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130 フラヴンの街に着いた

「ありがとうございます!」


 小金貨を受け取ったハイーロはいい笑顔で笑った。あまりにいい笑顔なので、疑惑が湧いてくる。もしかして、ぼったくられた?


「あ、その顔!僕はぼったくりなんてしてませんからね!その手袋は、本当なら小金貨2枚、銀貨8枚で売れる物なんですよ!」


 わたしの考えを読んだハイーロに怒られてしまった。


 銀貨8枚分も値引きしてくれたとしたら、悪いことしたな。


「ごめんなさい」


「いいんですよ。信じられる相手かどうか疑うのはいいことですからね。でも、ぼったくりなんてしませんからね、そこは信用していただいてけっこうです」


「うん。リングス商会にはお世話になってるから、もちろん信用してるよ」


「あ、以前にも取り引きしていただいたことがあるんですか?」


「うん。ルオーにはお世話になってるよ」


「え、ルオー会頭と直接取り引きしたんですか!?会頭が直接取り引きをするなんて、あなた方は何者なんです?」


「え?」


 しまった。それを聞かれると困る。まさか「魔物です」と正直に言うわけにもいかないし、堂々と名乗れる身分や職業があるわけでもない。


「俺達は農民だ」


「「「はあっ!?」」」


 しれっと言い切ったクロムに、ハイーロ達は驚きの声を上げた。


「どこが農民ですか!どう見ても貴族が豪商でしょうに!嘘をつくにしても、下手すぎます!」


「格好は剣士みたいだけど、身のこなしが上品過ぎるのよ」


「わざと庶民の格好をして、身分を誤魔化しているみたいだぞ」


 あ、バレてる。


 クロムの顔を見上げると、澄ました顔をしていた。


「畑をやっている者を農民と言うのではないか?」


「それはそうですけど、どう見ても畑仕事なんてしている身体じゃないですよね!?」


「肌なんか、私より綺麗よ!」


「農民は、そんな話し方はしないんだよ!」


 一斉にツッコまれた。

 

「だが、野菜と果物を育ててルオーに売っているのは事実だ」


「そうだね。育てて売ってるね」


 ほとんどの仕事はギベルシェンがやってくれているけど、村で野菜と果物を育てて売っている。


「はははっ。なにを冗談を言って………って、まさか、冗談ではない?」


 笑い出したハイーロだけど、クロムとわたしが真面目な顔をしているので冗談ではないと気づいたようだ。


「………そうか。さっき、ルオー会頭と取り引きをしているとおっしゃっていましたよね?まさか、あなた方が、最近アルトーの街に出回るようになった希少な野菜と果物を育てているんですか?」


「うん?なんのことかわからないけど、野菜と果物を育てて売っているよ。ほら、これ」


 わたしはマジックバッグからキャベツを1個取り出し、ハイーロに差し出した。


 渡したのは高濃度の魔素が含まれたキャベツじゃなく、普通に育てたキャベツだよ。


 キャベツを受け取ると、ハイーロは上から下からキャベツを眺め回した。

 

「ふむふむ。色といい、ツヤといい素晴らしい。なにより、内包された魔素が濃い!噂には聞いていましたが、これほどとは思いませんでした。このキャベツ、売っていただけませんか?」


「いいよ。いっぱいあるからあげるよ」


「それはいけません。銀貨2枚お支払いいたします」


 そう言って、ハイーロはわたしの手に銀貨を握らせた。


 受け取ってしまったので返すこともできず、銀貨はマジックバッグにしまった。


 それにしても。キャベツ1個に銀貨なんて払い過ぎじゃないかな?ハイーロがキャベツを恍惚とした表情で見つめているからいいのかな………。


 ドーザーとソフィは、ハイーロの様子に若干引いていた。


 ドンドン!

 

 突然、馬車の壁を叩く音がして身体が跳ねた。


「おーい!フラヴンの街に着いたぞ!」


 アレクの声だった。


 窓の外を見ると、馬車は街へ入るための列の後ろに並んだところだった。


「………街の入り口で、街へ来た目的や職業を聞かれるわよ。どうするの。農民だなんて言っても信じてもらえないわよ」


「信じられなかろうが、農民だ」


 なおも農民を主張するクロムに、ソフィは苦笑した。


「それはわかったが、この場は俺達に任せてもらえないか?」


「どうする?」


「俺達と一緒にハイーロさんの護衛任務を受けたことにする」


「ドーザー、それは大丈夫なの?」


「ああ。今回限りのパーティーを組んだことにすればいい。クロム、あんたは剣士を名乗るんだ」


 へえ。今回限りのパーティーか。うまく街に入れるといいけど。


「でも、クロムは冒険者ギルドに登録してないよ?」


「そうか。なら、フラヴンの街で登録するといい。旅をするなら、身分証はあったほうがいいぞ」


「そういうものか」


 そういうわけで、フラヴンの街の入口ではドーザー達の協力があり、簡単に街に入ることが許された。


「この後はどうするんだ?」


 アレクが、馬車置き場へ向かうエレナを見送りながら聞いてきた。


「えーと、森猫亭って知ってる?そこで夕食を食べるつもりなの」


「森猫亭か!知ってるぜ。あそこの料理は美味いんだ。フラヴンの街での、俺達の定宿だぜ」


「………へえ、そうなんだ」


 アルトーの街でも美味しそうに料理を食べていたアレクだから、彼の「美味い」は信用ならない。



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