133 ロゼリア妃達と合流
ふと、マントを羽織った女性と目が合った。
『こちらにいらっしゃる方がロゼリア妃とリドリー様、ハワード様です』
また、頭の中に声が響いた。
これは………彼女、ダフネが念話を使っているの?
『そうか。旅の間は、ローゼ、リック、ハックと名乗るように』
今度の声はクロムだ。クロムは念話をダフネ以外の3人にも飛ばしたらしく、ロゼリア妃達は揃ってクロムを見つめてきた。
ロゼリア妃達の視線はクロムに集中したあと、クロムの腕の中にいるわたしに移った。なぜか、3人揃って嬉しそうなに笑顔になった。
「ローゼ、リック、ハック、会いたかったぞ」
クロムは声をかけながらダフネを含む4人に向かって歩き、途中でわたしを下に降ろした。
わたしはロゼリア妃に駆け寄り、ひしっと抱きついた。
「お母さん、お兄ちゃん達、会いたかったよ!」
ロゼリア妃はしゃがんでわたしを抱きとめてくれて、後ろからリドリー王子とハワード王子がわたしに抱きついてきた。
なぜか、本当に喜んでいるようだ。男兄弟だから、女の子が珍しいのかな?
少し遅れてやって来たクロムが、わたし達の頭を優しく撫でた。嬉しい。
その様子を見ていた人達は、残念そうな様子で去って行った。
「あ〜あ、あれは勝てないわ。あの女、いい男捕まえたわね」
「悔しい!私は諦めないんだから!」
「アナベル、あれは、あんたじゃ太刀打ちできないわよ」
冒険者ギルドからついて来た女性達も、渋々、去って行った。
騒がしい人達がいなくなったところで、ようやくわたし達も離れた。
ロゼリア妃達3人が、実に残念そうなのが本当に不思議。
「クロム、ずいぶん綺麗な奥さんがいたんだな」
「子供達も可愛い!」
ドーザーとソフィが近づいて来て、わたし達は揃って頭を下げた。
「またうるさくなっても面倒だ。ローゼ、中に入るぞ」
「そうね、クロム」
クロムが声をかけると、ロゼリア妃がニコリと笑って同意した。あまりにも自然な笑顔だったので驚いた。
王族は民に笑顔を振りまくことに慣れているから、それで笑顔も得意なのかな?
「エル、一緒に行こう。ここの料理は美味いぞ」
リドリー王子がわたしの手を取り、森猫亭の中へ行こうと引っ張った。
「あ、リックだけずるい!僕もエルと手を繫ぐ!」
ハワード王子がすかさずわたしの反対の手を掴んだ。
わたしは、ふたりの王子に手を取られて森猫亭に入った。
そのあとをクロムとロゼリア妃が追いかけて来て、次にドーザーとソフィが続き、最後にダフネが入って来た。
広いホールにはテーブルと椅子が置かれていて、大勢の客で賑わっていた。
「おーい!ドーザー、ソフィ、こっちだ!」
声をかけてきたのはアレクだった。エレナも同じテーブルについている。
大きいテーブルで、わたし達全員が一度に食事できそう。
まあ、肝心の料理がまずかったら食べられないんだけど………。
わたしが席につくと、その左右にリドリー王子とハワード王子が座り、わたし達を挟むようにクロムとロゼリア妃が座った。向かいの席には、すでに座っていたアレクとエレナの他、ドーザーとソフィ、そしてダフネが座った。
「初めまして、な人がいるな。ここは、自己紹介しようか?」
「ええ、いいですよ」
アレクが全員に向かって問いかけ、ロゼリア妃が同意した。
「では、まずは俺から。俺はアレク。エレナ、ドーザー、ソフィの4人でパーティーを組んでる。一応、俺がリーダーを任されてる」
「そうですか。私はローゼ。クロムの妻です。この子達は私達の子で、右からリック、エル、ハックです。それと、その子は護衛に雇ったダフネです」
ロゼリア妃の話し方は平民の話し方で、それなのにとても自然に話していた。とても王太子妃の立場にいる人の話し方とは思えない。
この人、ただの貴族じゃないの?
「じゃあ、紹介も済んだことだし、料理を頼もうか」
ドーザーがそう言うと、リドリー王子とハワード王子が目を輝かせた。お腹を空かせていたのかもしれない。
料理はアレク達と、リドリー王子、ハワード王子が色々と選んで注文した。
ここの食堂は、アルトーの街の食堂と違って色んなメニューがあったんだよね。たとえば、野菜炒めとか、ホーンラビットのステーキとか、オークの煮込みとか、スープとか。
ふと店内を見回すと、天井に備え付けられた明かりの魔道具が気になった。店内は魔道具の明かりに照らされ、昼間のように、とまではいかないけれど、十分な明るさがあった。
あの魔道具、どういう仕組みになっているんだろう?どうやって動いてるのかな?エネルギーはなに?明かりは、どうやってつけたり消したりするの?
「エル、どうしたの?なにを見てるの?」
じっと天井を見上げていたら、リドリー王子が聞いてきた。
リドリー王子も不思議だな。王子様って、たぶん、こんな話し方しないよね?
「エル?」
「あ、えと、あれを見ていたの」
「明かりの魔道具?もしかして、エルは魔道具を見るのは初めて?」
「うん」
「そっか。まだ、村にはないんだね」
「うん?」