134 皆で食事
あれ、ない………?そういえば、屋敷の玄関ホールにあったシャンデリアや、廊下の明かり、各部屋の明かりはどうしていたっけ?家だった頃はロウソクを灯すか、ヒカリゴケの明かりで過ごしていたけれど、屋敷になって明かりは変わった。
でも、シャンデリアはともかく、屋敷にある明かりの魔道具はあんなに大きくなかった。もっと小さかったよ?
「ううん。村にもあるよ。最近、設置したの」
「そっか。じゃあ、なにが不思議なんだ?」
「あの魔道具の大きさが………」
「あ、そっか。小さくてびっくりしたんだね?」
「え?」
小さい?あれが?天井にデーン!とぶら下がっているあれが、小さい?あの存在感で小さいの?
うん。まあ、リドリー王子が言うならそうなんだろうと思う。彼が、わたしに嘘をつく理由がないし。
屋敷のほうを整備したのはディエゴ達ゴーレムだし。屋敷に使われている技術が、現代では普通ではないのだろう。
村に帰ったら、ディエゴ達にいまの普通について教えてあげよう。そうしないと、ディエゴ達が自重してくれないと、あの村は飛び抜けて発展した村になってしまう。それはよくない。
村人が他の村や町へ出かけたときに、よその常識についていけなくて困る可能性があるし、逆の場合だってある。
「エルは魔道具が珍しいの?僕も持ってるよ。見せてあげる」
そう言うが早いか、ハワード王子は自分の腰のポーチからランタンを取り出した。明らかに、ポーチには入らない大きさのランタンだ。つまり、ハワード王子はマジックバッグを持っているということ。
ハワード王子は6歳。この年の子供がマジックバッグという高級品を持っていることも、さらには魔道具を持っていたということも驚きだった。
正面でそれを見ていたアレクもぎょっとしている。
だって、こんなこと、平民ではありえない。豪商だとしても、おかしい。
貴重な品を持っているということは、それだけで狙われる理由になる。だから、たとえ豪商の子だとしても、人前では見せないように口を酸っぱくして言われるはずなの。
それが、ハワード王子はまるで警戒心がない。
危険だ。
すかさずロゼリア妃がハワードに注意した。言われたハワード王子は「ごめんなさい」と謝ったものの、どこか納得していないように見える。まだ6歳だし仕方ないのかな。
そのわりに、ひとつ上のリドリー王子は焦っているのを必死に取り繕っているように見える。動揺してはならないと、自分に言い聞かせているようだ。
確かに、ここで変に動揺したら目立ってしまう。それは避けたい。
ハワード王子はしょんぼりしながら、出したランタンを再びマジックバッグへしまった。
ランタンを出したままにしておくわけにもいかないので、それは仕方ない。
わたしがランタンを預かったりしたら、他にもマジックバッグがあることが知られてしまうからね。
『クロム様、エル様。ハワード様がマジックバッグを使用したところを3名に見られました』
ふいに、ダフネから念話がきた。
『その連中の様子を注意して見ておけ』
なんでもない顔をして、クロムも念話を返した。
『かしこまりました』
うん。見張っておく以外に、いまできることはないもんね。
そういえば。
『ダフネ。食事のあとはどうするの?』
『すぐにフラヴンの街を発つ予定でしたが、いま出ては追手がつくでしょう。宿に泊まり、夜が更けてから抜け出すべきかと思います』
『いまから部屋が確保できるのか?』
『ご心配なく。念の為、部屋は押さえてあります』
『わかった』
『わかったよ』
返事をしたところで、料理が次々と運ばれて来た。どれも湯気を立てて、いい匂いをさせている。これは期待できそうだ。
「エル、なにから食べる?」
「エル、これ美味しいよ!」
リドリー王子とハワード王子が甲斐甲斐しくわたしの世話を焼こうとしてくる。ありがたいけれど、わたしは食事はゆっくりしたい。
とりあえず、カゴに山盛りになっていた黒パンを手に取った。そして後悔した。これ、硬いやつだ。
う〜ん。困った。手に取った以上は食べたいけど、これは噛みちぎれる気がしない。
………そうだ!ナイフで薄くスライスすればいいんじゃない?
わたしは腰のナイフを抜くと、黒パンを薄くスライスした。そして、そのあまりの手応えのなさに驚いた。桶に溜めた水に手を突っ込んだくらい手応えがなかった。このナイフ、切れ味がよすぎるよ!
ディエゴ、自重を忘れたのかな?
この分だと、クロムの剣もすごい切れ味なんだろうなぁ。
「エル、パンを切るの上手だね。切ったあとがきれいだよ。僕のもお願いしていい?」
「僕も僕も!エルが切ったパンが食べたい!」
というわけで、リドリー王子とハワード王子の分もパンをスライスしてあげた。
「ありがとう。食べやすいよ」
「エル、ありがとう」
兄弟はお礼を言って、スライスしたパンをちぎって食べた。
わたしもスライスしたパンをちぎって口に入れた。硬くてモソモソしていて、口の中の水分を持っていかれる。慌ててスープを口にした。
スープは塩が効いていて、素材からいい出汁が出ていて美味しかった。