127 贈り物
「………きれい」
思わず呟いたとき、ナイフの刀身がぶるりと震えた気がした。でも、きっと気のせいだよね。刀身が震えるわけがないよ。
魔力を流すのをやめると、刀身は元の鉄色に戻った。それを、腰の鞘に戻す。
それから、ユルドの説明を受けながら大量の荷物をわたしとクロムで手分けしてしまっていった。
食器やカラトリー類、調理器具に大量の食材、調味料、そして調理済の料理やお菓子などがわたしのマジックバッグへしまわれた。
食事は大切だよね。ユルドがしっかり準備してくれてから、旅の途中は食事に苦労せずにすみそうだよ。ありがたい。
美味しい食事に慣れたわたしには、ハノーヴァー国で食べられている食事は辛すぎる。まずいんだもん!
ベクランタ国へ行ったら、もう少し美味しい食事が食べられるのかな?だとしたら、ルパーサの港町へ行くのが楽しみだよ。
着替えて、ユルド達が準備してくれた荷物を持って、これで準備万端!
………ん?いやいや、ちょっと待って。なにか忘れているような………そうだ!畑!
「大変!わたしがいないと畑の作物が育てられないよね!?また村人がお腹を空かせちゃうよ。どうしよう………」
「そのことなら、ご心配いりません。エル様ほどではありませんが、サシャが植物魔法を使えます。それに、ここは黒の森。森の恵みが豊富にあるのですよ?飢えることはありえません」
「でも、森には魔物がいるでしょう?襲われないかな?」
「村人には騎士とメイドが付き添いますので、十分、対処可能です。魔物など、狩って食料と素材に変えて差し上げます」
「そう?無茶はしないでね」
ユルド達なら大丈夫だと思うんだけど、なんだか心配なんだよね。
「お気遣いありがとうございます。この村のことは私共に任せて、エル様は外の世界を楽しんで来てくださいませ」
「うん。ありがとう」
そうだよね。村の外へ出るなんてなかなかないことなんだから、この機会を楽しまなくちゃもったいない。
そのとき、ノックの音がしてディエゴが談話室に入って来た。ガンフィの顔じゃなくて、前に見た金髪のイケオジの顔をしている。仕事のできる男!という雰囲気を醸し出していてかっこいい。
そんなディエゴと入れ違いに、仕事を終えたメイドと騎士達が衝立を持って談話室から出て行った。部屋の中が、急に広くなる。
談話室に残ったのは、わたしとクロム、ディエゴ、ユルドだ。
「クロム様、エル様。お支度は整いましたか?」
「ああ、準備できたぞ」
「それでは、早速ですがフラヴンの街へ向かってください。今夜、フラヴンの街の森猫亭に立ち寄ると、ダフネから連絡がありました」
「その言い方だと、森猫亭には泊まらないの?それに、どうやってダフネと連絡をとったの?」
「宿は、別のところを考えているようですよ。それから、ダフネとの連絡方法は念話です」
「すごいなぁ。わたしが念話を使うとしたら、相手が目の前にいないと使えないの。でも、ディエゴは遠く離れたダフネと念話で会話ができるんだね!」
わたしが「すごい!すごい!」とはしゃいでいると、クロムが「俺だってそれくらいできる」と対抗意識を燃やしてきた。こういうところは子供みたいだよね。可愛いな。
そっとクロムの手を握ってあげると、クロムは少し落ち着いたみたいだった。
くすくす笑っていると、ディエゴはわたしの前でしゃがんで目線を合わせてきた。なんだろう?
「エル様、その腰にあるナイフは、私からの贈り物です」
「あ、これが前に話してたナイフなの?」
「そうです。いまはまだ生まれたてですが、私共と同じく、意思を宿しております」
「!!」
それって、ディエゴ達みたいに話せるってこと!?
「魔力を与え、話しかけ、うまく育ててください。そうすれば、エル様のお役に立つでしょう」
「ディエゴ、少しエルを甘やかし過ぎナノではないか?初めての武器に、魔剣など………」
魔剣!これって、魔剣なんだ!
「とんでもございません。魔剣を育てるには、早ければ早いほうがよろしいでしょう。なにより、エル様が身を守る術は多いに越したことはございませんので」
「それもそうか」
え、それで納得するの?わたし、魔剣持っていていいの?
「それで、俺の魔剣だが………」
「エル様の魔剣と同じく、まだ幼い状態故、扱いにはくれぐれもご注意を。いまはただの鉄の剣と同じです。力任せに振るえば折れます」
「わかった」
そうなんだ。鉄の剣と同じ。ということは、わたしの魔剣は鉄のナイフということだね。
「おふたりには、旅の間にダフネから武器の扱いを学んでいただきます」
「ディエゴが教えてくれるんじゃないの?」
「帰っていらしたら、私が指導してさしあげますよ」
「うん!」
楽しみだなぁ。ディエゴはなにをさせても完璧だから、武器の扱いも完璧にできるんだろうなぁ。基礎からやるんだよね?優しく教えてくれるのかな?それとも、完璧主義っぽいから、スパルタだったらどうしよう………わたし、厳しいのは耐えられないかもしれない。