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124 報告

 クロムの髪はサラサラしていて、手触りがいい。まるで、品質のいい絹を触っているみたい。


 絹と言えば、かいこが吐く糸からできているんだよね。さらりとして肌触りがよくて、保湿力もある。見た目もいい。でもあれ、管理が大変なんだよね。


 クロムが普段、着ている服は絹に見えるけれど、実際は魔力で生み出した物だから、丈夫で汚れず、管理も簡単。一度覚えてしまえば、出すのも、消すのも一瞬でできるんだよ。本当、魔法て便利。


 ………って、考えが逸れてたよ。


 なんでわたしがクロムの頭を撫でているかと言えば、クロムを甘やかすため。たしかにクロムは喜んでいるようだけど、これは、甘やかしていると言えるのか疑問だ。


 それに、飽きてきた。


 わたしがクロムの頭を離し、撫でるのを止めると、クロムは顔を上げて不満そうにため息をついた。子供みたいだ。


「今度は、髪を結んであげるね」


「ああ、それはいい」


 クロムがベッドの縁に腰掛けたので、わたしはクロムの背後に回ってマジックバッグからブラシを取り出した。丁寧に、優しく髪にブラシをかける。


 それから左右の髪を細い編み込みにして、青いリボンを取り出し、頭の後ろでひとつに結んだ。うん。リボンがあると、おしゃれな気がする。わたしより、美しいクロムにリボンはよく似合う。


「うん。これでいいよ」


「ありがとう、エル。少し待っていろ。着替えて来る」


 クロムはクローゼットへ歩いて行き、すぐに戻って来た。それはそうだよね。寝間着を脱いで、魔力の服を脱ぐだけなんだから。


 わたしが抱っこをせがむように両手を広げると、クロムは嬉しそうに顔をほころばせた。


 そのままわたしを抱き上げると、クロムは軽い足取りで寝室を出た。


 食堂へ向かうのかと思ったら、向かったのは談話室だった。


「朝食の時間は過ぎているからな。それに、ディエゴが戻って来ている。話を聞くぞ」


 ということだった。


 ディエゴが戻って来ているなんて、聞いてないよ!知っていたら、のんびりクロムの髪をいじったりしなかったのに!


 やっぱり、魔力探知を覚えよう。


 談話室の前にはメイドがひとり立っていて、両手が塞がっているクロムの代わりに扉を開けてくれた。


 部屋の中には、ガンフィと、騎士に付き添われたラーシュ、そしてディエゴがいた。


 ひとり掛けのソファに座ったラーシュは身体をロープで縛られていて、背後に騎士が立ってその挙動を見張っていた。


 いくら縛っているといっても、ラーシュは敵か味方かはっきりしていないのに、ディエゴの話を聞かせてもいいのかな?


 ガンフィはラーシュの隣のソファに座っていて、ディエゴはラーシュの反対側に立っている。


 クロムはソファに腰掛けると、わたしを自分の膝の上に降ろした。腰に手を回されてがっちり掴まれているので、わたしは身動きがとれない。


 頭だけ動かして、ガンフィ、ラーシュ、ディエゴを見回した。


 ディエゴはまだガンフィに化けていて、昨日、見たときの執事服とは違い、騎士のような銀色に輝く鎧を身に着けている。この格好で王宮に潜入して来たのかな。


「それでは、皆様お揃いになりましたのでご報告いたします」


 ガンフィが期待に満ちた表情で頷いた。


「結論から申し上げますと、ロゼリア妃とリドリー王子、ハワード王子は無事に離宮より連れ出すことに成功いたしました」


 2番目の王子は、ハワードという名前なんだね。


 ガンフィとラーシュが、揃ってホッとした顔をした。


「只今、王都を離れ、ダフネの案内でハノーヴァー国側の港町ダンティーガを目指して移動中でございます。お三方には平民の服を着替えていただき、裕福な商家の者を装わせていますが、何分、王族ですから。立ち居振る舞いで、見破られる可能性があります」


 それはそうだね。じゃあ、2人だけじゃなくて、もうひとり、子供が混じったらどうなるだろう?大人が一緒だったら護衛に見られるかもしれないけど、わたしがいたら、追手に混乱を与えられるかもしれない。


 たしか、力を持つ人物、組織は、情報のやり取りができる水晶を持っているんだよね?ダンディーガにも、ロゼリア妃達の情報が届いていないとは限らない。少しでも、相手が持っている情報の裏をかくようにしないと逃げ切れない。


「ディエゴ、わたしが行くよ」


「だめだ」


 せっかく手を上げたのに、クロムに即座に止められた。でも、ここは譲れない。ロゼリア妃達が、逃げ切れるどうかの瀬戸際なのだから。


「わたしが心配なら、クロムも一緒に行こう?」


「いや、俺は………」


「観光旅行だと思えばいいよ。偶然、向かう方向が一緒の家族がいたから、一緒に行動するだけ。ね?」


「………わかった」


「ありがとうございます!」


 ガンフィが立ち上がり、ガバッと頭を下げた。


「クロム様が行ってくださるなら、ロゼリア達は安泰です。どうぞ、よろしくお願いいたします」


「ふん」


 クロムは面白くなさそうに鼻を鳴らした。




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