118 誰が命令を下したか?
「第1に、ベクランタ国は王子をミルドレッドに殺されたと考えているので、ミルドレッドに対して悪感情を抱いています。ミルドレッドのためになることはしないでしょう」
まさかの王子殺し疑惑!そりゃあ、ミルドレッドはベクランタ国から嫌われるよね。
「第2に、ルパーサは貿易の町です。人の出入りが激しく、お三方が紛れることは容易でしょう」
そうは言っても、王太子妃と王子達が庶民の町に紛れるなんて難しいんじゃないかな?立ち居振る舞いが上品すぎて、すぐにバレそう。
「第3に、ルパーサの町の領主レウリコ・ルパーサは、ガンフィ様の伯父にあたります。情報ギルド『月影』を通じ、すでに協力を取り付けております」
「え?レウリコ伯父は、生きていたのか?」
ガンフィの目が点になっている。
………で、レウリコ伯父って誰?
「ガノンドロフ殿下。レウリコ・ルパーサ子爵をご存じで?」
ラーシュがガンフィへ問いかけた。ラーシュは驚きというより、戸惑いのほうが大きいみたい。どう反応していいか困っているように見える。
「そうだな。レウリコ伯父は、所謂、私生児で。我が母メリッサの父フォンセ(私から見て祖父だな)と使用人の間に生まれたのだ。祖父フォンセはレウリコ伯父も我が子として育てるつもりだったようだが、使用人はレウリコ伯父が私生児として生きていくのが忍びないとして、連れ去ってしまったのだ。それ以来、レウリコ伯父は行方知れずとなっている」
ええと。私生児って、奥さん以外の人との間にできた子供じゃなかったかな。
「そうか………生きていたのか」
しみじみと呟いたガンフィだけど、いまのは、色々、問題発言があったように思う。
奥さん以外の、しかも使用人に手を出したフォンセは問題だし、子供の将来を悲観したとは言え、母親による子供の連れ去りも問題だ。
ガンフィのお母さんメリッサは、王の側妃なんだよね?そんな立場になれる女性なら、たぶん後ろ盾になる実家も権力がある家柄だと思う。最低でも伯爵、でなければ侯爵か公爵という可能性もある。
そういう地位にいるフォンセが、愛人に子供を連れ去られ、子供ともども行方知れずのまま放置するなんて考えられない。
せっかく権力と財力があるんだから、子供を探させるはずだよ。
「祖父フォンセ・アーバンゼーテ侯爵は、レウリコ伯父を見つけていたのだろうか?」
おお、侯爵か!娘を王の側妃にした手腕を活かして、きっとレウリコを見つけていたと思うよ!
「ええ。見つけて、密かに援助していたそうです」
え、なんで堂々と援助しなかったの?息子と認めることはできなかったの?
「そうですか。祖父フォンセは、恐妻家なのです。おそらく祖母の機嫌を損ねることを恐れて、表立った援助はできなかったのでしょうね」
ガンフィはひとり納得したようで、ウンウンと頷いている。
「しかし、レウリコ伯父が妻子を匿ってくれるとはありがたい。その間に私は………」
「その間にガンフィ様には、王宮を掌握していただきます」
ガンフィの言葉を遮り、ユルドがピシャリと言い切った。
「ユルド殿、掌握とは、どういうことだろうか?」
「現国王には退位していただき、ガンフィ様に王位についていただきます」
「「なんだと!?」」
ガンフィとラーシュが揃って声を荒げた。ふたりにとって、ありえないことをユルドが言ったらしい。
「ガンフィ様が王太子になられてすでに10年経っております。すでに、王となられるに相応しい教育も終えていらっしゃるのでしょう?なんの問題がありますか」
「陛下はいまだ健在で、また、治世にも問題はない。なぜ私が王になる必要がある!」
「その陛下が、ガンフィ様を恐れて暗殺を企てた張本人だからでございます」
「ばかな!そんなはずはない!」
ガンフィが叫びながら、イヤイヤをするように頭を振った。ユルドの話を認めたくないと言っているようだ。
それにしても。ハノーヴァー国王が王太子を殺そうとしたの?どうして?なんのために?ううん。理由なんてどうでもいい。親が子供を殺すなんた、そんなことあっていいの!?
ガンフィと過ごした時間は少ないけれど、いい人なのはわかる。ギベルシェンにも、ゴーレムにも分け隔てなく接していて素晴らしいと思う。
ガンフィが王になれば、差別の少ない優しい国になるだろうと思う。だって、ガンフィは相手を見た目で判断する人ではないから。
だけど、ラーシュは?
以前、ラーシュはこう言っていた。「私は国王陛下の剣です。国王陛下がガノンドロフ殿下を斬れとおっしゃるなら、斬ることもあるでしょう」と。
いまもその考えは変わらないのかな。
いまも、ラーシュはガンフィを斬るつもりでいるのかな?それなら、自由にはしておけない。ラーシュの答え次第では、地下牢に閉じ込めなくてはならない。殺すことは………できないから。
わたしは、ラーシュになんと質問すべきか悩んでいた。
ぬおおおっ!
気合いで書いてます!