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135 クロムの正体

 それから、用心しながら食事を進めたけれど、どれもそれなりに食べられる味だった。アルトーの街で食べた「お腹を満たせれば、それで十分!」と言わんばかりの料理に比べれば、はるかに手が込んでいる。


 だけど、わたしやユルド達が作る料理に慣れてしまったクロムには不満だったらしく、微妙な顔をしている。


 ロゼリア妃や王子達から特に不満の声が上がらないのは、王宮でも同じような料理を食べていたということ?


 う〜ん。ハノーヴァー国の食文化のレベルは低いみたいだね。


 食事を終えると、それぞれが上の階にある自分達の部屋へ向かった。


 部屋に行くということは宿に泊まるということで、普通に考えれば、翌朝も会えるということになる。だから、アレク達と特に別れの言葉を言うことなく別れた。


 ダフネは、3階に2部屋確保していた。料金はすでに支払い済で、今夜、わたし達が消えたとしてもお金の面で迷惑をかけることはない。


 だけど、突然、客が消えたら混乱するだろうと思うので、宿に対して手紙を残すつもり。紙はもったいないから、使うのは木札だけど。


 いまはひとつの部屋に集まり、これからどうするのか相談するところ。


 ベッドに腰掛けたわたしの隣に、当然のようにリドリー王子とハワード王子が座り、ニコニコと嬉しそうに笑っている。クロムとロゼリア妃は椅子に座り、ダフネだけが立っている。


「防音の結界を張りました。安心してお話しください」


「ありがとう、ダフネ。早速ですが、フラヴンの街を脱出する方法について話し合いましょう」


「そうだな。………俺達は目立ちすぎるようだ。歩いて街を出ると、目撃者が多くなりすぎる。情報が王宮に届くのは時間の問題だぞ」


 クロムもロゼリア妃も、顔がよすぎるんだよね〜。すぐに人の注目を集めちゃうんだよ。


「ええ。このままでは、すぐに捕まるでしょう。クロム様はわたし達の護衛として来ていただいたと聞きましたが、正直に言って、こんなに目立つ方だとは思いませんでした。迷惑です」


 おお、はっきり言う人だな。


 でも、元々、来る気のなかったクロムが責められるのは嫌だ。


「わたしが来たいと言ったの」


 わたしがそう言うと、ロゼリア妃は咎めるような視線を向けてきた。


「エル様、これはただの観光旅行ではないのですよ。危険と隣り合わせの旅なのです」


「だが、おまえ達だけではフラヴンの街を出ることも適わないだろう」


 ロゼリア妃も目立つからね。宿の前で立っている間に、どれほど注目を集めたかわからない。


「街を出るだけなら、ダフネの影移動があります」


「そのあとはどうする。幼子ふたりを抱えて、徒歩で移動するのか?魔物や盗賊に襲われたらどうする」


「お母さんは強いんだぞ!魔物や盗賊ナンかに負けるもんか!」


 ハワード王子がロゼリア妃に加勢しようとして口を開いた。


「敵が20、30、といても同じことが言えるか?」


「それは………」


 ハワードは口ごもって、悔しそうに唇を噛んだ。


「あのね、ロゼリア妃。クロムとわたしは、あなた達の助けになるよ。そのために来たんだから」


 わたしがニッコリ笑って言うと、ロゼリア妃は困った顔をした。


「ですが、いくら強いと言っても田舎の村を治めている小領主なのでしょう?そのような方に、なにができるというのですか」


 ん?小領主?まあ、そう言えないこともないけど………。


「もしかして、クロムが何者か聞いてないの?」


「え?ガンフィ様にゆかりのある地の小領主様で、部下を派遣してくださったとしか………」


「違うよ!もう、ディエゴはテキトーな説明して………」


「ええ?」


「クロムはね、黒の森の主アムナートだよ」


「「「まさか!」」」


 ロゼリア妃とリドリー王子、ハワード王子が同時に叫んだ。


 確認するようにロゼリア妃がダフネを見ると、彼女はしっかりと頷いた。


「エル様のおっしゃる通りです」


「そんな………なんてこと」


 ロゼリア妃は椅子から立ち上がると、クロムの前の床にひれ伏した。


「ご無礼申し上げました。大変、申し訳ございません!」


 母親の姿を見た兄弟は、慌てて母親にならった。つまり、床にひれ伏した。


「………それでは話がしにくい。顔を上げろ」


「「「はい!」」」


「エル、こちらへ」


「うん」


 クロムに呼ばれて行くと、クロムの膝に抱きかかえられた。


 ロゼリア妃達が床に正座しているので、上から見下ろす感じになって落ち着かない気分になる。


 気分を変えようと、わたしはマジックバッグからアーモンドクッキーの入った袋をひとつ取り出した。


 クッキーに気づいたクロムが少し顔を下げたので、その口にクッキーをひとつ入れてあげた。そのとたん、クロムの顔がほころぶ。


「美味いな。いくらでも食べられそうだ」


 クロムがあまりにも嬉しそうな顔をするので、次々にクッキーをクロムの口に放り込んだ。気づけば、袋の中は空になっていた。


 わたしも食べたかったし、リドリー王子とハワード王子も欲しそうにしていたけれど、クロムの機嫌がよさそうだからよしとしよう。



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