆさゆさと揺さぶられて目が覚めると、先に起きたクロムが目に入ってきた。どうやら、ダフネではなくクロムがわたしを起こしてくれたらしい。


 ところで、ダフネはどこ?


 室内を見回しても、ダフネの姿はなかった。


 そのとき、静かに扉が開いてロゼリア妃が姿を現した。眠そうなリドリー王子とハワード王子を連れている。最後にダフネが入ってきて、扉の前に陣取った。まるで、外を警戒しているようだ。


「予定より早いが、出発することにした。準備はいいか」


「なにかあったのですか?」


 ダフネの様子を見て心配になったのか、ロゼリア妃が聞いてきた。


「宿を囲まれている。武装した人間が20人だ。間もなく踏み込んでくるぞ」


 それを聞いて、リドリー王子は表情を引き締め、ハワード王子は怯えた表情になった。


「わかりました。いいですか、リドリー、ハワード。ダフネと手を繋いで、影の世界に入ったら決して手を離してはいけませんよ」


 ロゼリア妃がそう言うと、ダフネは扉から離れてこちらにやって来た。リドリー王子とハワード王子は、それぞれダフネと手を繋いだ。そしてロゼリア妃はハワード王子と手を繋いだので、わたしを抱き上げたクロムはリドリー王子と手を繋いだ。


 クロムが結界を張ると、すぐにダフネが影移動を開始した。わたし達の身体が、結界ごと影に飲み込まれる。


 その直後、武器を手にした男達が部屋に雪崩込んできた。だけど、影の世界にいるわたし達に触れることはできない。


「誰もいないぞ!?逃げられたか!」


「いや、まだベッドが温かい。近くにいるはずだ。探せ!」


 ベッドに触れた男がそう言った。


「抵抗するなら、殺してもかまわん。フラヴン伯爵は、死体でもかまわんと仰せだからな」


 殺してもいいだなんて、物騒な話だね。



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